第28話 同窓会

 私はいつも兄や姉に比べられていた。私はそれなりに成績も良かったのだけれど、兄と姉が優秀過ぎてしまったので、家では落ちこぼれの烙印を押されてしまった。兄も姉も国立大学に現役で合格していたのだけれど、私は受験に失敗してしまった。滑り止めで受けた大学には受かったのだけれど、両親や兄弟の視線が気になってしまって、私は逃げるように就職して家を出た。兄も姉もそんな私を心配して頻繁に連絡をしてくれているのだけれど、私は二人に対して上手く接することが出来ずにいた。両親から連絡が来ることはほとんどなく、二人の近況を教えてくれるのは兄か姉だった。


 私は勉強よりも仕事の事に頭を使う方が向いていたらしく、会社での評価はそれなりに高くなっていたと思う。人付き合いは苦手だったのだけれど、そんな私にも良くしてくれる人は何人かいたし、時には恋人が出来たりもしていた。私の恋愛は長くは続かなかったけれど、それもいい経験だと思っていた。

 入社して五年も経てばそれなりに生活も安定してきているし、大学に行った友達もどこかに就職していたりした。でも、たまに会って飲み会などを開いてみても、会話がかみ合わないことが多々あった。友人たちは入社して間もないし、私はもう五年目に突入しているのだ。同じ業界に入った友人もいたいのだけれど、業界歴は私の方が長いのだけれど、高卒と大卒という事だけで私を格下に見ているような節が多々あった。もちろん、同じ業界だったとしても会社によっては異なる部分が多いとは思うけれど、それでも高卒というだけで格下扱いされるいわれはないと思うのだが。

 

 そんな時に同窓会があったのだけれど、私はなぜかあまり仲も良くなかったクラスメイトに絡まれてしまっていた。


「アイカってさ、高卒で働いてるからもう五年目なんでしょ。凄いよね。もうベテランじゃん。でも、家の先輩がたって五年目だったら産休に入っている人多いかも。アイカはその予定無いの?」

「私は独身だし、今のところそんな予定は無いかな」

「ええ、やっぱり高卒だと相手の男もひいちゃうのかな。高卒と大卒じゃ将来性が全然違うもんね」

「どうなんだろうね。私のとこは高卒でも部長になっている三十代の人もいるし、大卒でも平の四十代の人とかもいるけどね」

「へえ、アイカのとこって人材にも恵まれて無いみたいね。私の会社の正社員は大卒しかいないんだけどさ、高卒だと入社試験の書類審査で落としちゃうみたいなこと言ってたんだよね。新卒は無理だけど、優秀な人だったら中途採用もあるみたいだし、アイカも優秀になって転職してきなよ」

「あ、私は今のところ転職する予定なんてないんだけど」

「もしもの話よ。もしものね。その気があるなら人事部の人に口聞いてあげるからさ、いつでも言ってよね」

「はあ、その気になったら連絡するよ」

「ちょっと待って、中途採用なんだけど凄い業績が無いと高卒は無理だったかもしれないわ。ごめんなさいね、私の彼の力でも高卒を採用することは出来ないかもしれないわ」

「そうなんだ。ソレなら気にしなくていいよ」

「そうそう、私の今の彼なんだけど、人事部で採用担当してるんだよね。でも、私みたいに美しい人にしか興味無いみたいだから、転職したくなってもあんまり期待しないでね」


 はあ、せっかく仲の良かった友達と会えると思ったのにな。親戚に不幸があったとか急な出張になったとかであんまり仲良くなかった人たちしかいないんだよね。親友とは時々あったりもしてるんだけど、仲の良かった子たちとは連絡も取り合ってないから今回は残念だったな。


「ねえ、アイカも二次会に行くんでしょ?」

「私は遠慮しておこうかな。明日も早いから」

「え、明日は土曜日なのに仕事があるの?」

「いや、仕事じゃいないんだけど、ちょっと出かける用事があるんだよね」

「そっか、明日から三連休だもんね。私も彼とディズニーランドに行く予定なのよ」

「へえ、そうなんだ」

「私は新入社員で給料がそこそこなんだけど、人事部の彼が今回の旅行費用を出してくれるって言ってるんだよね。優しい彼で良かったわ」

「それは良かったね」

「アイカはどこに出かけるのよ?」

「私は社員旅行だね」

「あら、この時代に社員旅行とかあるんだ。可哀そうに、どこに行くのかしら?」

「ちょっと、飛行機に乗って遠くまで……ね」

「やっぱり、社員旅行って言うと夜はお酌したりするのかしら。ちょっとそれは嫌ね」

「あ、社員旅行って言っても基本的には自由行動なんだよね。最初の一日だけは研修も兼ねて本社に行かないといけないんだけどね。そうそう、私も二日目と三日目のどちらかでディズニーに行く予定だよ」

「一人で?」

「いや、会社の同僚達と」

「そうなんだ。そんな時にまで会社の人と一緒なんて大変ね」

「そうでもないよ。意外と知らない事も学べたりするし、そういう経験が出来るのは楽しいからさ」

「それって、狭い世界で生きてきたからなんじゃないのかしらね」

「そうかもしれないけどさ、いくつになっても学べるってのは楽しい事だね」

「そんなに勉強が好きなら大学に行けばよかったのにね」


 何だろう、私に対してだけあたりが強いような気がしているんだけど、何か悪い事したっけな?


「そうそう、ディズニーで会えたら私が色々と教えてあげるわよ」

「うーん、たぶん会えないと思うよ」

「ま、あんなに広い場所でたくさん人もいる事でしょうし、会える可能性は低いかもしれないわね」

「いや、そうじゃなくて、私達が行くのはフロリダのだからさ。涼子の行くのって東京でしょ?」

「え、フロリダ?」

「うん、アメリカにあるフロリダのマイアミにあるんだよね」

「え、もしかして、同業でアメリカに本社があるって、あの会社なの?」

「多分、涼子が考えているところで間違いないと思うよ」

「どうしてそんな大企業に就職出来たの?」

「いや、私が入ったころはそんな事も無かったんだけど、二年前に買収されて子会社になったんだよね。来年から日本支店に変更されるみたいなんだけど、それの為の研修って事も兼ねているみたいだよ」

「もしかして、アイカって結構給料もらってたりするの?」

「私は他の会社で働いたことが無いんで比べたりは出来ないんだけど、給料が年俸制になってからは結構増えたかも」


 なんでこんな話になってしまったのかわからないけれど、涼子はグラスを持って移動すると、私にはそれ以降話しかけて来なくなった。

 代わりに、周りで私と涼子の会話を聞いていた友人が、私にフロリダに行く話を聞きたがっていたのだ。そんな事を聞かれてもまだ行っていないんだから感想なんて無いのに。


 結局私は半ば強引に二次会に連れて行かれたのだけれど、そこでも質問攻めにあってしまった。親友が参加できないんだったら私も参加しなければよかったなと少しだけ後悔していた。それでも、普段とは違う仲間と飲むのは楽しかった。


 三次会もあるみたいだったけれど、さすがにこれ以上遅くなってしまうと起きれなくなってしまいそうなので私は家に帰る事にした。同窓会の為に実家に帰って来たのだけれど、これなら参加しない方が良かったかもしれないなと思ってしまった。たまたま帰る方向が同じ人達と一緒にタクシーに乗り込んで中間地点にあるコンビニで降りたのだけれど、私は特に買うモノも無かったので飲み物だけ買って帰る事にした。

 会計を済ませてみんなそれぞれの家に向かって解散したのだけれど、いつもの帰り道が何となくいつもと違うように思えていた。お酒が入っているからではなく、何となく違うような感じを受けていたのだけれど、それが何なのかは説明が出来なかった。

 家に入るといつもならある家族の反応がそこには無かった。手を洗ってから飲み物をしまおうとキッチンに向かったのだけれど、リビングのテレビはついているのに誰も見ている人はいなかった。飲みかけのお茶も湯気が立っていたし、キッチンに入ると洗い物も途中のようだった。

 おかしいなと思いながらも冷蔵庫に買っていた飲み物をしまうと、後ろから小さな足音が聞こえたのでお母さんかなと思って振り返ろうとするとしたのだけれど、私にはそこまでの記憶しか残っていなかった。




「お姉さん、お姉さん。お姉さんの新しい人生の始まりだよ。今度は自分の好きな事をやっていいんだからね」


 私は聞き覚えの無い声で起こされたのだけれど、目覚めた場所は全くの知らない場所で、鏡に映っている私は昨日の姿のままだった。

 何が起きたのかわからなくなっている私に話しかけてきたのは十歳くらいにしか見えない少年だった。


「お姉さんはこの世界に転送されてきたんだけど、地獄に行くか新しい世界に転生するか選べるんだよ。どっちがいいかな?」

「え、地獄とか普通に嫌なんだけど」

「じゃあ、他の世界に転生しちゃってね」

「あの、私の家族はどうなったの?」

「ああ、お姉さんの家族なら、みんな地獄を選んだよ」

「なんで?」

「さあ、もう一度生きていくのが辛いって言ってたかも。お姉さんにはわからないストレスとためていたのかもしれないね」

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