第4話 祠に行ったら才能が開花したよ

 私達の他にも祠に向かっている人達がいたりするのだけれど、ちょっと近所まで散歩に行くような感覚なのか誰一人として武装をしている人達はいなかった。私達も武器らしい武器は持っていなかったのでその点は一緒だったりするのだ。私達は丘の向こうに祠があるという事は聞いていたのだ。その祠が一宇だけだと思っていたのだけれど、いざ丘の上に登ってみると眼下には数えきれないくらいの祠群が広がっていた。


「祠があるとは聞いていたけれど、こんなにあるとは思わなかったよ。いったいどこに行けばいいんだろうね」

「さあな、俺にはさっぱり見当もつかないけれど、お前らは何か思い当たる事があったりするのか?」

「フフフ、こんな時は神官である僕に任せて欲しいな。今まで神官らしいことはしていなかったかもしれないけれど、今こそ僕の持てる力を発揮してやる」

「まー君カッコイイ」


 正樹が目を閉じて何かブツブツ言っているのだけれど、声が小さすぎて聞き取ることは出来なかった。近くに行って聞き耳をたてようかと思ってみたけれど、みさきがこちらをじっと見ているのでやめにしよう。私に懐いてくれているとは思うのだけれど、彼氏の近くに他の女がいるのは不快なようだし。そのまま様子をうかがってたのだけれど、正樹が何かをしている様子はなく私とルシファーは変わらずに見守るだけだった。


「あれ、あそこに何か書いてあるけど、なんて書いてあるんだろう?」

「サクラはここの文字が読めないのか。俺が代わりに読んでやるよ。なになに、えっと、そう言う事か」

「どういうことなの?」

「ここにある祠は職業訓練所にある部屋と同じでその人達に相応しい場所に自動で繋がっていくみたいなんで、空いてる場所だったら気にせずに入って行けってさ。そうすればいい事あるって書いてあるよ」

「そう、その通り。僕が伝えたかったことは今全部ルシファーさんが代弁してくれたのだ」

「嘘つけ」


 思わず突っ込んでしまったけれど、あんまり品の良いものではないからツッコみは我慢しないと。それにしても、正樹は急にどうしたのだろうか。神官らしいことっていったい何だったんだろう。ここにきてから私が何かを理解するスピードが落ちているようにも思えていた。


「それじゃ、さっそく空いている場所に入ろうか」

「ねえ、これはどこが空いているのかわかりにくくない?」

「いや、よく見たら入り口の上に空室の表示がついているよ。ホテルの部……新幹線のトイレの案内みたいだね」


 みさきが何かを言いかけたような気がするけれど、大人な私は聞かなかった事にした。多分、聞いてはいけないような事なんじゃないかな。

 私達はそのまま外見が少しだけ綺麗な祠に入る事にした。


「もう、遅ーい。ここに辿り着いてから中に入るまでいったいどれだけ時間をかければ気が済むのよ。私だってそこまで暇じゃないんだからちょっとは考えてよね。てかさ、あんたら一体どんな組み合わせしてんのよ。いくらこの世界が平和だからって、その組み合わせは何がしたいのかもわからないよね。まずはあんた、巫女ってのは、そうね、仕方ないわよね。あなただって好きでそうだったってわけでもないんだろうし、きっとこの世界で良い事待ってるからさ」


 なんか、慰められると私はダメな人間なんかないかって思っちゃうよね。実際はちゃんとした人間ではないけれど、それなりにやっていたとは思うんだ。私だって好きで引き籠っていたんじゃないし、外に出ればなんだって出来るのよ。外に出ることが出来ればだけど。


「次にあんた、堕天使ってそもそも職業じゃねーし。ここに来る前に何をやっていたのかは聞かない事にするんだけど、あんたは神をやったわね。この世界でもそれをやろうとしているみたいだけれど、やめといたほうがいいわよ。神様なんて星の数ほどいるんだけれど、それを殺して回るなんて恐ろしいわ。他の生き残っている神様の集団があなたを襲うわよ」


 ルシファーはやっぱり凄い人だったのね。人扱いしていいのかわからないけれど、私の中では人ね。それにしても、神をやったとはもしかして殺したってことなのかな?

 あんなに優しそうなルシファーがそんな事をするなんて信じられないけれど、あの強さを見たら納得するしかないわ。あんまりきつく当たるのはやめた方が良さそうね。


「その次はあんたね、あんたは神官なのね。それなりにまともそうに見えるけれど、あなたの心の奥は闇に覆われているわね。それを表に出さないでしっかり神に仕えるといいわ。神に仕えてこその神官なのよ。探すのが面倒だったらあたしに仕えてもいいんだけどね」


 神に仕えなさいって言って、私に仕えろって言ってるってことは、この人は神様なのかな?

 神様だとしたら人間扱いしたのはまずい事だと思うけど、ルシファーがいるから大丈夫かな。あんまり頼りすぎるのも良くないとは思うんだけどね。

 

「次はあんたよ。踊り子ってあんたは踊れるのかしら。見たところあんまりスタイルも良くないみたいだし、誰かを誘惑できると思っているのか……とよくよく見てみたらスリムで素敵なのね。あなたの彼氏も喜んでると思うわよ。可愛いしお似合いよ」


 私からみさきの表情は見えないんだけど、きっとあの鋭く冷たい目をしていたのね。アレは仲間だとわかっていても背筋に来るものがあるわね。私の場合は正樹に深く関わらないようにしていれば大体は大丈夫なのよね。でも、他の人はそれ以外にもたくさんあるみさきの切り替えスイッチを踏みまくっているみたいよ。私は出来る事なら自分から火の中に飛び込まないようにしないとね。


「最後にあんたね。あんたは妖精のくせに堕天使と一緒に行動してるってどういうことなのよ。元は天使だったかもしれないけれど、今は堕ちちゃって堕天使なのよ。そんなんじゃあんたは立派な妖精にはなれいわ。って、あなたはいつの間にか神になる資格を備えてるじゃないの。神になるためにここで修業していきなさい。いい、私の代わりにここで修業するのよ。そうすれば立派な神になれるわ」


 いつの間にかさっきの妖精さんが私達と一緒にいたの。私も正樹もみさきも突然現れた妖精に驚いていたけれど、ルシファーは全く動じる事も無かった。それはルシファーが妖精を読んだのだからいることはわかっていたのだろう。わかったうえで黙っているのは酷い事なんじゃないかって思うよね。


「じゃあ、一人ずつ相応しいチカラをプレゼントするわ。まずは、そこの堕天使ね。堕天使とはいえあたしの限界を大きく超えているから能力的なモノを上げることは出来ないんだけど、せっかくだからいいものをあげるわ。あなたにあげるモノは人に対する思いやりを持つ心よ」


 ルシファーは眉一つ動かさずにその場に直立していた。視線だけは祠の主を見ているのだけれど、その中に優しさや思いやりを持っているような感じは全く受けなかった。それでもルシファーはそれを受け入れたようだった。


「次は、そこの妖精ね。あんたは、この世界でいつでも活動できるように肉体を与えるわ。肉体だけだと他の精神体が入り込む可能性があったりするんで、今のあんたと肉体を結び付けるわ。これであなたは自分の意思に従って行動してくださいね」


 妖精とか精神体とか肉体と結び付けるとかよくわからないけれど、この妖精も仲間って事でいいのかな?


「じゃあ、神官のあなたね。あなたには、正義を貫く心をあげるわ。今のあなたはそこの女を守る事だけしか考えていないみたいだけど、それだけじゃ完全に守る事なんて出来ないのよ。正義を貫いたうえで彼女を守りなさい。私は嫉妬しているわけじゃないのよ」


 いや、自分で言うってことは嫉妬してるって事じゃないのかな。私も最初に見た時は軽く嫉妬していたと思うけど、この子達はしっかりしたいい子だと思うのよね。私は多分、そうだと思うよ。


「次は踊り子のあなたね。あなたは戦闘向きの職業じゃないんだけど、他の二人がどう考えても戦闘に向いていないので戦う力を与えるわ。ただの戦う力だと思ってもらっては困るわよ。なんと、常人の三倍動けて三倍成長するのよ。戦えない二人の分をカバーするためにも三人分戦うのよ。いい、他の二人を守るんじゃなくて戦うのよ」


 確かに、巫女と神官でどうやって戦えというのだろう。何か武器の様なものでもあればいいのだけれど、私達はそのようなモノ持っていない。ルシファーが持っていた武器をいくつか試させてもらったのだけれど、持つことは出来るのにそれを動かすことが出来なかった。この世界の武器はある程度の力と特定の職業についていないと扱うこと自体が出来なくなっているらしい。私の使える武器とかがあればいいのだけれど、今のところそう言うのには巡り合っていなかった。


「じゃあ、最後は巫女のあなた。あなたは堕天使に護られているから何も必要無いと思うのだけど、旅に必要なモノがいいわね。そうだ、あなたには自然とツッコんでしまう能力を与えるわ。どう、素晴らしいでしょ」

「戦闘にも交渉にも冒険にも関係ないやん!!」


 関西人ではないのに関西弁を使ってしまったのが恥ずかしかった。同じく関西人ではないはずのみさきが「ええんやで」と言ってくれたのが、何となく腹立たしかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る