悲しきゾンビ

悲しきゾンビ<Ⅰ>

「ああ、どういうわけか良く分かる」


『ア、アア……キセキ……キセキだ……』


「慈悲深き大地の女神よ……」


「ちょっと待って!」


「え……勇者様、何故ですか」


 呪文を唱え始めたのを止めた俺に、怪訝そうに見るセレーネ。


「大丈夫だ。少し俺に任せてくれ」


「で、ですが相手はアンデッドですよ」


「いいから」


『タノミがアル……』


「頼み?」


『オレのハナシをキイテクレ……』


「話を?」


『タノム……、オレのハナシ……、ハナシを……』


「分かった。じゃあ聞くから話してくれ」


『……アリガトウ。カンシャすル』


 俺はその辺の切り株みたいところ座り込むと、ゾンビは対面で地面に座り込む。


「え、ええ!? 嘘っ!? あ、アンデッドが……アンデッドが座りました!?」


 セレーネがいちいち驚いている。


「そんなに驚くことか?」


「凄いことです!」


 そうなのか。

 改めてゾンビを見てみる。


 う、うーん、ダメだ。生々しすぎる。メチャクチャスプラッタだ。つかこの人、いやゾンビは俺のこと見えているのか?


『こんな、スガタでスまない』


「おっと、すまん顔に出てたか。って見えているのか?」


『イヤ……、顔は見えていない。目はほとんど見えない。気配だけだ。音も聞こえない……。だがナゼかお前の声だけは聞こえる』


「そうなのか、大変だな。それで話ってのはなんだ」


『オレはやはり死んだんだな』


「ああ、まごうことなく死んでいるだろうな」


『そうか……』


「あのさ、この状態で生き返らせることは可能なの?」


「え、あ、あの……申し訳ありません。わたくしが知る限り難しいと思います」


 セレーネは申し訳なさそうにしていた。


「そうか……、どうやら生き返らすのは無理らしい」


『ああ、かまわないさ』


 なんだか徐々にゾンビの言葉が鮮明になってきた。


『オレはジダの村にいたんだが。家族の反対を押し切って戦争に参加したところまでは憶えているんだが……』


「おそらく、その戦争で死んだと」


『ああ、その戦争で村が巻き込まれそうだったから、家族や近所の人達が気になっていてな……』


「え、えーっと……、ジダの村って知ってる? この人そこの出身で戦争に巻き込まれていないか心配なんだって」


「ジダの村でしたら一月ほど前にわたくしは寄りましたけど普通にありましたよ。戦争の被害もなかったはずです」


「だそうだ」


 ゾンビにそのまま伝えた。


『アア……そうか……良かった。諦めていたが……、イキノコッてくれたか……』


「そうらしい」


『ワカッタ……スマナイが……、オレをハカイしてくれないか……』


 ゾンビの声の鮮明さが失われてく。


「破壊? オレじゃ君を倒すのは難しそうだが……」


「どうかしたのですか?」


 俺の声は両方に聞こえているみたいだが、両方とも俺の声しか聞こえていないのが少々厄介だな。


「このゾンビが破壊して欲しいと言っている」


「え、ゾンビが自らそれを望むのですか? ……そ、そうですか。それでは、わたくしがやってみます」


「破壊するの?」


 セレーネはゾンビの肩に手を置く。


「慈悲深き大地の女神よ。このものの魂をあるべき場所に還したまえ……」


 その言葉にゾンビの身体が徐々に輝き始めた。


『セイショクシャさまがイラっしゃったのか……そうか、ヤット……ヤット終ワレル』


 その輝きは一つの光となって浮かび上がり、ゆっくりと上空に飛んでいく。

 そして骸となったそれは徐々に砂の構造物のよう崩れていく。


『カミのミチビキがあるとしたら、コレこそ……アリガトウ』


 そう言い残してゾンビは消えていった。

 ちゃりんとゾンビが身に着けていた服や装備が地面に落ちる音がした。


 彼女は聖職者だっけか。

 つまりアンデッドを無に帰したのか。


「今の魔法ってなんだったの」


「ターンアンデッドの一種ですが初めて使いました」


「え、どういうこと?」


「ターンアンデッドは強制的に魂をあるべき場所に還す魔法ですが、今のは言ってみればただの葬送と同じです」


「そうなんだ」


「今のあいつ、最後にありがとうってさ」


「本当に、言葉が分かるのですね……」


「どういうわけか分からないけどね。彼らは何かを言いたくて徘徊しているらしい」


「そうですか……良かった……ちゃんと天に召されていたらいいのですが」


 そういってセレーネは空を見上げる。

 魂がちゃんと戻れたのかが心配なのだろうか。


 ていうか、アンデッドってどうなってんだ。

 本当にそういう存在なのか。それとも何かギミック的なものでも仕込まれていたりすのだろうか。

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