第2話 果物を買う
「パフェ作りたい。果物買ってきてよ」
午後の光の中で、後ろ姿の姉が言った。本当は私に姉はいないが、怖いお姉ちゃんだったのだろうか、わたしは反抗もせず、急いで果物を買いにスーパーに出かけた。
普段行かないスーパーだった。
果物、果物…、と忠実な部下のようにわたしはやけに焦って果物を探した。けれど、おかしい。見当たらない。普通のスーパーなのに。
いや、よくよく辺りを見回すと違う。果物どころか、食べ物が売ってない。よく見ると、全部パッケージされた何かが売られている。
「ひんしゅく」、「喧嘩」、「一役」…
違う。こんな概念上のものが買いたいんじゃない。第一「ひんしゅく」なんか誰も進んで買いたくない。よく見ると「ひんしゅく」と「喧嘩」はマイナスの値段が書かれていて意味がわからない。
全てパッケージされているだけなのかもしれない。果物の名前が書かれたパッケージを探した。
それでもない。
「青田」
違う。
「若い頃の苦労(純正品)」
もういや!
ん?
屈んだ時に、台の下側が目に入った。
そこには紛うことなきイチゴがあった。
まるでわたしを誘い込む罠のように、イチゴだけがカゴに盛られて透明のパックに入って売られていた。
よかった。1種類だけだけれど、パフェならイチゴがあれば上等だろう。姉は喜んでくれるだろうか。気持ちが一気になごんだから、イチゴと、申し訳程度に1番無害そうな「一役」を買って店を出た。急がないと…
「お姉ちゃん!果物、買ってきたよ」
外をぼーっと見つめていたらしい姉が初めて振り向りむく1秒間で、多分外れることのない不吉な予感が一気に膨らんだ。
案の定、振り向いた姉は子供の落書きのように凶悪に目が釣り上がった顔をしていた。
「ざんねん!イチゴは野菜でしたー!!」
自分が叫ぶ声で目が覚めた。
もう大分日は高く昇っていて、外はよく晴れているようだ。穏やかな朝なのに、ひどい夢だったな。
静かに起き上がり、昨日実家からクール便で届いたイチゴを黙って貪る。
甘い。身体に染み渡る香りだ。
「やっぱり果物だって…」
おわり
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