ヒトを殺すということは
結城恵
ヒトを殺すということは
――――おめでとう、探偵君。
君の証明は完全だ。今しがた君の述べた推理は、一切の矛盾を孕まない。
今こそ告白しよう。殺人犯は、間違いなく私だよ。
……さて、神妙にお縄につきたいところだが。少々私の小話に付き合ってもらえるかね。
君は『ワイダニット』という言葉を知っているかな。
……ああ、その通り。"Why done it?"。
『何故そうしたのか』が核心となる、推理小説の一ジャンルだ。
私はね、常々こう思うんだ。
ありふれた殺人、例えば金銭、例えば愛憎、例えば快楽。
全くと言っていいほど馬鹿げている。チープであると言えよう。
種の存続のための捕食とは違う、純粋な『殺害』という行動。
それは人のみが成し得る、とてもとても特別な行為である筈だ。
だからそう、私は口火を切ったのさ。
無能なマスメディアの連中は、随分センセーショナルに報じてくれたよ。
その意味は分かるね、探偵君? 私の信奉者は多いぞ。
この世からチープな殺人は減るだろう。
正しき『殺人』とは、本能的な喜怒哀楽を超越し、人でありながらヒトを越えた究極の芸術だ。
その真理を人々に示すことこそが、この事件を起こした『
――――君は実に優秀な探偵だったが、残念ながら名探偵では無かったというわけだ。
あるいはシャーロック・ホームズならば、私の真意を看破できたかもしれなかったのにね。
……これで小話はお終いさ。
笑えよ、探偵君。『事件を解決したい』君にとっては、最高の舞台だろう?
――――ククク……ハハハハハハハハッ!!!!
さあッ! 狂おしいほどに美しい、ディストピアの幕開けだッ!!
ヒトを殺すということは 結城恵 @yuki_megumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます