第6話 絵師の方も個性派ぞろいですが、何か?

「ところで、絵師のお二人にはファンレター等は届きますの?」



 リコネル王妃からの問い掛けに、今まで静かにワインを飲んでいた童話と恋愛小説の絵師であるレナス氏は顔を上げ、優しく微笑んで頷いた。

 レナス氏は基本的に喋りたがらない。

 何故なら、美しく柔らかい見た目とは裏腹に、レナス氏は男性だからだ。

 見た目と声のギャップが激しいゆえに、彼は言葉を発することは殆ど無いが――。



「ファンレターは沢山頂きます。主にお付き合いしたいと言う熱烈な男性からのファンレターを」

「お……おう」

「それはまた……」

「理想の女性だと仰るんです。理想的を詰め込んだ女性だと。けれど……あたくし、男ですから。この見た目はただの趣味ですから。男が思う理想的な姿をしているのは当たり前じゃないですか? 男の理想の女性像が分かるからこそコスプレしているんですから」

「コスプレでしたのね……」



 レナス氏、理想の女性像をギュッと詰め込んだ見た目は、彼の中ではコスプレらしい。

 それを楽しんでいるからこそ、出来るだけ野太い声を出さないように微笑んでいるだけで、男性からの人気はうなぎのぼり。

 彼の声を聴けば、どんなに恋だ、何だと言っても、100年の恋心も一瞬でぶっ飛ぶだろう。



「あたくしより、ヨハネルの方がファンレターは凄いのではなくって?」

「俺ですか?」

「ええ、際どいエロ小説の挿絵も書いているんですもの。それなりにファンはいるのではなくって?」

「そうですね……根強いファンはついています。街中は気楽に歩けませんね、スケッチブックを手にファンが猪のように走ってきますから」

「生活しにくそうっすね」

「しにくいです……」



 レナス氏の場合、コスプレをやめれば外に出ることは容易にできるらしいのだが、ヨハネルの場合はそういう訳にもいかないらしく、最近は買い物は家族に頼んでいるらしい。

 偶に息抜きしたい時は、深夜にコッソリと酒場に行って、出来る限りの変装をして酒を飲んでいるのだとか。


 人気絵師は大変だな……。



「でも、ファンサービスはしたいですよ。ただ、転売して売り払おうって人もやっぱり少なからずいる訳で」

「それですわよね……」

「転売……ですの?」



 リコネル王妃は知らなかったようだが、彼ら絵師の絵にはファンの間で破格の値段がつくのだ。

 それを利用した転売屋がいるのは悲しい事実であり、それが嫌で、ファンサービスで絵を描くことはやめているらしい。



「本当のファンの為に絵を描くことは誉です。喜んでくれるならサービスだってしますよ」

「けれど、あたくし達の絵を転売して金銭を得ようとする輩も少なからずいるんです。そういう輩がいると、どうしてもファンサービスは出来なくなってしまいますわ」

「それを言うなら、我々小説作家とて、サイン入りの小説を転売されると言う事も多々ある出来事ではあるな! 故に、身元がシッカリしている者にしかサインはしないようにしている」

「それはありますね……」

「サインがあるのとないとでは、価値が全然違いますものね」

「解るっす」



 そう、リコネル王妃のサイン入りの小説は、とんでもない値段がついているのだ。

 そもそも、一国の王妃のサイン入り小説だ。早々手に入るものではない故に、リコネル王妃が小説を販売する時は、全ての店に「サインを求める客がいれば丁寧にお断りするように」と通達が行くほどである。

 ちなみに、ミランダのサイン入り小説は、一部のファンでは【性書】と呼ばれ、喉から手が出るほど欲しいファンはいるのだ。

 聖書ではないところがまたジワジワ来る……。



「絵の依頼が沢山くるのもありがたいことですわ。それが、転売屋ではない事を確認するのもまた一苦労で」

「最近はニナニーさんとディロンさん、ディランさんが転売屋でないかを確認して、承認された依頼でしか絵は描いてないんですが、三人が確認し始めてから、どれだけ転売屋がいたのか驚かされたくらいですよ」

「まぁ……国で規制しないといけませんわね。戻ったらジュリアス様にご相談してみますわ」

「「お願いします」」



 こうして恙なく新作発売祝いが行われていたその時、アトリエに入ってきたのはダリル姐さんだった。

 仕事で遅れてくると言う話を聞いていたが、彼の手には今回ミランダが出したオネショタ小説5冊が抱えられている。



「遅くなっちゃったわ~! 新刊発売おめでとう――!!」

「もう直ぐパーティーが終わりでしたわよ? お仕事忙しいみたいですわね」

「ええ、今回の任務が意外と手ごわくて……。こんなに疲れている私の為に、ミラノさん、サインを5冊分お願いできるかしら? 依頼主の身元はシッカリしてるわよ」

「是非サインして差し上げよう!」



 スッとペンを取り出し、5冊全部にサインするとダリル姐さんは「キャー嬉しい!」と喜んでいた。

 ダリル姐さんは顔が広い。それでいて人をちゃんと選ぶ人だから、サイン本はちゃんとした人たちの元へ向かうのだろう。



「実は、花屋の女の子達とお友達からの依頼なの~!」

「サラッと教えちゃうんすね」

「だって、彼女たち自分たちで行くのはおこがましいからって言って、私に頼んできたのよ? でも、それは正解だったかもしれないわね。お外はまだパーティーしているのを知っているファンで囲まれてたし。一部は熱狂的なファン、一部は転売したくてファンの気分で参加な人たち、後は、アンチ組とで睨み合いが始まってたわ~!」

「「うわ、外に出たくない」」



 思わずヘンリーと言葉が重なってしまった。



「外の警備してる兵士さんたちが睨みを利かせてるお陰で、大きな混乱には発展してないわよ? 一触即発な所はあったけれど」

「全く! 折角の発売日くらい仲良くしていて欲しいものだね!」

「ミラノさんが人気作家ってことですよ。僕の時はこうはなりませんしね」

「私だって皆さん清いファンばかりですから喧嘩に何てなりませんわ! これは、卑猥な小説を書いているミラノさんにだけ起こる醜い争いではなくって!?」

「まぁ! 安心なさって? わたくしの小説の発売日も今回のような出来事は起きますわ! たまに怪我人がでるくらいですのよ?」



 リコネル王妃、笑顔でサラリとヴィヴィアン氏にトドメをさしていくスタイル、嫌いじゃないっす。

 こうして、仕方なくパーティーはお開きになった訳だが、外に出る時は、リコネル王妃が増員した王国護衛騎士達による厳重な守りの中、多種多様の雄叫びが飛び交う中を歩み、各自馬車に乗り込むと護衛を付けてもらい家路へとついた。

 流石に馬車を追いかけてくるファンは早々いなかったが、中々に凄い熱気があったのは間違いない。



「あの熱気の中でずっと出待ちしてたんすかね」

「ファンとは体力もいるものだよ」

「確かにそうっすね」

「実にありがたい事じゃないか! 小説を一本仕上げた甲斐があるというものだよ!」



 豪快に笑うミランダに俺も苦笑いしながら、小説が出来上がるまでの彼女の苦労をねぎらい、今日は彼女の我儘に付き合おうと決めた。

 まぁ、その我儘と言うのは――体力の限界まで彼女と濃厚な時間を過ごす事だった訳っすが……お察しください。




 ==========

 今日は2話更新でした。



心が新鮮なうちは、良い作品が書ける!


実際、心が疲れてると良い作品が書けないかも知れないな~と言う事を含めて書かせてもらいました(`・ω・´)ゞ

偶には心の休息、大事大事。


小説をずっと書いていると、息抜きしてる間もネタ考えたりして大変なので

私の場合は「朝は家事をしながら小説を書く!昼は休む!何が何でも休む!」と

決めてます(笑)


それでも、執筆したい時は、今日はネタの神ィがご降臨しておられる……。

と思って執筆します。


そうでない時は、休んで保育園から帰宅する息子に備えるのです。

リアルモンクタイプの息子とのガチバトルですから(笑)


同じ作家さんなら何となく分かるかもしれませんね。

読者様にとってはどうでしょうか。



また、♡での応援等有難うございます!

ボチボチ執筆中ですので、応援よろしくお願いします(`・ω・´)ゞ

レビューあるといいなぁ。

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