第8話 緊急ライブ~始まり~
「邑月 華菜ちゃん、呼んで貰えるかな?」
私のクラスに訪れる先輩。
「おーい、邑月ーー、廊下、人呼んでる」
私は廊下に出る。
ドキッ
まさかの先輩の姿に私の胸が大きく跳ねた。
「先輩?」
「はい、これ! 大事な商品、お返しします」
「大事な商品って……」
渡されたのは、私の自作品の作詞。
「余り良い作品ばかりありすぎて目移りしたよ。正直、全部って言っても良い位だったから。アルバム1枚作れちゃうね」
「えっ!? そんなにですか!?」
「うん」
「………………」
「そんな中、厳選して選ばせて貰ったよ」
「そうなんですね」
「本当、凄いと思ったよ。全部と言って良い程、メンバーに好評で……この沢山の中に実体験あるの?」
「ないとなると……嘘になります」
「そうなんだね。それじゃ、返したから」
「はい。わざわざすみません。ありがとうございます」
去り始める先輩。
私も教室に戻り始める。
「華菜ちゃん」
「はい?」
歩み寄る先輩。
「先輩?」
「イブの日、都合つくなら俺に時間くれない?」
「えっ?」
「それじゃ」
『イブの日、都合つくなら時間くれない?』
どういう事?
つまりそれってイブの日、先輩と?
私は深く考えなかった
それは
あなたが好きだから
この想いは
ずっと止めたまま
あなたへの想い
いつか溢れてきそうで
怖い…………
期待してしまう自分がいるから
私だけの先輩になった瞬間―トキ―
私はきっと
不安な毎日になりそう
だって…………
あなたは優しくて
カッコイイ
みんなの王子様だから ――
12月24日。クリスマスイブ。
「華菜ちゃん、華菜ちゃん」
騒々しく私の元に駆け寄る蓮歌ちゃん。
「何? どうしたの?」
「今日、緊急ライブするだって!」
「緊急ライブ?」
「うん! 竜信君達」
「そうなんだ! 凄いね! クリスマスイブなのに大変だね」
「いやいや、暢気(のんき)に言ってないで、イブだからこその緊急ライブで、先着順で限定人数しかチケット手に入らなくて既に完売寸前なんだよ」
「先着順!? そうなんだ」
≪ライブするんだ≫
≪となると先輩の都合つかないよね?≫
なんだかんだいって
ちょっと
いや
凄く期待してたかもしれない私がいたりした
無理だって分かっていたのもあり
正直
半信半疑だった
正直、先輩を一目見たいのもあるけど蓮歌ちゃんの、この様子じゃ、かなり厳しくも難しいと思われるチケットなのだろう?
そこへ ―――
「おいっ!」
私達の所に芳川君が来る。
「あっ! おはよう! 芳川君」と、私。
「ああ。おはよう」
「あっ! 竜信君、チケット頂戴!」
蓮歌ちゃんが言う。
「何の?」
「今日のライブチケット!」
「無理!」
「ちょ、ちょっと! クラスメイトなのに私達二人分位何とかしてよ!」
「他のメンバーに言えば?」
「先輩達に頼める訳ないでしょう?」
「大丈夫だって!」
「簡単に言わないでよ! あんたしかいないんだからね!」
二人は騒ぐ中、その光景を見てると、つい笑ってしまう。
「華菜ちゃん! 笑ってないで何か言ってやりなよ! 」
「二人見てると、仲良いなって思って」
「いやいや、私達の事は、どうでも良い話だから。そんな事よりも、華菜ちゃん、先輩見れるチャンス無くなったんだよ!」
「えっ? いや……私は別に……」
「えっ!? やっぱ、邑月、先輩狙い?」
「いや……そういう訳じゃ……」
「残念だったな。つーか、チケット、もう完売したって」
「嘘っ!?」
「本当、今、連絡あったし」
「そんなぁ~……」
「つーか、邑月は違うとしても先輩は満更じゃない気がするけど」
ドキッ
芳川君の意外な言葉に胸が大きく跳ねた。
「えっ!?」
体が熱くなり顔も一瞬赤くなった気がした。
「えっ!? 何!? 今、一瞬、赤くなったの気のせい?」と、芳川君。
「ち、違っ!」
「やっぱり先輩には、華菜ちゃんが相応しいって! 竜信君もそう思うよね?」と、蓮歌ちゃん。
「いや……俺は美人系だと思う」
「いやいや、可愛い系もありだよ!」
「だけど……同性の俺が言うのも気持ち悪いというか変な感じだけど、先輩は確かにカッコイイと俺は思う」
「…………」
「美男美女カップルの見た目もありだろうけど、可愛い系女子もありなんじゃねーの? あれだけカッコイイなら多少のレベルの女子じゃねぇと先輩とは映えない」
「分かる!」
「邑月、自信持って良いと思うけど?」
「えっ?」
「そうだよ!」
「ほらっ!」
私達の前に2枚の紙が視界に入る。
「えっ? えっ!? えええっ!! ヤッター! マジっ!? 嘘っ!?」
蓮歌ちゃんは、かなり興奮気味に喜んでいるのが伺える。
「竜信君、ありがとーっ!」
「あー、うるせーな! お礼なら邑月に言えよ!」
「ありがとー華菜ちゃん!」
私は、まだ何が何だか分からない中、
蓮歌ちゃんに抱き付かれた。
「それ、特別チケット」
芳川君が耳元で言う。
「えっ?」
「ライブ時間前後に控え室に来れるしステージ横から見れる願ってもいない超至近距離のレアチケット!」
「そうなんだね?」
「お前もっと喜べよ! 先輩が近くで見られるんだぞ!」
芳川君が言う、その距離感が想像つかない。
「つーかさ、あんだけの作詞書いてる、お前の頭ん中の脳ミソどうなってんの? 解剖してみたくなった」
「辞めて!」
「とにかく渡したからな!」
ライブ時間。
「うわー凄いね!ヤバイっ! 近い!」
「うん」
そして、私が書いた作詞が歌われた。
ドキン……
≪嘘……私の書いた作詞が曲に……?≫
私は涙がこぼれた。
「華菜ちゃん、マジ近い……華菜……ちゃん……?」
「ご、ごめん……先輩を……こんなに近くで見れた事も嬉しいけど……今、こうして私が書いた自分の作詞したのが……こんな形で曲になっているのが信じられなくて……」
「華菜ちゃん……だから言ったじゃん! 良かったね! 華菜ちゃんは絶対才能あるんだよ! こうやって音楽になってるんだから」
私達はライブを楽しんだ。
私は先輩の横顔を見つめながら
先輩……私はあなたが好きです
だけど…………
この想いは届かない
あなたに伝える事は出来ない
だって……
あなたはみんなの
大切な人だから…………
その日のライブ終了後 ―――
「あれ? 宇江谷、邑月は?」と、芳川君、
「急用って帰っちゃった。一緒に行こうって誘ったんだけど……」
「一人じゃ危ねぇだろ?」
「止めたんだよ!」
「宇江谷さんって言ったね、まだ、そう時間経ってない感じ?」
「あ、はい」
「ありがとう! 俺帰ります! お疲れ様です!」
「圭悟、彼女にお礼しといて。ほら! メリークリスマス!」
「了解! メリークリスマス!」
「華菜ちゃん!」
「えっ!? 圭悟先輩? どうしたんですか?」
「クリスマスイブの奇跡を信じて君を追いかけてきた」
ドキン
胸が高鳴る。
「……先輩……まるで歌詞のフレーズみたいですね?」
「えっ? そう? それに時間の都合がつくなら時間くれない? って……言った事、俺、立候補していいかな?」
「えっ!? 」
「都合どう? 急用あるって友達から聞いたんだけど……」
「それは……大丈夫です」
「良かった。あっ!これ、俺達からクリスマスプレゼント。ほんのお礼だから大した物じゃないけど……俺からは個人的に君にお礼したいから今からクリスマスデートしない?」
ドキン
まさかのお誘いに胸が大きく跳ねた。
「えっ? いや……でも私達はそういう……」
「フレンドデート。それなら良い?」
「はい」
「ヤッター!」
ドキン
無邪気に喜ぶ先輩の笑顔に胸が高鳴る。
私達はフレンドデートをした。
「圭悟先輩」
「何?」
「圭悟先輩は彼女つくらないんですか?」
「彼女?」
「はい。あ、でも今はそれ所じゃないですよね? バンド組んでるし、来年は進路で忙しいですから」
「まーね。だけど、好きな人出来たら想いは伝えるかな?」
「じゃあ、その好きな人はいないんですか?」
「いるよ」
ズキン
胸の奥が痛んだ。
「えっ!? だったら私とフレンドデートしてる場合じゃないですよ。好きな人に誤解……」
「華菜ちゃんで良いんだよ」
「えっ?」
「俺の中で華菜ちゃんは特別だから」
ドキッ
胸が大きく跳ねた。
「えっ? 先……」
フワリと抱きしめられ、先輩の胸の中にスッポリとおさまる。
「俺と付き合って欲しい」
ドキン
≪嘘……まさかの相思相愛!?≫
「えっ? 先輩……私じゃ不つりあいですよ。先輩カッコイイし、私よりも……」
ドキン
オデコキスされた。
「俺は華菜ちゃんが良いから……俺が好きになったんだから自信持って良いんだよ」
「……先輩……」
私は先輩を見ては、抱き付く。
「華菜ちゃん?」
「私も……先輩が……好きです」
「えっ? 華菜ちゃん?」
顔をあげる私。
「私……先輩の事……一目惚れ……」
キスされた。
ドキン
「華菜と俺……同じ一目惚れ同士だったんだね」
「えっ?」
「俺も一目惚れして……前にキスしたのも余りにも可愛い過ぎて……つい……改めて宜しくね。華菜」
「はい!」
私達はもう一度キスをし私達の恋人としての付き合いが始まった。
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