悲しきゾンビ<Ⅱ>
「危ないところ本当にありがとうございました。昼間だからと完全に油断しておりました」
手を祈るように合わせて俺に感謝を表してくる。
「俺も驚いたけどね」
「そうですね。ですがそれ以上に平穏なアンデッドを初めて見ました」
「俺の方は直視するのがかなり厳しかったよ」
「わたくしも、未だになかなか慣れません」
「あんまり慣れたくはないかな」
出来ればスプラッター相手に相談に乗るのは今回限りにしてほしい。
「それにしても、ああいうのは夜出てくるものじゃないのか」
「ええ、基本的にアンデッドは夜間の方が活発になります」
「一応……って、そうなんだ」
「通常朝になると日の当たらない場所に逃げるようです。ですが昼間でも動きに制限がかかるだけで動けなくなるわけではないようです。たまたま近くにわたくしたちがいたので動き出したのでしょう」
「まじかぁ……こんな長閑なところでも出てくるのか。なんか地雷みたいで怖いんだけど。しかも夜になるといっぱい出てきて動きも良くなるってマジで勘弁して欲しいな」
「そうですね……」
「もしかしてまだその辺にいたりして」
「今のはおそらく、はぐれたんだと思います」
「はぐれる?」
「ええ……ゾンビは単体で動くことはあまりないので、おそらく近くにはもういないと思います」
そういえば映画でも単体って結構少ないよな。
「そうか、それなら助かるよ」
着いて早々に死ぬなんて勘弁して欲しい。
「しかし、おしっこで滑ることになるとは……」
「な、な、な!? あうあう……、も、申し訳ありません……」
「あ、いや冗談だから、そこは普通の水たまりだったから」
「も、もう……」
「おっと……」
「どうなさいました?」
あれ? 普通の流れだとヒロインがここで怒って思い切り殴ったり蹴ったり、果ては決闘申し込まれたりって流れじゃないのか。
最初に叩かれたけど、あれは不用意すぎる発言だったか。
「いやなんでもない」
ふと、先ほどのゾンビが着ていた衣服が目に入る。
申し訳ないと思うが少しばかり漁ってみると、少量のコインと小型のナイフを見つける。
武器も何もないからこれはありがたい。元の持ち主には悪いが使わせてもらおう。
コインの方は……、うーん。ネコババみたいだけど、今は文無しだし背に腹はかえられないし貰っておこう。
「そういえばゾンビって武器は使わないんだな」
「使わないと思います。生前の記憶は一切なくなるらしいので本能的に殴ったり噛んだりするだけです」
「そうなの? でもさっきははっきりと話が出来たけど」
「それに関しては凄く驚いております。アンデッドの常識が覆されてしまいました」
「それを俺に言われても」
「どうして貴方だけは話すことが出来るのでしょう」
「俺にもさっぱり分からないけど、もしかしたらこれが勇者特権とかだったりして」
「色々な勇者の逸話がありますけど、アンデッドと意思の疎通が出来るなんて話は全く聞いたことがありません」
「普通はそうだよな。アンデッドとお話が出来るスキルなんて聞いたことがないし」
これがあのおっさんが言っていた特典ってやつなのだろうか?
そうだとしたら全然戦闘には役立たないじゃないか……ってわけでもないか。これで戦いは回避出来たんだし。
それでもちょっと微妙な気がする。
「アンデッドに噛まれると自分もアンデッド化するのかな」
「そういった話は聞いたことありませんね。ヴァンパイアなら吸血行為で同族にさせるって伝説はありますけど」
「なら最悪攻撃を受けたとしても冷静でいるようにしないとな」
でもバイ菌だらけの爪や歯に傷を受けたら悪い病気になりそうだけど。
それにしても初めて死体を見たはずだが意外にも冷静なのはなんでだろうか。
死体って言っても動いてたからか? それともテレビや映画で見馴れているからだろうか。
いやただ単に必死だっただけかもしれないけど。
「この音……今度はなんだ?」
「馬……の音ですね」
馬の蹄の音だろう。こちらに近づいてくるのが分かった。
「貴様達! ここで何をしている!」
3人の騎兵がこちらに向かって走ってくる。
「あの方は……聖女様! おのれ賊が!」
おっと……、いきなりのテンプレ発言と来たか。
それでも、なんか扱いが酷すぎじゃないか。
この後の流れが分かってきたかも。
「聖女様が危ないっ! そいつを引っ捕らえよ! 抵抗するなら殺しても構わんっ!」
なんかえらく物騒なことを言ってないか?
中央の騎兵はどうやら女性で威勢良く剣を俺の方に突き出して突っ込んでくる。
「ちょ、ちょっと待て!」
ああもう……次から次へと!
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