第32話 運命の扉が開く時
運命の扉はいくつもあるらしいのだけれど、その数を正確に把握している者は誰もいないらしい。一度数えようと思ったことがあるらしいけれど、その数を数えている間にも部屋は増えていたようで、数を数えること自体が無意味だと目の前にいるギャルにしか見えない管理人がそう言っていた。
「ウチも実際に数えたことはあるんだけどさ、数えている途中で最初の部屋と廊下の間の壁にも扉が増えてたりしたんだよね。扉の中に入れば何かわかるかもしれないんだけど、中に入るには最低でも四人必要みたいなんだよね。ここって、ウチと占いのおばさんしかいないから扉を開けることが出来ないんだけど、あんたたちが協力してくれたら扉の向こう側を調べることもできるんじゃないかなって思ってさ。ここに来たってことは、協力してくれるってことでいいんだよね?」
「協力っていうか、扉の向こうに行ってみたいんだけど、力が制限されるってのはどれくらいなんですか?」
「そんなのわからないよ。誰もこの扉を開けたものがいないんだからね。そもそも、その制限ってのが本当なのかもわかってないんだよ。四人必要だっていうのも、この扉に描かれている絵が四人だからそう思ってるだけでさ。ドアノブを握ってもらえればわかると思うけど、この人の絵の色が変わって光るんだよね」
私はその説明を聞いてドアノブを握ってみると、とてつもない倦怠感に襲われてしまった。体の奥から力を奪われているようで、ドアノブを握っているだけなのに物凄く運動をした後の疲労感も感じていたのだ。扉に描かれた四人の絵を見てみると、一番ドアノブに近い人のつま先から脛あたりまでが淡い光を浮かべていたのだった。
「もう無理、本当にしんどい」
「お姉さんはあんまり強くないんだね。私より光る面積が少ないからそう思ったんだけど、ほかの人も一緒に握ってみるといいんじゃないかな。でも、君たちみんなで握っても全員光らないかもしれなよね」
「今までで一番光ったのってどこまでなんですか?」
「何年か前に体の半分を悪魔化した人が二人半くらい輝かせたのが最高かな」
「悪魔化って?」
「お姉さんは何も知らないんだね。戦闘向きじゃないから仕方ないかもしれないけど、倒した相手の一部を奪い取る能力者がいるんだよ。この世界を作った悪魔がそんな能力を持っていたみたいで、極稀にそんな人が生まれるんだってさ。転生者ではなくこの世界の住人限定みたいだけど、今まで会ったことなかったかな?」
「そんな人がいるんだ。ルシファーは知ってる?」
「俺はそんな奴は知らないけど、確かに、その能力は俺の力の一つではあるな。この世界を創り直した時に、俺の能力に反応してそのような力を持った奴が生まれたのかもしれないな」
「へえ、お兄さんがこの世界を創り直したっていうんだ。なかなか大きく出たね。ルシファーって神話に出てくる創造神と同じ名前だけど、その名前を付けるなんてお兄さんの親は自分の事を神だとでも思っているのかしらね」
「親というか、自分とルシフェル様を生み出したのは、あなたたちの言葉でいうと唯一神ってやつっスよ。この世界では邪神扱いされているみたいっスけど、自分はそんな間違っていることを正したいっス」
「世界を創りだしたルシファーのを生み出したのが邪神だなんてとんでもない説が出たわね。そんなトンデモ説を生み出したのって誰なのかしら?」
「誰なのかしらって言われても、自分たちがそうだから仕方ないっス。自分は何も間違ったことは言ってないっス」
「そう思い込むのは仕方ないけど、この世界は邪神と戦って勝ち取った世界って言われているのよ。邪神が何で自分を倒す相手を生み出すのよ。意味が分からないじゃない」
「そんなこと言われても真実がそうなんだから仕方ないっスよ」
ミカエルがそういいながらドアノブを握ると、扉の絵のうち三人目までが光り輝いていた。もう少しで四人目が光りそうだというところまで来ているのだけれど、急にミカエルのテンションが急降下してそのまま座り込んでしまった。
「この扉は何だかおかしいっス。ほとんどの力を持っていかれるみたいっスよ。もしかして、天使の力を吸い取る術式でもかけられているんじゃないっスかね」
「天使の力って、あんたは何を言っているのよ。自分が天使だとでも言うわけ?」
「そうっス。自分は正真正銘の天使っス」
「ちょっと待ちなさいよ。天使が人間と一緒に行動するわけないじゃない。天使って、こう、人間を見ると無差別に襲って家畜とか奴隷にしようってやつでしょ」
「それは誤解っスよ。中にはそういう天使もいるんっスけど、そういった天使は下級の末端でしかないっス。そんなことをしているから末端の天使でしかないってこともあるっスけど、少なくても自分はそんな事はしないし、これからもするつもりはないっス」
「いやいやいや、そんなこと言われても信じられないんだけど、あんたが誰よりも強いってのはわかったわ。子供だと思っていたけど、見た目で判断するのは良くないみたいね。そっちの男の人は神官なんでしょ。神に近い世界で過ごしているんだからそれなりに力はあるんでしょうし、あんたも握ってみなさいよ」
正樹はそう言われると嫌々ながらもドアノブに手をかけた。しかし、扉は何の反応を示すこともなかった。正樹は全く疲れることもなかったらしく、普通に手を放して普通に戻ってきた。
「どうして何の反応もしないのよ?」
「いや、反応はしていたよ。僕から力を吸収するんじゃなくて、僕に力を与えてくれていたみたいだよ。与えるっていうか、押し戻されているって感じかな。ちょっと嫌な感じもしてるんだよね」
「意味が分からないんだけど、次はそっちの女の子が試しなさいよ。いい、最初のお姉さんとさっきの天使男と併せて四人光るようにするのよ。それが出来れば扉が開くと思うんだからね」
「ごめん、俺が先に試してもいいかな?」
「駄目よ。あんたが触るとすぐに開きそうな気がするし、そうなったらこの二人が試すことも出来ないじゃない。だから、あんたは一番最後よ。まずは、戦闘向きじゃないメガネの女の子から試しなさいよ」
そういわれて恐る恐るドアノブを触ろうとするアイカではあったけれど、なかなか触ろうとはせずにビクビクしているようだった。ちょっとだけ触れることもあったのだけれど、しっかりと握ることが出来ずにいるみたいで、見ているギャルのイライラもたまりつつあるようだった。
「もう、触れないなら触れないって言いなさいよ。はい、もういいから次の人」
今度はあさみが試してみたのだけれど、最初こそアイカと同じようにビクビクしていたのだが、一度触ると慣れてしまったようで、その手はしっかりとドアノブを握っていた。残念ながら、一人目の足首くらいまでしか光っていなかったのだ。
「はい、最後のお姉さん。ちゃっちゃと行くわよ」
みさきは何の躊躇もなくドアノブを握ったのだけれど、私よりも少しだけ光らせるにとどまった。私たちの中で戦闘向きなのはルシファーとみさきだけなので期待はしていたのだけれど、私とそれほど変わらない結果に終わったのは意外だった。
「じゃあ、自称ルシファーさんどうぞ」
満を持してルシファーの出番となったわけだが、ルシファーがドアノブに手をかざして握ろうとした瞬間、四人の絵が激しく輝きだし、閉じていたはずの扉がスライドして開いた。
「え、触れることなく開いたんですけど、いったい何をしたの?」
ギャルは目を丸くして扉とルシファーを交互に見ていたのだけれど、そんなのはルシファーにだってわからないだろう。
「さあ、開いたけど、みんなで中に入るかい?」
私たちは一瞬顔を見合わせたけれど、答えは決まっている。
「うん」「遠慮しとく」
そう答えたのだ。
って、正樹とみさきは遠慮するってどういうことなの?
「僕も行きたいのはやまやまなんだけど、この扉の向こうは僕に合わない気がするんだよね」
「合わないってどういうこと?」
「うまく言葉では言えないけど、さっき握ったときに拒絶されているように感じたんだよ」
「うーん、みんなで行った方が楽しそうなんだけど、仕方ないよね」
「うん、ごめんね。僕は他に行ける場所がないか試してみるよ」
正樹は私たちにそういいながら違う扉に手をかけたのだけれど、その扉は今まで動かなかったことが嘘のように軽い力で開いてしまった。
「あ、ちょうど開いたから僕たちはこっちの世界を見てくるよ」
「待って、マー君がそっちに行くならあたしもそっちに行く」
「それなら自分もそっちに行くっス。何かあった時の為に自分が二人を守るっスよ」
「ああ、なんでそんなに簡単に扉を開けるのよ。今まで私たちがしてきた苦労は何だったのよ。もういいわ、私もお兄さんについていくことにするわよ。あっちのお兄さんはちょっと怖そうだし、優しそうなお兄さんの方がいいよね」
そう言って正樹に近寄ったギャルではあったけれど、みさきの手によってがっちりとガードされていた。
「え、お兄さんとお姉さんってそういう関係だったの?」
「そうだけど、何か文句でもあるの?」
「文句はないけど、一緒に行動してる仲間にカップルがいるのって、女の子が多いあなたたちは仲間割れとかしないのかしら?」
「するわけないじゃない。あたしとマー君の仲を裂くことが出来る奴なんていないんだからね」
「まあ、いいわ。私の名前はマヤよ。これからしばらくの間はよろしくね。お兄さんもお姉さんも仲良くしましょうね」
最初に名乗れよと私は思っていたけれど、なんとなくその場は皆であいさつを交わして終わったのだった。とにかく、扉の向こうがどうなっているのか確かめることにしよう。
私とルシファーとあさみとアイカ。
正樹とみさきとミカエルとマヤ。
アイカは見たこともない世界に旅立てることがうれしいようだった。
あさみは私と一緒でそれほど興味が無いようだった。
正樹とみさきはいつもと変わらず二人の世界に入り込んでいるようだった。
ルシファーとミカエルは何かやり取りをしている様子だった。
マヤは私をじっと見つめていた。
「ねえ、あなたって巫女なんでしょ?」
「一応そうですけど」
「巫女って神の使いだったと思うんだけど、なんで天使と堕天使と一緒に行動してるわけ?」
「さあ、なんででしょうね。しいて言うならば、成り行きってやつですかね」
「そう、いつか、どちらかを選んでどちらかを拒絶しなきゃいけない場面が来るかもしれないわよ。あんたたちを見ていると、そんなことはなさそうだけどね」
そう言ってはにかんでいたけれど、私にはその言葉がなぜか心に残ってしまった。でも、その言葉の意味をちゃんと理解することはできなかった。
「さあ、この先がどうなっているのか確かめに行くわよ。二手に分かれちゃうけど、ちゃんと戻ってこようね」
「うん、お姉様たちも気を付けてね。あたしはマー君と一緒だから何が起きても大丈夫だもん」
私たちはこうして別々の世界へと旅立つことになったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます