マリーゴールド

結城恵

第一話・いただきます


…………


まりあ「午前の授業終っ了ーー!!! こーへーくんこーへーくん、あたしもうおなかペコペコだよー」


まりあ:私は聖川まりあ。高校一年。

    今年の春からこの県立澄崎高校に入学した、いわゆる『花も恥らう女子高生』ってやつだ。

    今にも唸りを上げそうな腹の虫を気合で押さえつけながら、いつものように、後ろの席の彼に話しかける。


香平 「花も恥らう女子高生が、開口一番ハラペコアピールっていうのはどうなんだろうね……?」


香平 :僕は青山香平。高校一年。

    特別な才能や、因縁のライバル――――なんてのが居るわけでもなく、

    特筆すべきことの無い、至極平凡な高校生活を送っている。

    春先からこっち、席が近いという理由で、しばしば彼女と昼食を共にしている。


まりあ「はっはっはっ、コーヘイくん、あたしに『恥じらい』なんてあるように見えるかね」

香平 「そうだね、必死に腹の虫を押さえつけてる様子は、まあ女の子として及第点、かな」


まりあ「ちっ、お勉強ができるだけの平凡な男子高校生め……。なかなかどうして、オンナってのを分かっていやがる……」

香平 「女の子なら女の子らしく、そのブレッブレなキャラはどうにかできないのかな、キミって人は」


まりあ「これはワタクシのアイデンティティ。そう易々と手放せるものではなくてよ? 坊や?」

香平 「坊やって……もう突っ込まないぞ、僕は」


まりあ「冗談はさておき、待ちに待ったお昼だよお昼! こーへーくんもほら、おべんと出して!」

香平 「はいはい。本題に入るまでが難関だねキミは。さあほら、僕だってお腹は空いてるんだ。早く机くっつけて」

まりあ「おっと、忘れてた。あたしとしたことがこりゃ失礼」


…………


香平 「さあ、準備が出来たところで食べようか」


まりあ「待ってましたあ! っとと、その前に……」

香平 「その前に?」

まりあ「日本人たるもの、これをやらなきゃイカンでしょ」


まりあ「せーのっ」

香平・まりあ『いただきます』


…………


香平  :平凡な僕と

まりあ :ちょっと変わり者のあたし


香平  :どこか不思議な彼女と

まりあ :素直で優しい彼と


香平・まりあ:これは二人の、ある日常の一ページ


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