第20話 原稿を手に騎士たちなど蹴散らしますが、何か?

 ~ミランダside~



 あの後、ヴィヴィアン氏と共に城へ突撃した私たちは、騎士達に追いかけられようとも気にせずクリスタル様の元へと全力ダッシュし、謁見の間を守る兵士を薙ぎ払いドアを豪快に開けた。


 驚くジュリアス国王陛下とリコネル王妃。

 そして――輝いた表情で駆け寄ってくるクリスタル様。



『ついに、出来たか!』

「お待たせしましたクリスタル様!」

「力作ですわ!!」

『ジュリアスよ! 城の部屋の一角を借りるぞ!! さぁ行こうではないか……濃厚な小説の中へ!!』



 こうして、クリスタル様の後ろをついていくと、息を切らした騎士達が現れたが、鼻歌を歌いながら歩くクリスタル様と、その後ろを着いてく、死相を浮かべたような顔の私たちを見て何かを察したらしく、彼らは道を開けてくれたし、咎める者は誰一人いなかった。「クリスタル様の依頼じゃしょうがないよな」だの「それで必死だったのか」だのと同情されるような声が聞こえてきただけだ。



 部屋の一室へと入ると、メイドたちが私たちの様子を見て察し、温かい珈琲を用意してくれた。この珈琲と言う所がまたポイントが高い。

 この状態でホットミルクなんて出されたら、間違いなくヴィヴィアン氏と共にその場に倒れてしまうだろう。


 パラ……パラ……とページが捲られる音を聞きながら、私とヴィヴィアン氏は固唾をのんでOKが出るのを待つ。

 これでクリスタル様から了承が出なかった場合、怒涛の書き直しが来る可能性も否定できないのだ。

 だからこそ、入念に、念入りに、チェックにチェックを重ねて小説を仕上げた。



『ふむ……』

「どうでしょう」

「如何でしょうか……」

『……イイ。実に我好みの小説だ。手直し等必要あるまい』



 パンッと原稿を叩いて笑顔で一発OK。

 そう、一発OKだったのだ。

 今までこんな経験等一度もない!!



「「うおおおおおおおお!!!」」



 同時に叫んだ雄叫び。そしてヴィヴィアン氏と抱き合い喜びを分かち合う!!



「やりましたわ! わたくし達、やりましたわ!!」

「一発OKだぞ一発!! あはははははははは!!!」

『直ぐにリコネルに話して、本に出来るようにしてやろう。後は待っておる御三方を呼んでのチェックだ。お主たちは実に良くやった。本当に、良くやってくれた!』



 満足げに微笑むクリスタル様の笑顔。

 そうだ、私たちはやり遂げたのだ。一発OKで手直しなし! こんな事は、作家になって数年、一度もなかった!!



「本当に……わたくしたち……やり……とげ……」

「我が人生……一片の……悔いなし……」



 その言葉を最後に、私とヴィヴィアン氏はその場に倒れこんだ。

 一カ月半の睡眠時間三時間が体に堪えたのだろう……フフ、老いたくはないものだな。


 その後の事は記憶にない。

 だが、気が付けば隣には愛すべき夫が心配そうな表情で私をのぞき込み、自分が医務室のベッドで眠っていることに気が付いた。



「おぉ? 懐かしい医務室のベッドだな……」

「懐かしい医務室ベッドじゃないっすよ……。一本の小説作り上げるのにどんだけ寿命削ってんすか」

「むう、申し訳ない」



 まだフラフラするものの、ベッドから起き上がると、隣にはヴィヴィアン氏が眠っていて、か細い手を握りしめるようにダリルが座っていた。

 そう、私たちはこの手で、この脳で、ある意味完璧な悲恋純愛エロ小説を書きあげたのだ。

 フ――……っと息を吐くと、オスカーからホットミルクを差し出され、それを飲み切るとヴィヴィアン氏がもぞもぞ動き始め、薄っすらと瞳を開けた。



「ヴィヴィアンさん!?」

「ダリル……さん? あら……わたくし、どうしたのかしら?」

「どうしたのかしらじゃないわよ! クリスタル様の前でミランダと一緒に意識飛ばして、そのままお城の医務室に運ばれたんだから! 心配したのよ~!? 身体どこも痛くない? 怪我してないわよね!?」

「ええ……痛い所はないわ。フフフ……ダリルさんったら心配し過ぎよ。わたくしは大丈夫よ?」



 そう会話しながらヴィヴィアン氏もベッドから起き上がり、私と目が合うと、やり切ったとばかりに良い笑顔を向けてくれた。



「それで、倒れた原因は寝不足と疲れなのはわかるけれど」

「小説はどうなったんすか?」

「なんと」

「一発OKですのよ!」

「「おおおおお!!」」



 思わず俺とダリルさんの感動の声が重なったし、二人揃って拍手を送ると、ミランダは「一発だぞ一発!! 凄かろう!!」と叫びだし、ヴィヴィアン氏は「一週間くらいはベッドで横になりたいですわね」と遠い目をしていた。

 ――今回の作品。

 俺も度々チェックとして読んでいたが、濃厚は濃厚なんだが、エロな部分はヴィヴィアン氏に配慮したと言う事もあり、大分オブラートに包まれていた。

 それが功を奏したのかも知れない。



「さて、あまり無理も出来ないのは解るけれど、お家に帰りましょうか」

「そうですわね。といっても、わたくしが戻るのはアトリエですけど」

「ではダリル、ヴィヴィアン氏をアトリエまで送り届けてくれるかね」

「勿論よ」

「俺たちは家に帰るっす。一週間くらいはゆっくり体を休ませるっすよ」

「それが良いわ」



 こうして、私達とヴィヴィアン氏達は城の門の前で別れ、既に暗くなった夜道を歩きながら家路へとついた。

 だがその時――。



「俺思ったんすけど、いいっすか?」

「何かね?」

「ヴィヴィアン氏、男性恐怖症が治ったんじゃないかってくらい、俺の事、気にしなくなったっすよね」

「ああ! 確かに言われてみればそうだね!!」



 ヴィヴィアン氏の男性嫌いは有名だが、確かに彼女はオスカーが隣に行っても蕁麻疹が出たり、悲鳴を上げたりと言うのが無くなった。

 これは大きな一歩なのではないだろうか!!



「この調子で男性恐怖症が治ればいいんだがね!」

「そうっすね」

「後は、ダリルが男性であることを何時知るかにもよるがね」

「そうっすね……ダリル姐さん、本当女子力高いっすから」



 そんな事を語り合いながら家路へとつき、それから一週間は寝て過ごそうと思っていたのだが―――。

 翌日にはアトリエに集まって欲しいと言うリコネル王妃からの連絡を受け、私達は急ぎ用意を済ませアトリエへと向かうことになる。

 そして……。




=====

アクセス頂き有難うございます!


小説一本完結させたとき、肩の荷が下りるような、何とも言えない達成感を感じることが多々あります(笑)

締め切り乗り切った――! みたいな開放感です(笑)

そして、祝完結ってなると、大体私は祝い酒だと酒を飲みます(苦笑)

あぁ、完結後の晩酌、美味しいんだよなぁ……。


他の作家さんたちは完結させたらご褒美とか自分にあるんですかね?

ちょっと気になります。

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