第25話 とんとん拍子に進めるようですが、何か?

 ~ヴィヴィアンside~



「お父様……」

「お前から連絡があるかと思ったのに、一切連絡をしてこなかったな! なんて恥知らずで親不孝な娘なんだ!」



 沢山の貴族がいる中で行き成りキレ始めた父。

 周りの貴族は父を見て軽蔑した表情をしているけれど、父はそんなことなど気にもせず言葉をまくし立てる。



「だがまあいい。永遠に金を運んでくる金づるが我が家にいたと言うことは喜ばしいことだ。これからも毎月、これまで以上に金を送ってこい。それが貴様の生まれた義務だからな」

「……」

「そうそう、それと、とある伯爵様から打診された見合いがある。了承の返事をしておいたからその日は家に戻るように。なんと、かの有名なエバール伯爵だぞ!」



 その一言に、わたくしたちの周りにいた貴族がざわめいた。

 エバール伯爵……彼は父と同じ年代の、父よりも酷い性癖を持った伯爵だと記憶していた。

 ――そんな人とお見合い?

 待って、そうしたら我が家はどうなってしまうの?



「エバール伯爵と言ったら……」

「首絞め伯爵よね」



 ――首絞め伯爵。

 そう呼ばれるエバールは、女性とそういうことをする際、相手が死ぬ寸前まで首を絞めながら堪能すると有名な方。

 それこそ、家に呼ばれた娼婦は生きて帰ることが出来ないとまで言われている。

 そんな人とお見合い……?



「お断りしますわ」

「もう相手には了承の手紙を送っているのだ。これ以上私の顔に泥を塗る真似は」

「純愛小説家であり、国王陛下に誉れを頂いたわたくしに相応しい男性とは思えませんわ。親不孝? 子供を不幸にするのを喜ぶ父を持った覚えはありませんことよ」



 ダリルさんの手を震えながらも強く握りしめ言い返すと、父の手が飛んできた。

 ――殴られるっ!!

 そう思ったけれど、殴られることは無く、わたくしに飛んできた手はダリルさんの手によって届くことは無かった。



「まぁ落ち着いてください伯爵」

「なんだ貴様は!」

「お初にお目に掛かります。私はダリル・アンダーソン。騎士団団長の長男と言えばお分かり頂けるかと」

「――!?」



 声にならない叫び声が出そうになった。

 それはきっと、父もそうだろう。


 アンダーソン伯爵と言えば、ジュリアス国王陛下が国を治め始めたときに、この国の騎士団長を交代させた際、騎士団長として有名になった尊き家柄。

 それこそ、国の中枢を担う家が、アンダーソン家なのだ。

 そして、その長男は貴族社会の表に出ることは殆ど無く、彼は謎の人物とさえ言われていた。

 色々な憶測が流れるほどの人物――それが、ダリルさんだと言うの!?



「エバール伯爵とご自身の大事な一人娘であるヴィヴィアンさんを結婚させるおつもりならば、その役目、是非私に譲っていただけませんか?」

「え!?」

「なんだと……? ははは! アンダーソン家の長男が我がヴリュンデ家に婿入りするとでも言うのかね!? 面白い冗談だ」

「ええ、家督は弟が継ぎますから、私は婿入りしても構いません」



 会場は更にざわめいた。

 誇りある、名誉あるアンダーソン家を捨て、変態伯爵として有名な父の、いいえ、我が家に婿入りしても良いと言ったダリルさんに、わたくしは目を見開いて彼女……いいえ、彼を見つめた。



「むむぅ……確かにエバール伯爵よりは君の家の方が確かに上だが……」

「私は父に好きなようにして良いと言われております。恋愛結婚しても良いと。なので、素晴らしいこの機会ですし、是非、ヴィヴィアンさんと私の結婚を視野に話を進めませんか? お家にとってもマイナスになることは一切無いかと思いますし、何より騎士団長の家と繋がることを考えれば、プラスしか無いかと思いますが?」

「ダ……ダリルさん」

「話は後でしよう、ヴィヴィアン。だが君にも決めて欲しい。私と結婚する気はあるかい?」



 夢のような言葉。

 何度も脳内で言葉を再生し、やっと霧が晴れるようにダリルさんの言った言葉を理解すると、強く頷き「もちろんですわ」とハッキリと口に出来た。



「しかし、エバール伯爵は我が家に多大なるお金を用意してくれると言っていた。君が用意できるのは確かに……追々それ以上の素晴らしいものになるな」

「そうでしょう? アンダーソン伯爵家から婿を取れば、嫌でも家に箔がつきます。しかも、大事な一人娘が恋愛小説を書いていて誉れを貰った、そのたった一人の愛娘が恋愛結婚するんですよ。こんなにも恵まれた結婚は他に無いでしょうね。誰もが羨む結婚です。どうです? 一度考えていただけませんか?」



 そう頭を下げてあの父に願いを告げるダリルさんに、父は上機嫌になった。

 それもそうだろう。

 国の中枢を担う伯爵家の長男が、自分の娘のために婿入りし、更に家には箔がついて、貴族社会に返り咲く事なんて簡単にできてしまうのだから。



「ふはははは!! アンダーソン伯爵の長男にそこまで言われては断れないでは無いか!」

「では、明日にでもお伺いし、話を詰めていきましょう」

「そうしよう! エバール伯爵には申し訳ないが、我がヴリュンデ伯爵家はアンダーソン伯爵との繋がりを喜んで受け入れよう!」



 まさかその場で結婚までの筋道を作ってしまうとは思わず、わたくしは立ち尽くすばかり。

 けれど、周囲からは割れんばかりの拍手が鳴り響き、父は上機嫌で去って行った。

 そして、ダリルさんから手を繋がれたままテラスに連れて行かれると、ダリルさんは少しだけ困惑しながらも、わたくしに語りかけてきたのだ。



「ごめんなさい、もう我慢の限界だったの」

「……え?」

「改めて自己紹介するわね。私はダリル・アンダーソン。この国の剣であり盾でもある騎士団長の長男よ。仕事はリコネル王妃から頼まれ諜報部に所属して仕事をしているの。女の姿はわたくしの趣味であり仕事の武器なの……私こそ変態よね」

「そんな事ありませんわ! わたくし、ダリルさんが男性だったらどれほど恋をしていたかと悩んでましたもの!」

「まぁ!」

「でも、本当に宜しいんですの? 我が家のようないつ没落しても可笑しくない家に婿入りすることは、とても危険ではなくって?」

「そこは気にしてないわ。任せて、婿入りしたら義父様にはサッサと隠居して頂いて、私が家を建て直すから」



 フフフッといつものように笑ったダリルさんに、わたくしはこれ以上なく安心し、そして、今日、この日と言うものを全ての記念日にしたいとさえ願った。

 ――いいえ、新たなわたくしの誕生日だわ……。

 それに、ダリルさんに出会ってから、わたくしはどれほど幸せになれたことか語り尽くせない。


 誉れを頂いたことだって、全てはダリルさんのおかげ。


 花の盛りを過ぎようとしていたわたくしを、そんなわたくしの太陽となり、月となり、雨となり、風よけになり、折れぬよう添え木となり……わたくしを守るために、真っ直ぐ恋愛結婚するのだと言ってくださったダリルさん。


 そう――恋愛結婚。


 以前ダリルさんに語った言葉。

 自分の書いたような恋愛をし、その後はミラノが書いた小説のような人生をと願ったこと。

 それを実現させてくれるダリルさんに、溢れる気持ちを抑えきれず抱きつくと、彼は優しく、それでいて強く抱きしめ返してくれた。



「私が貴女を守るわ……でも気をつけて。私、狂ってるから」

「わたくしも狂ってますわ。だって父が父ですもの……」

「なら、お揃いね」

「ええ、お揃いですわ」



 月に照らされ、わたくしは生まれて初めてキスをした。

 生まれて初めて、初恋の男性と――。


 嗚呼、自分の生まれを苦しんだ日もあったけれど、わたくしの苦しさはこの日のためにあったのね。



「さて、まず明日から色々攻めて行くけれど、驚かないでちょうだいね?」

「いろんな方向から攻めて頂いて結構ですわ」

「あら、言うようになったわね♪」

「だって、貴方と結婚できるのなら怖いことはもうありませんもの」

「フフフッ ご期待の添えるようにするわ」



 こうして、パーティ会場に戻ると、わたくし達はその足でアンダーソン伯爵に全てを語り、ダリルさんとわたくしの結婚に関しては直ぐに許可を貰えた。

 本当にトントン拍子で進んでいく時間は不思議な感覚で、きっとわたくし、脳が痺れてますのね。


 ――だって世界が、こんなにも明るいんですもの。





=====

決めるとトントン拍子に進めていくタイプ、ダリルさん。

相手にNOを言わせぬ姿が想像出来ました(笑)


ここから「やられたら倍返しだ!」がスタートしていきますが

スッとして頂けたら幸いです。


暫くは「エロ婿」の方を一気に書いて、完結できるように

進めていこうかと思っています。

折角第三部まで書いているので、完結させずに終わらせたくないな~

と、思ったのです('ω')ノ


頑張って執筆しますね!


そして、何時も応援ありがとうございます!

モチベーションが下がりそうな日もありますが、頑張ります(`・ω・´)ゞ

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