第17話 悲恋は好きじゃないらしいっすけど、何か?

 今回、ミランダの小説をオペラにするにあたって、ダリル姐さんからある程度の情報は聞いていた。

 今回の主犯人物である、アリィミアは男爵家出身で、爵位としてはとても低かったこと。

 そして、思いを寄せていた男性から振られ、憧れていたリコネル王妃を妬み、嫉妬に狂い、婚期を逃しそうな頃に今の夫であるダライアス伯爵家の後妻に収まったこと。

 夫婦仲は良好のように見えるものの、実際はアリィミアには若い燕がいるらしい。

 だが、それは噂にすぎず、実際はまだ調査中らしい。


 そして、今回ミランダが考えた小説の内容。

 本人には一切情報を渡していないのに、それを官能小説と言うべきか、純愛小説と言うべきか、不倫小説と呼ぶべきか……とにかく、最初のプランでシナリオを考えて本にすると言った時は、一番驚いていたのはダリル姐さんだった。



「それ、本当に自分で考え出したの?」

「他に誰が産むと言うのだね?」

「まぁ、そうね」



 そんな会話がなされた事すら懐かしく感じるくらいに、ダリル姐さんと一緒に作家の凄さを知ったのだった。

 勘って凄いな、本当に……。





 さて、他の作家の小説の書き方は知らないが、ミランダの小説の書き方は実にシンプルだ。

 まず、書きたい物語を考える。先ほどのストーリーを一度考えてから、他の部分を練り始めるのが彼女のスタイルだ。


 小説の執筆には、起承転結が必要になる。

 その起と結をまず決め、間の承と転を別枠で埋めていくのだ。

 しかし、凝った感じで内容を詰めるわけではないらしい。

「〇〇がある」「〇〇が起きる」その程度の箇条書きが並ぶだけなのだ。

 他の作家はもっと具体的に書き込むのだと聞いたことがあるが、彼女は自由で居たいらしく、詳しい起承転結は書かないし書けない。



「だって、キャラクターたちが勝手に頭の中で動き回るんだ。それを追いかけるのに必死だよ!」



 そう言って筆を走らせる彼女は、まさに必死、いや、脳内戦争でも起こっているようだった。

 多数のキャラクターがいて、その多数のキャラクターに脳がシフトしていくらしく、それらを自在に操る彼女は、ある意味柔軟な脳を持っているのだろう。

 そして、ラストの結の部分まで持っていけば、後はピタリと執筆をやめるのだ。

 後日談は少しだけ。

 本当に少しだけの後日談を入れてからの執筆終了。

 彼女はそのスタイルを貫いていく。



「そう言う小説執筆タイプなんで、ヴィヴィアン氏には苦労書けると思うっす」

「確かにそうね……わたくしは、起承転結はシッカリ書き込むタイプなの。つまり、ミラノが書く小説を随一チェックしれて、起承転結を独自で纏め上げた方が良さそうね」



 2メートル程離れた場所での会話。

 彼女にとって、此れでも男性恐怖症を何とか克服しようと頑張っての距離らしい。

 これでダリル姐さんが実は男性であると知ったら、どうなってしまうのか恐怖である。



「ミランダは昔からそういう書き口なのよね……でも、今回はまさか悲恋にするとは思わなかったわ」

「そうなんですの?」

「ええ、彼女、悲恋は大嫌いなのよ」



 そう、ミランダは悲恋の小説が大嫌いだ。

 それなのに、敢えてその道に進んだのは驚きを隠せないのと同時に、咄嗟に悲恋に変更したのだろうと言うのが俺には解る。


 ――初めてのミラノ・フェルンによる悲恋のエロ小説。

 そして……悲恋を書かないヴィヴィアンとの共同作業。


 例え悲恋嫌いな読者であっても、大手作家の二人が手を取り合って書いたエロ小説には絶対に興味を示すだろうし、何よりオペラにもしやすいのだ。

 しかも、ただのオペラではない。

 大きな歌劇として出来上がるように仕向けたのである。


 こうなると、ミランダもだが、ヴィヴィアン氏の名声はかなり上がるだろう。

 それこそ、永遠に名を残すような小説、そして歌劇になりうるのだ。

 例え家が没落しようとも、ヴィヴィアン氏が生きていくには充分すぎる程のお金だって入る。

 しかも、歌劇と小説、二つのお金がだ。


 全くもって我が妻は、なんだかんだと弱い者を見捨てない。

 きっと危うさを知っていたのだと思う。でなければ手助けはしなかっただろう。

 寧ろ、合作すら拒否したはずだ。



「……負けられませんわ」

「ヴィヴィアン氏?」

「ミラノに負けられないと言ったのよ。この恩には必ず報わないと気が済まないし、何より救ってもらうばかりでは女が廃るっていうか」

「解る、解るわその気持ち!!」

「ダリルさんもわかります!?」

「ええ! ええ!! 私だってミランダに救われた一人だもの……恩をチマチマ長く返すことしかできないけれど、彼女と友人になれただけでもこの上なく幸せなのよ」

「わたくしも……友人になれるかしら」

「そこはミランダに聞いてみると良いわ。独特の返しがかえってくるけど、それをどう捉えるかは貴女次第ね」

「独特?」



 思わぬ答えだったのだろうが、確かにミランダの人付き合いは、とてもドライだ。

 あのセリフを聞いて何とも思わない人が居たとしたら、同類か、過去に何かあったかの二種類だろう。

 基本的には必ずと言っていい程、拒否反応が出るはずだ。

 寧ろ、人によっては、叩かれても仕方がないかもしれない。


 それでも、それを良しとする友達は、彼女には多い。

 理由は、ミランダと言う一人の人間を、良く知っているからだろう。



「まぁ、作家とは変人奇人の集まりですもの。多少の事を言われても気にもしませんわ。だって、我が家をご存じでしょう?」

「「まぁ……ね」」

「そんな中で生活していれば、多少の奇抜な返事が来ても反応できますわ。そんな奇妙な中で育ってきたんですもの」



 冷静に答えるヴィヴィアン氏に、俺とダリル姐さんは顔を見合わせたけれど、確かにあの家で育っていれば、奇抜でも奇天烈な回答でも難なくこなしそうではある。

 が、ヴィヴィアン氏は純粋なのだ。

 その脆さが俺たちには怖い。



「もし傷ついたりしたら、遠慮なく私に言ってね?」

「まだ言うとは決めてませんわ。彼女の事を見極めないとですもの」

「それもそうっすね。良い判断だと思うっす」

「ええ、それに、夫である貴方がそう言うタイプだからこそ、興味をそそられるのよ?」

「俺がっすか?」

「気が付いていないなら教えてあげますわ。貴方、普通の人間の男性とはかなり感性ズレてますわよ」



 思いもよらない言葉に目を見開いたものの、ダリル姐さんは吹き出して笑い、ヴィヴィアン氏はニッコリと笑い……俺は首を傾げて「そうっすかね?」と答えるだけで精いっぱいだった。





=======

合間合間に、ポメラを使って執筆です。

(キーボードの音が静かなので子供が寝ていても安心♪)


ミランダさん、やっぱり彼女はミランダさんだった。

悲恋嫌いでも、今後を考えての咄嗟の判断。流石、魔物討伐隊副隊長をしていただけあるなぁと思いつつ執筆しました。


明日以降は少々書き溜めが出来ていないので、お休みになるかの可能性がありますが

それまではどうぞ、応援よろしくお願いします。

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