第11話 統一法王庁へ行こう

 さて、これからの目的をどうしようかと考えていると、正樹とみさきが統一法王庁に行ってみたいと言っていた。私も興味があったのでそれに賛成なのだけれど、ミカエルの様子がなんか変だった。どうしたのか理由を尋ねてみると、それには意外な答えが返ってきた。


「統一法王庁に行ったら、自分達天使は迫害されてしまうっス。彼らは自分ら天使を目の敵にしているだけじゃなく、我が主まで邪神認定してるっス」

「あいつは邪神って感じもしてるしちょうどいいだろ」


 ルシファーのその発言にミカエルは少しムッとしていた様子だったけれど、それでもルシファーは気にしていないようだった。


「ルシフェル様がそんなんだから邪神扱いされて困ってるっス。他の神を自称しているやつらも邪神扱いしてくれるならいいんっスけど、我が主だけが不当に邪神扱いされているのはたまらないっス。自分は平気だけど、位の低い天使はこの世界で布教することも出来ずに困っているっス」

「この世界は信仰心じゃなくて生き返らせてもらえたかどうかで信仰しているからね。あの神は新しい生命を誕生させることは出来ても、死んだものを生き返らせるのは奇跡を起こしたいときだけだから難しいだろ」

「そうなんスよ。それがあるから我が主はこの世界で力を発揮できないんス。ルシフェル様ならこの世界の理を変えれると思うし、お願いしたいっス」

「ああ、俺ならそれを変えられるけど、変える理由なんて一つもないね。大体、あの神が出来なくて他の神々が出来る事だったんだからそうしただけで、変えたとしてもあの神が出来ないことにするだけだから結果は変わらないさ」

「どうしてそんな事をするんっスか?」

「俺があいつを憎んでいるからさ」

「そんな理由で納得できないっス」


 二人はもともと兄弟のような関係だったらしい。ルシファーが反逆をするまではとても仲が良かったのだそうだが、過去の大戦中にルシファーの手によって多くの天使が命を落としていく中でもミカエルだけは直接ルシファーは手を出さなかったらしい。それはルシファーもミカエルも言っているので間違いないだろう。ミカエルはその事もあって今でもルシファーを元に戻せると信じているのだけれど、今のルシファーが本来の姿かもしれないとは思わないのだろうか。その事についてはルシファー本人に聞いても何も語ることはなかったのだが。


「ルシフェル様は口が達者なんで自分では説得が出来そうもないっす。もう、いっその事この世界の中心に言って住人を直接説得した方が早いと思うっス」

「どういう事かな?」

「こうなったら、みんなで統一法王庁に行って我が主の素晴らしさを世界中に布教してもらうっス。それが上手くいかなかったら神を自称している輩を全員殺してやるっス。それがいいっス」

「天使ちゃんは考えが全然天使っぽくなくて物騒だね。もっと平和的に行こうよ」

「何言ってるんっスか、正樹は神官なんだし我が主の為に働くのが道理っス。神を名乗っていいのは我が主だけっス」

「まあまあ、天使君もそうやってまー君に言いがかりをつけないでね」

「言いがかりじゃないっス。神官の義務を言っているだけっス。みさきも正樹を説得するのを手伝うっスよ」

「この世界に適応出来ないんじゃその神ってのも落ちぶれたモノね」

「この世界はもともと我が主が創りだしたモノっス。それをルシフェル様が奪っただけなんだし、あさみも適当な事言わない方がいいっス」

「ここから統一法王庁までどうやって行くつもりなの?」

「そんなのは知らないっス。サクラならその方法を知っているはずなんだし、どうにかしてほしいっス。ルシフェル様はどうやって行くか知ってるっスか?」

「俺は知らないけど、旅をしていたあさみなら知ってるんじゃないか?」

「私?」

「知ってるならさっさと白状するっス。一番早く行ける方法を教えるっスよ」

「法王庁なら行ったことあるけど、統一法王庁ってのは行った事無いんだよね。歩いて行くのも面倒だし、何かいい方法ないか聞いてくるよ」

「僕も興味あるから行ってみようかな」

「待ってよ、まー君が行くなら私も行くよ」


 ここから統一法王庁までは地図で見ただけでも結構近く感じているのだけれど、その方向を見てみると手前の山脈の奥にもいくつかの山脈があるようで、そのまま真っすぐ向かうのは大変そうだった。迂回するにも一度海を越えていかないといけないようだったし、普通に行くには時間がかかりすぎてしまいそうだった。


「ちょっと聞いてきたんだけど、直接向かうよりも北の方にある法王庁に行くと簡単に行ける乗り物があるみたいだってさ。その乗り物は毎日出てるみたいだから、タイミングさえ合えば今日にも行けるみたいだし、タイミングが合わなくても明日には行けるみたいだよ。料金はかからないって言ってたよ」

「まー君が神官だから無料って言ってたのに、自分の手柄は隠しちゃうのね。そこも好きよ」

「料金とかどうでもいいんで早く行くっス。我が主の素晴らしさを早く説きたいっス」


 なんだかんだあって出発が遅れてしまったのだが、道中は特に何事もなく進んでいってあっという間に法王庁に着くことは出来た。着くことは出来たのだけれど、結局その日はタイミングも合わなくて向かうことは出来なかったのだけれど、法王庁の方のご厚意で一泊させてもらえることになった。

 ミカエル以外のメンバーは個室を用意してもらえたのだけれど、ミカエルが案内されたのは軒先だった。その事を抗議しに行ったミカエルであったけれど、法王庁の職員の方はその事に冷静に対処していたのが印象的だった。


「自分もちゃんとした部屋を用意してほしいっス」

「申し訳ございません。天使の方は本来敷地に入れるわけにはいかないのですが、神官の正樹様と巫女のサクラ様がいらっしゃいますので特別に敷地に入れているのであります」

「そうっス、仲間なんだからせめて建物の中に入れて一緒に過ごしたいっス」

「それは出来ないのでございます。建物内に天使を入れることはいかなる理由があっても出来ないのであります」

「どうしてそんな事を言うっスか?」

「それはあなた方の神が行ってきたことの報いでございます」

「我が主は皆の為にやって来ただけっスよ」

「それ以上仰るのでしたら敷地内から排除いたしますが、いかがなさいますか?」

「うう、今の自分では抵抗できないっスから従うっス」


 そのやり取りを笑顔で見ていた正樹ではあったけれど、ルシファーもあさみも興味が無かったのかさっさと提供された部屋に向かっていた。みさきはいつも通り正樹を見つめているだけだったのだが。

 豪華とは言えないが質素でもない食事を頂いてから各自の部屋に戻る事になったのだけれど、翌日の昼過ぎまでは特にやる事も無かったのでゆっくり休むことにしよう。きっと今日は何もこれ以上起きないだろうし、たまには休息も必要なのだ。


 翌朝は鐘の音で目が覚めたのだけれど、いつになくスッキリと起きることが出来た。身支度を整えて食堂に向かうと、そこにはミカエルを除く全員が集まっていた。


「ずいぶんとゆっくりできたみたいだけど、サクラは疲労が溜まっていたのかな?」

「どうだろ。いつもよりは疲れてたかもしれないけど、自分では感じない程度だったと思うよ。あさみはゆっくりできた?」

「私はこの中の神聖な空気って言うのかな、それがちょっと落ち着かなくてソワソワしちゃったけど、少しは休めたと思うよ」

「そうなんだね」


 正樹とみさきは相変わらず仲睦まじい感じだったし、ルシファーは普段と変わっている様子を全く見せなかった。ミカエルはここからは見えないけれど、たぶん普通だろう。


「皆様、統一法王庁に向かう便が出るのは今から一時間ほど先になります。どなた様もお忘れ物の無いようにご準備お願いします」


 法王庁の方にそう言われたのだけれど、私達は私物を全部ルシファーに預けているので準備する事もほとんどなかったのだ。いくらでもモノをしまえる不思議な空間が私たちの旅を快適なモノにしているのだ。


 時間が来たので統一法王庁に向かう便に向かったのだけれど、どう見ても一枚の板に柵が取り付けられているだけの物だった。壁も天井も無いただの柵が設置された板だったのだけれど、それがどうやって統一法王庁に向かうのだろうか?


「あの、これで行けるんですか?」

「これじゃなくてもいいんですけど、あいにく皆様が乗れそうなのはこれしかなかったんですよね。皆様が乗れれば何でもいいんですけど、ここには皆さんが乗れて座れそうなものがそれしかなかったんですよ」

「あたしたちが座れれば何でもいいんですか?」

「そうですね、何かございますか?」

「はい、あたしには動きが遅いけど乗り物があるので大丈夫です。お兄様お願いします」


 ルシファーがみさきに言われて取り出したのは鉄の塊だった。もともとは感情豊かな鉄だったと思うのだけれど、あの空間に入れられたことですっかり大人しくなってしまっているみたいだった。それでも、みさきの言葉に反応してか私達が乗れるバスの形に変化してくれた。私達の乗り物なのでミカエルが乗り込んでも法王庁の人は反対する事も無かった。


「素晴らしい。この乗り物でしたら皆様安定して運ぶことが出来ると思いますが、ちょっと重そうなのでもう少し準備にお時間を頂きますね」


 しばらくすると、統一法王庁の方から鳥の大群がこちらに近付いてきているのが見えていた。あまりにも多くの鳥がいるようで、地面には大きな影が出来ているほどだった。しかし、それが近付いてきた時には影を作っているのが鳥ではないという事実に驚いた。


 影を作っていた大群は鳥ではなく天使だった。


「さあ、到着いたしましたので、さっそく向かっていただきますね」

「あの、この天使はいったい?」

「我々法王庁の者が捕まえて利用している天使ですね。天使は移動手段としてだけではなく他にも使い道があるのですが、それはその天使を捕まえた皆さんが一番よくご存じなのではないでしょうか?」


 ミカエルは何か言いたげだったようだが、目の前で広げられている光景が衝撃過ぎたのか、言葉を失っていた。

 鉄のバスにつけられたロープを天使たちが掴むと、ゆっくりと宙に浮かんでいった。ある程度の高さまで上がると、そのまま統一法王庁へと向かっていったのだった。思っているよりもゆっくりではあったけれど、確実に統一法王庁へと向かって進んでいった。


「天使を家畜扱いするなんて狂っているっス」


 ミカエルの目には困惑と怒りが浮かんでいるように見えたけれど、天使たちを見ているルシファーは嬉しそうにニヤニヤしているだけだった。

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