第24話 最高の誉を頂いたお祝いの席でですが、何か?
~ヴィヴィアンside~
それから二週間後。
ミラノとの合作小説発売記念は、今まで経験したことが無いほどの豪華さだった。
音楽家御三家だけではなく、ジュリアス国王陛下もリコネル王妃から想像を絶する祝いをされるという奇跡。
更に、会うことも難しいとさえ言われていた、国王夫妻の一人息子、シャルティエ王太子までもがお祝いに参加されることになった。
その為、警備は国を挙げて行われることになり、護衛騎士団だけでも凄い数なのに、騎士団も加わって、最早言葉すら見当たらない。
「大丈夫?」
「えぇ……今までに無いほど警備が凄くって圧倒されちゃって」
「安心して、更に諜報部、暗躍部も加わっているから、身の安全だけは保証されるわ♪」
「えぇぇぇ……」
笑顔で語るダリルさんに私は更に身が縮こまる。
だって、騎士団だけでも凄いのに、更にこの中には諜報部から暗躍部までいるのだというのだから、最早言葉すら無い。
確かに、今回の合作小説は歌劇にされることが決定し、今は歌劇の歌が、本を元に作られているのだという。
音楽を手がけるエルシャール様は目の下にクマを作り。
作詞を手がけるアズラン様は、ゲッソリと頬が削がれ。
優雅に祝いの席でのオペラを歌うイリーシア様だけは、疲れなど見せない美しい姿でいらっしゃる。
そうそう、今回の小説発表に関しては、アトリエでは行わず、城の大広場で行われているのだけれど、沢山の貴族も集まり、身体が萎縮してしまうのは仕方ないこと。
社交界を追い出されるような形で私は貴族社会には入ることが出来なかったし、家もある意味有名すぎて、親しい友人を作ることすら出来ず、今、私に向けられる視線は、変態伯爵の一人娘と言う視線では無くなり、素晴らしい小説家として注目されている。
そんなわたくしの隣には、男装したダリルさんがいてくれて、男性よけになっている。
いいえ、結婚適齢期を過ぎようとしている自分を考えると、良いことでは無いのは理解している。
けれど、ダリルさんのような優しさを知ってしまうと、彼女を基準に人を見てしまうのだ。
わたくし、目が肥えてしまったかしら?
いいえ、ダリルさんだけではないわね。
理想の夫婦像と言うものを、間近で見過ぎたせいもあるかもしれない。
「やぁやぁ! ヴィヴィアン氏! 今回のパーティは中々に豪華ではないか! 君もそう思うだろう!?」
「ミラノ!」
いつものスッピンにタンクトップに短パンと言う見慣れた姿では無く、ミラノ……いいえ、ミランダ・ジョルノア伯爵夫人は、美しいスタイルを強調した夜空のように美しい青色のドレスでわたくしの元へと、夫であるオスカーと共にやってきた。
「今回の主役は私たちだ。存分に楽しもうではないか!」
「ええ、そうしたいところだけれど……もうすでにお腹一杯よ」
「何を言う。独身でありながらこれだけ注目される小説を書いたのだ。見たまえ、君に狙いをつけている猛獣どもの目つきを」
そう耳元で囁いたミラノに、わたくしは気づかないようにしていた独身男性の視線に溜息が零れた。
今まで散々、変態伯爵の娘として陰で罵っていた男性たちは、今や花の盛りを過ぎろうとしているわたくしを見て、金とでも思っているようだ。
わたくしと結婚すれば、小説の印税だけではなく、歌劇になった事による印税もずっと入ってくることになる。
――謂わば、安定したお金を永遠に運んでくる売れ残り。
そんな目線を嫌でも感じてしまうのだ。
「わたくしの苦手な視線ですわ……」
「まぁ、確かに気持ちの良いものでは無いな。見たまえ、私を見る視線を。あれがかの有名なエロ小説作家か! と言う視線と共に、こぼれ落ちんばかりのお胸様に視線が釘付けの若造までいる始末だ。全く、残念だが、我が身体は夫の大好物。あげるわけにはいかないというのにな」
「堂々といえるミラノが凄いわ」
「そもそも、私は元平民だ。しかも経歴も珍しいのだろうよ。血統だけは父親が良かっただけに過ぎないし、あのような貴族男性は苦手極まりない」
「あら、貴女でも苦手なものってあるのね」
クスクスと笑ってそう告げると、ミラノはキョトンとした表情をして、豪快に笑った。
丁度その時、大きなラッパの音と共にジュリアス国王陛下とリコネル王妃、更に、滅多にお目にかかれないシャルティエ王太子までご登場され、年若い女性たちはヒソヒソと、美しいお姿のシャルティエ王太子の名を口にする。
ジュリアス国王陛下から名を呼ばれれば、わたくしとミラノ作家はジュリアス様から素晴らしき小説および、音楽への貢献として、お褒めの言葉を承ることになっている。
――この世に生まれた誰もが一番欲しいとさえ言われる最高の誉れ。
それを受け取ることが出来る自分と、その場を作ってくれた、支えてくれた皆に、本当に感謝している。
ジュリアス国王陛下の元までミラノをエスコートするのは、夫のオスカー。わたくしをエスコートするのは、ダリルさんに決まっている。
式典が始まり、わたくしとミラノを呼ぶ国王陛下の元までエスコートされて向かうと、最高の誉れを貰うと同時に、騎士団及び魔物騎士団、そして貴族の面々から拍手喝采が起きた。
わたくしとミラノが、歴史に名を残した瞬間でもあった。
++
その後、わたくし達を囲むように貴族達が訪れ、小説の感想や見合いの打診が相次いだ。
うまく交わせないでいるわたくしに代わり、ダリルさんが男性口調でうまく断ってくれている。
元々美しい顔のダリルさんは、きっと涙を呑んで男装してくれたのだろうし、何より、わたくしのそう言う相手なのではと噂されるように立ち振る舞ってくれた。
後でしっかりと謝罪しておかねばならないし、今回のドレス一式だってダリルさんが仕立ててくれたものだった。
「申し訳ありません、そう言う打診はお断りしております」
何度も聞こえたダリルさんの男性声は、時折ゾクリとするほど美しかった。
相手を支配するような声色。
相手を洗脳するような声色。
そして――わたくしを愛しているかのような声色。
もし仮にダリルさんが男性だった場合、わたくしはきっと狂うほどに恋をしたと思う。
狂って、壊れて、どうしようも無く彼に縋って、自分だけを見て欲しくて、きっと可笑しくなっていたに違いない。
――ダリルさんが女性で良かった。
――わたくしが父のように狂ってしまわなくて良かった。
目の前でわたくしに優しく微笑み、手を繋ぐダリルさんに微笑み、彼女に寄り添っていたその時だった。
「ヴィヴィアン! 探したぞ!!」
「……お父様」
そこには、もう数年会っていない老いた父が息を切らせながら人を分け入ってやってきた。
一瞬にして身構える私。
そんなわたくしを庇うように並び立ったダリルさんの手を、ぎゅっと強く握りしめたのだった……。
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アクセス頂き有難うございます!
ついにヴィヴィアン氏の御父上登場。
バーサーカーの妻になりまして! でも、名前だけ出てきたキャラですね。
次回から色々動き始めるようなので、是非お楽しみに!
また、少々厄介な風邪を引いてしまったので、様子を見ながら執筆しています。
でも完結はさせたい。
折角第三弾までいってるなら、完結させて終わらせたいっ!
応援よろしくお願いします/)`;ω;´)
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