第三章 黒薔薇の会ですが、何か?

第23話 意外な着目点からの攻撃ですが、何か?

 ~黒薔薇の会side~



「今回出された新作の小説読みまして?」

「ええ、ミラノ・フェルン作家とヴィヴィアンさんの合作でしょう?」

「黒薔薇の会を抜けて早々、ミラノ作家と手を組むなんて、なんて恥知らずなんでしょう!」

「わたくしだったら恥ずかしくて外を歩けませんわ!」

「本当に!」



 そう言って語られるわたくしのサロンでの会話。

 今回、ヴィヴィアンさんが発表した新刊は、あのミラノ・フェルンとの合作だった。

 しかも、音楽家の御三家が揃って絶賛しており、発売された小説は歌劇になると言う情報まで入ってきたのには驚いたわ。


 これで、ヴィヴィアンさんなり、ミラノ作家を攻撃する誹謗中傷を送れば、間違いなく音楽家たちが黙ってはいない。

 同じリコネル王妃が立ち上げた作家や音楽家を保護する団体、機関があるけれど、音楽に関しては、守る側が基地外だらけだと専らの噂であり、そして事実だった。

 古き良き音楽、そして現代音楽をも守るその機関に目をつけられれば、このダライアス伯爵家とて危険にさらされることは火を見るより明らかだった。


 ――なんて忌々しい。


 音楽家の御三家が後ろについている小説家を狙うことなど、到底出来ることでは無いし、すればこちらが狩られてしまう。

 ならばどうしたらいいのか。

 その論争が繰り広げられていた。



「個人的な感想として、良いところをなんとか探して褒めつつ、誹謗中傷をする手紙を送ったらどうかしら?」

「褒めるなんて出来ませんわ! 読みまして? 悲恋物でしてよ!?」

「しかも不倫して捨てられるんですのよ!? こんな愚かな女を褒めるなんて出来ませんわ!」

「そもそも、貧乏な男爵家からのシンデレラストーリーでもなく、悲恋ですのよ!?」

「最後は夫に捨てられるなんて、なんて愚かなのかしら! こんな物が世に出ることが信じられませんの!」



 貧乏な男爵家からのシンデレラストーリー。



 これこそが、このサロンに集まっている大半の貴族の娘たちが憧れるわたくし、アリィミアへの評価。

 それを……今回出した小説は、まるでわたくしの事を言っているかのような的確な表現で揶揄している。

 何という屈辱でしょう。

 そして、これを世に出す許可を出したリコネル、私はあなたを一生許さないわ。


 夫からこの本を手渡されたとき、なんとか取り繕い、本を受け取ってしまった。

 面白くて話題の小説だと言う老いた夫に付き合うのは、とても疲れる。

 それでも、小説の話題として読まねばならず、読み進んでいくうちに本当に自分の人生を読んでいるような気分にさえなった。

 そして、愛人を作り、夫にも愛人にも捨てられると言う結末。


 ……若い燕だってそばに置いていないわたくしを、ここまで馬鹿にするなんて。

 許せない。一生苦しめることが出来る方法で報復してやるわ。


 サロンは盛り上がり、いっそ暗殺者を雇って殺してしまおうかと言う話にまで盛り上がった。

 それが出来ればどれほど良いだろうか。

 ヴィヴィアンさんなら、容易に殺せるだろう。

 けれど、ミラノ作家に関しては経歴が経歴な為、殺すことは出来ないだろうし、何より彼女の家はあまりにも有名すぎる。

 ならば、的確に仕留められるヴィヴィアンさんを狙うのが一番ダメージを与えられるだろう。


 どう苦しめよう。

 どの方向で、どうやって、そして、このサロンを傷つけること無く、無害のまま苦しめるにはどうすれば――。

 そう思っていたとき、ふと、彼女の婚期を思い出した。

 ――あぁ、可哀想に、今にも枯れそうになっている花。

 花の盛りを過ぎろうとしている彼女を効果的に苦しめる方法が残っているじゃない。


 ならば、夫の力を借りて素晴らしい人材を見つけ、是非彼女への餞にしなくてはならないわね。



「皆さん、わたくしは素晴らしい案を見つけましたのよ」



 優雅に笑い、わたくしは皆さんに、考えた案を語った。

 それはとても簡単なこと。

 ヴィヴィアンさんに、わたくしが厳選した男性と結婚してもらい、是非、苦しんでいただきましょうと言う事だった。


 この貴族社会、変態伯爵のような男性は他にも多くいらっしゃる。そんな男性が婿入りすれば、家はどうなるかしら?

 いいえ、彼女自身がコロコロと人生を転がり落ちるような男性を、ヴィヴィアンさんのお父上に提供すればどうなるかしら?


 それはきっと、とても楽しいことになるわ。



「それは素敵な考えですわね!」

「結婚すれば執筆なんて出来なくなってしまいますもの!」

「アリィミア様の選んだ男性なら、嫌とは言えませんわよね!」

「ええ、ええ! 本当に!」

「それこそ、国の中枢を担う男性とお付き合いでもしてない限り、ヴィヴィアンさんの人生は終わったも同然ですわ!」



 拍手喝采と皆さんの喜ぶお顔が見れて良かったわ。

 何より、わたくしの心がとっても晴れるに違いないもの。

 そう、素敵な男性を用意しましょう。

 彼女にとても相応しい男性を。あの変態伯爵の家に婿入りするような基地外を用意してあげれば、きっと涙を流して喜んでくれるはずですものね。



「善は急げ、ですわね。夫が帰ってきたらどんな男性が良いか聞いてみますわ。皆さん少しだけの辛抱です。今回は誹謗中傷の手紙をやめて、わたくしの手腕を見ていてくださいね」



 微笑んで口にしたわたくしに、拍手の音が降り注ぐ。

 さぁ、わたくしからの、そして、黒薔薇の会からのプレゼントですわ。

 ヴィヴィアンさん、泣いて喜んでくださるわよね――?





=====

第三章入りました。

まずはアンチ組からのスタートですが、

よくよく考えたらこういう手も使えるんだよな……

と言う事を考えながら執筆しました。


第三章は、ヴィヴィアン氏とダリルさんの出番がとても多い回となりますが

二人の応援をよろしくお願いします(`・ω・´)ゞ





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