第6話 初ライブ

それから一ヶ月が過ぎ ―――12月


「華菜ちゃん」

「何? 蓮歌ちゃん」

「華菜ちゃん、ライブとか好き?」

「えっ!? ライブ!?」

「うん」


「好きとか嫌いとかないけど、私……正直行った事がなくて」

「えっ!? マジで!?」

「うん」

「じゃあ、今度一緒に行ってみない?」

「えっ?」


「これライブのチケットなんだけど」

「えっ? でも私行った事ないから浮くと思うし蓮歌ちゃんに迷惑かかっちゃうよ」

「大丈夫だよ! 初めてなら尚更、一度は体験すべし!」


私は初めて蓮歌ちゃんとライブに行く事にした。



「華菜ちゃん、ごめんっ! 遅くなって! 行こう!」


「うん」



次の瞬間 ―――



ドンッ


誰かとぶつかった。



「きゃあっ!」



パラパラ……


自作品の作詞が宙を舞った。



「あっ! すみませんっ!」


と、蓮歌ちゃん。


「大丈夫? 華菜ちゃん」

「うん。ごめん……あの……すみません! 大丈夫ですか?」


私も一先ず謝った。



「ええ。俺も急いでいたので……あれ? 邑月?」


「えっ? 芳川君!?」

「竜信君!? えっ? 待って! ちょっとライブ間に合うの?」


「えっ? うわっ! ヤベッ! また姉貴に怒られる!」

「えっ? ライブ?」

「うん。竜信君、今日のライブのメンバーの一人なんだ」


「えっ? 芳川君、こっちは良いから行って良いよ」


「そうだよ。私達は、多少良いけど、竜信君、遅れる訳にはかないから」

「悪い! じゃあ、行かせて貰う。後でな」



私達は、別れた。



「ごめん、蓮歌ちゃん」

「ううん、良いよ。て、いうかこれ作詞? ポエムじゃないよね?」

「あ、うん。趣味で作詞書いてて」

「凄くない?」



私達は、拾い集める。


「全部ありそう?」

「うん……多分。ごめん時間ロスしちゃったね」

「大事なものなんでしょう?」

「平気。ないなら無いで仕方ないよ。行こう!」



私達は、ライブハウスに向かった。




「竜信っ! また、あんたは!」

「仕方ねーだろ!」

「まぁまぁ。二人共」

「さあ、みんな揃った事だし音合わせしようぜ」



パラ……


竜信の楽器入れから何かが落ちる。



「竜信、何か落ちたぞ」

「えっ?」

「……なあ……これ……作詞?」

「作詞? いやいや、俺、書いた事ないですし」


「じゃあ、何だよ。……つーか……これ……良い詞書けてんじゃん」

「耕二(こうじ)さん。見せてもらって良いですか?」

「ああ」

「……これ……間違いなければ、とある女の子が書いている詞ですよ。多分」

「圭悟君、誰か知ってるの?」

「まあ……ちょっと……。ねえ、竜信、ここに来る前に誰かとぶつかったりした?」


「えっ? あー、そういやクラスの女子とぶつかった。邑月と宇江谷」


「じゃあぶつかった拍子に挟まったんだろうね。彼女に見せたらハッキリするはずですよ」




そして、ライブが始まり、ライブのメンバーを見て私は気付いた。


メンバーの中に、圭悟先輩がいる事に ―――



それから芳川君。


芳川君のお姉さん。

芳川 加須美(よしかわ かすみ)さん。


彼氏の

岸矢麻 耕二(きしやま こうじ)さんと


四人でバンドを組んでいるのだ。



ライブ終了後 ―――



「あっ!」



私は、ふと作詞の枚数を確認する。


なんだかんだいって大事なものだったりする。


引っ掛かって気にはしていたものの、あの状況で、これ以上は迷惑かけられないと思い半ば諦めていたのだ。



「華菜ちゃん、なんだかんだいって大事なものなんじゃん!」


「あはは……」



笑って誤魔化す。



「それで、どうなの?」


「うん……1枚足りない……かな?」



ふわりと背後から抱きしめられるようにされる中、私の鼻にほのかな香りがかすめた。



≪……香水……?≫



スッ

私の目の前に紙が ―――



「これだよね?」



ドキン

そして何処か聞き覚えのある声

だけど確信なんてしてる訳じゃなく



「えっ? あっ!」


私は紙を受け取る。


「良かったぁー! ありがとうございます!」




そこには ―――


ドキーッ

私の心臓が飛び出す勢いで大きく跳ねた。



「け、圭悟先輩っ!」

「どうも!」


「えっ? 華菜ちゃん、知ってたの?」

「偶々、屋上で、顔見知りになっちゃって……でも、バンド組んでる事は知らなくて……」


「そうだったんだ。あっ! 先輩、ライブ良かったし最高でした!」

「そう? それは良かった」


「華菜ちゃん、初ライブに参加して弾けてましたよ!」

「そうなんだ! また観においで」



ドキン

笑顔を見せる先輩に胸が大きく高鳴る。



「あ、はい!」と、私。

「もちろん、お友達の子も」

「は、はい!」



その見せる笑顔は対等で


みんな先輩の虜 ―とりこ―


特別になったら


一人占め出来るのに……




私達は、少しして別れ、蓮歌ちゃんと帰っている時だった。



「華菜ちゃん、作詞書いてたじゃん?」

「うん」

「せっかくの作詞なのに歌って欲しいと思わないの?」

「えっ!?」


「せっかく書いてるのに活かした方が良いんじゃない?」

「あー良いの、良いの。別に、それを目的でしてる訳じゃないし。ただの趣味だから。第一、恥ずかしいよ。だって世間に知れ渡るんだよ」


「だけど、勿体ないと思うよ?1つの才能だよ! 一回、竜信君達に頼んでみたら?」


「えっ!? ヤダヤダ!無理、無理!つーか恥ずかしいってば! 第一、芳川君が組んでるバンドも作詞書く人いるんだろうし。私がそんな……」


「良いじゃん! 先輩知ってる様子だったし」

「頼めないよ」

「どうして?」

「どうしても!」


「ちなみに華菜ちゃんの好きな人は、ズバリ先輩だったりする?」



ギクッ



「えっ!?」

「図星!」

「ち、違うっ!」

「隠さなくても良いよ。華菜ちゃん、可愛いしうまくいったらお似合いだと思うよ」

「いや、あれだけカッコイイ先輩なら、やっぱり美人系だよ!」


「いや、美男美女カップルよりも、先輩には可愛い系がお似合いだと私は思う」



私達は騒ぎながら帰るのだった。

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