第3話 ちょっとそこまで散歩してみよう

 昨日の一件以来私はみさきにすっかり懐かれてしまった。泊まった部屋はそれぞれ個室だったのだけれど、二人で夜遅くまで深い話をしてしまった。お陰で少し眠いけれど、みさきは元気そうだった。私も岬なのでみさきと呼ぶのは抵抗があるんだけど、お互いに仲良くなれたんだからそれくらい我慢しておこう。


「サクラはあんまり寝てないのかな?」

「昨日はみさきと盛り上がってしまって夜遅くまで起きてたのよね。ルシファーは正樹となにか話したりしなかったの?」

「俺はそう言う事はあまりしないかな。人間となれ合うのは少し苦手なんでね」

「色々ありそうだもんね」


 そんな事を話していると、若い二人が駆け足でやって来た。


「ごめんなさい、ちょっと寝坊して慌ててきました」

「本当はもっと余裕をもってたはずなんだけど、気付いたら時間が無くなっていて、お姉様もお兄様もすいません」

「お姉様?」

「お兄様?」

「みさき、どうした?」

「さあ、今日はちょっと遠くに行ってみましょうね。今日は何が待っているのかな」


 みさきは出会った時と違って上機嫌だった。彼氏のまさきがそばにいるからなのかもしれないし、私があげ餅味噌煮だとわかったからなのかもしれない。よく見たら、私だけが驚いているようでまさきもルシファーも気にしている様子はなかった。それにしても、お姉様は無いでしょう。


「じゃあ、この町を出て少し行ったところに小さな祠があるみたいなんだけど、今日はそこに行って戻ってくるのを目標にしましょうね。さっき聞いた話だと、この辺には魔物が出ることもあるんだけど、そんなに強いやつは出て来ないから安心して行っておいで。って事みたいよ。あそこにある武器屋で装備を整えたら出発しましょう」

「サクラさん、僕達ってそんなにお金持ってないんですけど、買えるものありますかね?」

「今の所持金で買えるものが無かったとしても、次に来た時に買う目標があるのは良い事だと思うわ」

「さすがお姉様、どこまでも前向きで素敵ですわ」


 所持金を確認しようと思ったのだけれど、私はこの世界に来て二日目だしお金なんて持っていなかった。正樹とみさきもお金は持っていないみたいだった。当然、ルシファーもお金は持ち合わせていなかった。ゲームだったら転生させられた時に何か貰えそうなものだけど、私は道具もチートスキルも何も貰っていなかったんだ。見た感じだと、正樹とみさきも同じ状況だろう。


「お金がないんじゃ何も買えないわね。そうだ、何か必要無いものがあったらそれを売って足しにしましょう」

「サクラさんはそういうとこに気付けるなんてすごいや、さすが僕らのリーダーだよ」

「ちょっと待って、私ってリーダーなの?」

「そうですよ、サクラさんは最年長者だし頭も良いからリーダーって感じじゃないですか」

「いやいや、どう見たってルシファーの方が年上でしょ」

「そうなんですか?」

「そうだな。俺は何年生きてきたかわからないけれど、この世界の誕生からは見守っているよ」

「この世界の誕生から見守っているってことは、ここ以外にも世界があるってことですね?」

「そりゃ、そうだよ。この世界以外にも似たような星はたくさんあるし、俺も知らない事はたくさんあるからね」


「探してみたけど売れるようなものは何もなかったわ。お姉様はどうでしたか?」

「私も何もないわ。かといって、無一文だったので異世界で体を売ってみました。みたいなことは避けたいわよね」

「まー君も期待は出来ないんだけど、お兄様なら何か持ってそうじゃないですか?」


「あの、お兄様は何か売れそうなもの持ってますか?」

「どんなものが売れるかわからないけど、とりあえずはもっている武器を並べてみようかな」


 ルシファーは空中に突然できた穴に手を入れると、その中から大量の武器が出てきた。どこからか盗んできたのだとは思うのだけれど、これだけあればいちいち武器を買わなくてもいいのではないかと思ってしまった。


「俺はどれが売れそうなのかわからないけど、君達に選んでもらってもいいかな?」


 次々と穴の中から出てくる武器はどれも銘のある武器ばかりに見えた。これだけあれば自分に合った武器を見つけられると思うのだけれど、巫女って武器を振り回しても平気なのかな?


「じゃあ、この武器は必要無いものだからさっさと売りに行こう」

「僕はこれが高く売れると思うな」

「まー君には悪いけれどコレの方が売れそうじゃない?」

「どれだけ頑張っても高く売れそうなのがわからないよ。サクラさんも助けてよ」

「いや、私だってわからないわ。それにしても、凄い数よね」

「これを全部売ったら相当な価値があると思いますよ。」

「俺も使わないものが駆り出し、まとめて売ってみようか?」


「それはダメだ!!」


 私は二人の様子を目に焼き付けていたのだけれど、この二人は意外と奥手なのかもしれない。それにしても、この人達はこの町で売っているものにしか興味が無いのだろうか?

ルシファーが出したモノの方が明らかに性能もよさそうなのに、何か変えない理由があるのでしょうか?


「そんなにたくさんあるなら、売ったりしないで、それを自分たちで使えばいいだけじゃないかな?」

「その発想はなかった」

「サクラさんってやっぱり凄いや」


 褒められているのかバカにされているのかはわからないけれど、きっと私の事を褒めているに違いない。そう思う事にしないと疲れが溜まってそう。


「僕は神官だから加護を受けた武器しか扱えないみたいなんだよね。それは巫女であるサクラさんも一緒だったと思うんだけどね」

「それなら俺が加護を与えてやるよ。それくらいなら出来ると思うからね」


 ルシファーは得意げになって武器に何かを注ぎ込んでいた。いつもはクールな感じだけど、こうして何かをしている時は少年ぽさも感じてしまった。これが母性というやつなのだろうか?


 結局のところ、ルシファーが用意してくれた武器はみさきしか装備できなかった。というよりも、私と正樹は巫女と神官という立場なので金属製の武器は身につけることが出来なかった。みさきも踊り子なので軽いナイフでも持っていくのかと思ってみてみると、結構ごつい大剣を手に取っていた。


「これでよし、と。みんなの分も私が貰ってもいいんですけど、あとはお兄様にお任せしますわ」


 みさきは自分の身長はありそうな大剣を持っているのだけれど、どう考えてもみさきの方が軽くて小さそうだと思った。それでもないよりはマシだろう。

 気を取り直して冒険に出る事にしたのだけれど、相変わらず何をすればいいのかが全く分からなかった。


「じゃあ、みんなで祠を目指しますよ」


 私はこのまま何事もなく無事に戻ってこれる組織を作り出したいのです。何事も無いのが一番だからね。


 私達の第一歩が記されたわけなのだけれど、私達を待ち構えていたかのように大型の魔物が三体こちらを見つめていた。目を逸らしてはいけない感じだけれど、どうしても直視することが出来ないでいた。

 魔物は私達に気付いて近付いてきたのだけれど、特に襲ってくる様子もなく私達をじっと見ているだけだった。私は初めて見る大きな魔物の迫力に圧倒されて洩らしてしまいそうになってしまった。私と魔物の間にルシファーが立ってくれたおかげで魔物と対面しなくて済んだから少しだけで済んだんだけど、一度戻って着替えたいなと思っていた。


「あんた達、ここらで見ない顔だけど新しくやってきた人たちかい?」

「そうだけど、君達は俺たちと戦うつもりなのかい?」

「最初はそのつもりだったけど、あんたを見たらその気も失せたよ。戦う前に死を覚悟したのなんてあんたが初めてだね。いくらでも生き返れるとしたって死ぬのは辛いからな」

「死んで生き返る事にデメリットがあるのか?」

「身体的には特にデメリットも無いんだけど、生き返らせてくれた神の信徒になるってくらいかな。この世界に一年もいれば一度くらいは死んじまうんだし、誰かの信徒になってるやつばっかりだったりするのさ。信徒になったところで何かを強制される事も無いんだけど、何となく落ち着かないんだよな。俺達だって別々の神に生き返らせてもらってるんだけど、こうしてつるんでられるからいられてるくらいだしね」

「それだったら、俺が今殺して生き返らせれば俺の信徒になるってことなのかな?」

「まあ、そうなると思うんだけど、あんたが強いといっても生き返らせることなんて出来ないでしょ?」

「それが、出来るんだよ」


 ルシファーがそう言うと同時に三体の魔物の首が胴体から離れていた。私はその動きが早すぎて何が起こったのか理解出来なかったけれど、みさきの悲鳴を聞いてその事の意味を理解した。正樹はなぜか笑っているように見えたけれど、私はとても見ていられなかった。


「ごめん、悪いけど頭を押さえててもらえるかな?」


 私は何をしていいのかわからなくてルシファーの頭を押さえてしまった。


「俺の頭じゃなくてそっちそっち」


 ルシファーが私に優しく微笑みながら魔物を指差していたのだけれど、とてもじゃないけど魔物の死体に触ることが出来なかった。正樹は普通に触っていたけれど、みさきも私と同じで抵抗があるみたいだった。そんなみさきの分の魔物の頭も押さえていた正樹に私の分も頼んでみたけれど、手は二本しかないんだし無理な話だった。ルシファーから優しく催促されていたのだけれど、少しだけ怒っているように思えたので、私は嫌だったけど頭を押さえることにした。


「じゃあ、今から魔物たちを生き返らせてみるね」


 ルシファーが何かの呪文を唱えると目の前に魔法陣が浮かび上がり、その中から妖精にしか見えないモノが出てきて魔物に触れていた。その直後に魔物が生き返ったみたいだけれど、先ほどと変わった様子は見られなかった。


「いきなり殺されるのは心の準備が出来ていない分だけ楽かもしれないな。神でもないあんたが命を戻してくれるなんて思いもしなかったよ」

「ああ、言うの忘れていたけれど、俺は前の世界では神だったんだよね」

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