第12話 黒薔薇の会のヴィヴィアンですが、何か?
~ヴィヴィアンside~
――今日は、とある方の家にあるサロンで定例会。
既に沢山の馬車が到着し、わたくしが多分最後に入るのだと理解すると、大きく深呼吸をしてサロンの扉を開けて頂いたわ。
「申し訳ありません、少し遅れてしまいましたわね」
「ヴィヴィアン様、お気になさらないで」
「お仕事が忙しいのは皆さんご存じですもの」
「では、定例会を始めましょう」
わたくしが席に着くと、リーダーである彼女は大きく発言した。
わたくしが参加している誹謗中傷をメインとするソーシャリティ……黒薔薇の会では、こうやって定期的な定例会が行われる。
今どの作家がどんな小説を書いているのかを調べるのは――わたくしの役目だった。
いいえ、それが、わたくしの生き残る道だと思っていた。
「それではヴィヴィアン様、ご報告を」
「ええ、ミラノ・フェルンは誹謗中傷の手紙を読むことは殆ど無く、我々の出した手紙は、仕分け人によって分別され、破棄されたと思いますわ」
「まぁ、なんてこと!!」
「作家なら一つ一つ手紙を読むのが礼儀ではなくって!?」
「破棄された理由としては、リコネル王妃による徹底した誹謗中傷の手紙へ対する対応だとお聞きしていますわ。ご本人も本を書いているのだから、誹謗中傷は恐ろしいのでしょう」
「まぁ、一国の王妃が怖いだなんて……」
「本当に……」
あちらこちらから聞こえる、クスクスと笑う声。
自分の国の王妃が困る姿を想像して嘲笑っている姿に、わたくしは首を振って真っ直ぐ前を向いた。
「また、ミラノ・フェルンは誹謗中傷等、恐れるに足らぬと言わんばかりの態度でしたわ。わたくしたちの今の活動では、ミラノ・フェルンの筆を折ることは不可能だと思いますわ」
「まぁ! 本当に神経が図太い女ね!」
「流石、魔物討伐隊にいただけはありますわ」
「神経が魔物のように腐っているのですわきっと」
「清めないと、何時まで経っても、あのような卑猥な本が出続けてしまいますわね」
「ヴィヴィアン様とて、あのような卑猥な本が世に出ることは許せない事ではなくて?」
そう問いかけられ、わたくしは強く頷いた。
「あのような下品下劣極まりない本がこの世に出ることは許せることではありませんわ。恋愛とは清く正しくないといけませんもの」
「そうですわ! ミラノ・フェルンの小説には不倫だって出てきたことありますのよ!?」
「本当に汚らわしいこと!!」
「貴族社会が不倫で溢れているような書き方は許せませんわ!!」
「本当に!!」
「許せませんわ!!」
「それに、今回の作品だって……まるで変態としか思えませんわ! 清い恋愛を書かれるヴィヴィアン様とは大違い!! 本当に気持ちの悪い事ですわ!!」
黄色い叫び声を上げながらミラノ・フェルンを否定し続ける皆さんに、私は何故かホッとしていた。
ダリルさんの言っていた、私がターゲットになる事なんて……あるはずありませんわ!
わたくしの筆は、彼女たちに守られていますもの!!
「また、確定的な話ではありませんけど、リコネル王妃は新たなる小説を執筆中とのことですわ」
「まぁ! 国母がまた暇を持て余していますの?」
「だから子供が一人しか産めないんですのよ」
「跡継ぎを産んだからって趣味にずっと走られるのは困りますわ」
「本当に、由々しき事態ですわ!」
「わたくしたちの手で、リコネル王妃の目を覚めさせてさしあげないと。本当に筆を折らせない事には、他の作家たちも筆をおかないんじゃありませんこと?」
「言えてますわ!!」
――リコネル王妃の書く小説に憧れて、わたくしは小説を書く道に活路を見出した。
これは、絶対に彼女たちにバレてはならないことであり、絶対に口に出すことが出来ない秘密……言えば、わたくしにまで牙をむかれるかもしれないから……。
でも、気になる言葉が……。
「他の作家も筆を置くと言うのは……わたくしも?」
この問いに、場は氷のように静まり返った。
皆口元を扇子で隠し、わたくしを射るように見つめてくる。
「……まさか、ヴィヴィアン様は素敵な本を書いていらっしゃるじゃありませんの」
「ええ、美しい純愛ストーリーは心を打つものがありますわ」
「恋愛とは清くないといけませんわよね」
「全くですわ」
主催者の言葉を皮切りに、皆さんがわたくしの小説を絶賛してくださる。
その様子に少しだけホッと息を吐くと、主催者であるご令嬢はわたくしを見つめ優しく微笑む。
「そうですわ、ヴィヴィアン様こそ相応しいかもしれませんわ」
「何がですの?」
「決まってますわ! リコネル王妃の書く小説を大々的に、ミラノ・フェルンの時のように集団を引き連れて叫ぶのです。 害ある小説を、この国の王妃が書いていると」
その言葉に、わたくしは目を見開いて持っていた扇子を落としてしまいそうになった。
「そ……それは出来ませんわ。不敬罪で捕まってしまいますもの!!」
「国民が望んでいることを叫んで何が悪いんですの?」
「わたくしには出来ませんわ! そもそも、リコネル王妃の経営しているアトリエで執筆しているんですもの。色々問題になってしまいますわ!」
「ん――。正直、そこまで小説書くことが大事かしら?」
思わぬ言葉に思わず呆然としてしまったけれど、周囲からはクスクスとわたくしを嘲笑う笑い声が聞こえてくる……。
「わたくし思うの。貴女も女盛りを無駄な小説で過ごすより……没落しそうな家の為に、結婚を考えては如何かしら?」
「それ……は」
「何も小説をやめろとは言ってませんわ」
「でも……」
「一度、考えてみて欲しいですわ。 害ある小説なんて、この世に無くて良いでしょう?」
――クスクス。
――クスクス。
わたくしを見る嘲笑う笑みと笑い声に、わたくしは立ち上がると挨拶もせず屋敷を飛び出した。
【正直、そこまで小説書くことが大事かしら?】
【わたくし思うの。貴女も女盛りを無駄な小説で過ごすより……没落しそうな家の為に、結婚を考えては如何かしら?】
今まで言われたことのない否定的な言葉。
【そうですわ、ヴィヴィアン様こそふさわしいかもしれませんわ】
【リコネル王妃の書く小説を大々的に、ミラノ・フェルンの時のように集団を引き連れて叫ぶのです。 害ある小説を、この国の王妃が書いていると】
悪意を込めて、わたくしと同時に、リコネル王妃を潰そうとする言葉。
息を切らし、馬車に乗り込むとわたくしは今にも没落しそうな我が家に戻ることはせず、リコネル王妃の営むアトリエへと逃げ帰った。
わたくしの家はもう、わたくしの居場所ではなくて。
わたくしが居られる場所は、このアトリエだけで。
【でもこれだけは覚えておいて】
【貴女も、もう、餌食として見られているわ。覚悟を決めた方がよろしくってよ】
【自分だけは筆を折られないとでも思った? 保身の為にソーシャリティに参加していれば安全とでも? 違うでしょう? 直ぐに彼女たちは貴方を餌食にするわ。気を付けて、自分の小説を、自分の筆を守れるのは自分だけよ】
ダリルさんの言っていた言葉……アレは今回の事を指していたのね……。
用意されたベッドに倒れこみ、机にある自分の愛用のペンを見つめる。
たった一つ、実家から持ってくることが出来たこのペンは、わたくしの宝物。
――その宝物を折られるとしたら?
わたくしは、そんな他人の大切なものを折る手伝いを今までしていたとしたら?
ポロポロと零れ落ちる涙をそのままに、ペンをギュッと握りしめると嗚咽が零れた……。
「……今更、誰にも助けてなんて言えるはずないじゃないっ」
自分の保身の為に、仲間である作家の情報を渡していた私に、助けを求める権利なんてどこにもないわ……。
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予約投稿になっていたりします。
此処まで読んで頂き有難うございます!
個人のアンチより、集団のアンチの方が怖いよね。
と言う考えから書かせていただきました。
此処までで一応、第一章が終わりましたが、次回からは第二章に入ります。
さて、これらの小説を書いていて、やはりダリルさんは頼れる兄貴……いえ、
頼れるオネエサンダナーとつくづく思います。
出来るオネェさんは強いんです(笑)
ヴィヴィアン氏も、今後どうなっていくのか気になるところですが
是非、今後も読み進めてどうなるのか、見て頂けると幸いです。
さて、小説を執筆するにあたり、私も昔はよく言われたものです。
「金にならない事をして何になる」と(笑)
趣味でやっているわけだし、誰かに迷惑をかけているわけではないんだけどなぁ~。
なんて思ったものです(遠い目)
そして、これまで♡での応援や評価等有難うございます!
今後も応援等ありますと執筆速度が上がるかもしれません。
どうぞ、よろしくお願いします(`・ω・´)ゞ
(小説上げ始めて4日で一章終わるのは、最短かも知れない)
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