第二話・意外な組み合わせ


まりあ「ところでさ、こーへーくん。あたし前から気になってるんだけど……」

香平 「どうしたの改まって。というかそんな改まって言われると、いっそ不気味なんだけど」

まりあ「一言余計だよっ!? いやまあ、大したことじゃないんだけどさ。

    いつもお弁当と一緒に持ってきてる水筒、お茶じゃないよね? 一体ぜんたい何が入ってるのカナ?」


香平 「中身? ただのブラックコーヒーだよ。校則の持ち込み許可、ちゃんと読んでた? 紅茶もアリだってさ」

まりあ「えっウソ紅茶もアリなの? っていうかコーヒーッ!? あまつさえブラックとは、コーヘーセンセイはオトナですなあ」


香平 「父さんが大のコーヒー好きでさ。わざわざ家族の分、季節はもちろん、体調や環境、気分に合うブレンドを毎日作ってくれるんだよね」

まりあ「…………趣味を持ってる大人って、素敵だと思わない?」

香平 「うちの父さんの場合、やりすぎ。けどまあ、実際美味しいから困るって言うか。

    今は夏場だし、今日のは酸味が強くてスッキリした奴だね。気分転換にはもってこいだよ」  

 

まりあ「ほほう、どれどれ」

香平 「ってああもう、それ僕の飲みかけじゃないか!」

まりあ「うまっ、なにこれウマあ!! 苦い……けど苦くない!! つい一息にグイッといってしまったが、実に勿体無かったね? どれ、もう一杯宜しいかな」

香平 「いま流れるように二杯目要求キメてきたね? 褒めてもらえるのは嬉しいけど、まず僕からひったくったそのコップ、返してもらえるかな」


まりあ「えー? あたしー、こーへーくんのコップでのみたいなー?」

香平 「まったく……よく分からないゴネかたをして……。聖川さんも水筒持ってたでしょ。注いであげるから、自分のコップ出してよ」

まりあ「あ、今また苗字で呼んだー。ぶーぶー。『まりあ』もしくは『可愛いあだ名つけて☆』っていつも言ってるんだけどなー?」


香平 「うーん、そういうの、慣れてなくてさ。……善処するよ。とりあえずコップ借りるね」


…………


香平 「はい、冷たいものどうぞ」

まりあ「冷たいものドウモ」


まりあ「ん………。はあ、ホントに美味しい。あたし紅茶派だったんだけど、これは革命かも」

香平 「紅茶もそうなんだけどさ。丁寧にちゃんと淹れると、それだけで凄く美味しくなるんだ。毎日これが飲めるっていうのは、正直ちょっと優越感っていうか」


まりあ「なぜかご飯にも合うのが驚きだよ。某無糖っぽい紅茶っぽいアレ以来のオドロキだよ」

香平 「香りと挽きのバランスが肝心なんだってさ。ただのサラリーマンのハズなんだけど、一体どっちが本職なのやら……」


まりあ「いやあ、青山パパもまた随分な変わり者だねえ。……あたしと話が合うかも?」

香平 「一応、自分が変わり者って自覚はあるんだね……」


…………


まりあ「さて、お腹もぽんぽこりんになったところで本題です。こーへーくん。今度キミんちに遊びに行っていいかな。っていうか行く」

香平 「…………ん? えっ? 何だって?」


まりあ「ワタシ、アソビニイク、ユーのハウス。どぅーゆー・あんだすたん? ちなみにキミに拒否権は無い」

香平 「どういう流れでそうなるのさ?! っていうか僕の予定は考慮してくれないのかな!?」 


まりあ「友人が丹精こめて淹れてくれたコーヒーとあらば、さぞ美味に違いない。ああ、ハンチング帽の彼もかくやとばかりの我が名っ推っ理ッ!」

香平 「自由にも程があるよっ! そもそも僕は淹れたことないし、僕より父さんが淹れたほうが美味しいに決まっt」

まりあ「オトコノコがつべこべ言わないのッ! ほら、ちょっと早めのあたしへの誕生部プレゼントと思ってー!

    っていうかね……あたしは、こーへーくんのコーヒーが、飲みたいんだから」


香平 :ほとんど恐喝じゃないか……。けど…………

 

まりあ「……やっぱり、ダメ、かな」


香平 :――――ああ、もう。そうやってキミはいつも、肝心なところでしおらしくなるんだ。


香平 「りょーかい、わかった。僕の負け。降参。そんなに言うなら頑張ってみるけど、味は保証しないんだからね?」

まりあ「さっすがこーへーくん! デキる男は違うねえ!」

香平 「ほんっっっっとに知らないからね! どんな出来でも責任もって飲んでもらうんだから。せいぜい口直しのあまーい紅茶でも準備しといてよ」


まりあ「――――大丈夫。香平くんが淹れたコーヒーだもん。ぜったい。美味しいに決まってるんだから」


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