十巡目

 私は久々の勝利を得て、その後の一週間をハッピーな気持ちで過ごすことができた。


 次もきっと勝てる。雀荘に向かう足取りは軽く、自然と笑みがこぼれる。


 私は完全に自信を取り戻していた。


 今回は秘策としてパンツにロザリオを仕込んである。再度の神頼み、今度は外国の神様、その効果はいかに…。


*****  *****  *****


 まず結論から言うと、今日も最初の一戦はトップを取った。しかし、それは砂漠のオアシスのようなもので、少し歩けばまた悪夢が始まるのである。


 そんなことは知る由もない。


 というわけで、今日の二回戦。南場の三局目にして、私はまたもトップ。勝利を目前としていた。


 やはり神様パワーか。後輩君の無自覚大砲が放たれることもなく、静かに巡目が進んでいる。


「よし、きたきた」


 運気が集まっている。ロザリオパワーは絶大である。

 序盤、私は早々にテンパイした。他は誰もリーチをかけていないし、ここでリーチをかけておけば後輩君が振り込んでくるか、もしくはツモでアガれるだろう。


 るんるん気分で牌を切る。


「あ!」


 後輩君が急に大きな声を出した。

 どきっとしながら、「どうしたの?」と聞いた。


「テンパイしてました!」

「なんだと?」


 彼はどうやらテンパイしたことに気づかず、牌を切ってしまったらしい。


「えーっと。それで、どうしたいの?」

「待ってください。もしかしたらアガリかも…」


 なんだと?


「なんか牌がごちゃごちゃしてて…。待ち牌がたくさんあるんです」


 なんだと?

 その発言、嫌な予感しかしないぞ。

 まさか…清一色チンイツ


「これです。アガってますよね?」


 後輩君はロンも宣言せずに手牌を晒してしまった。もしアガってなかったらそのまま続ける気か…。

 しかしその心配は無用である。

 彼はちゃんと役牌を混ぜつつ混一色ホンイツを仕上げていた。


 良かった。清一色じゃなくて…。

 って、それでも満貫やないかー!


*****  *****  *****


 気を取り直して、オーラス。親は後輩君だ。

 私はまだトップを維持していたが、同僚A氏、B氏とは6000点差、後輩君ともの12000点差である。


 もう一度やられたら負ける。

 気を引き締めて勝負に挑む。


 意外なことに、その局も静かに進行した。後輩君がテンパイなしで流局すれば私の勝ちである。テンパイしていれば、流れずオーラスが続く。


 私が牌を切り、全員があと一回ずつツモを残すという状況で、後輩君はこんなことを言った。


「役がつかない状況で鳴くのって良くないですか? 一応テンパイはできるんですけど」


 私の切り牌に対して言ったらしい。


「別に問題はないけど。テンパイして終わるだけでも点棒はもらえるしメリットはあるよ。あなたは親だから連荘レンチャン維持の意味でも十分に価値はある」

「じゃあ、ポンします」


 彼は九萬キューワンを取り、手配から取った牌とともに卓の端に並べた。


 と、ここでまた嫌な予感がする。

 今のポンで、最後のツモが後輩君にずれた。


 まあ、役はないと言ってるし、万が一をやられても害はないだろう。


 私はテンパイを維持しつつ、完全安牌の西を切って最後のツモ順を終えた。同僚A、Bもツモ切り。


 そして、後輩君のツモ順。


「あ、揃ったけど、役がないからアガれないですよね…」

「そうだね」


 私が即答すると、同僚AとBが首を横に振った。ちゃんと教えろという意思表示である。


「えーっと、後輩君。ハイテイツモという役があってね。最後の牌でツモアガリすると、無条件で一飜イーハンつくの」

「そうなんですか!? じゃあアガれるんですね!」

「ええ。でも一飜だからね」

「実はドラが3枚もあったんです。良かった! たくさん点棒もらえますよね?」


 それは先に報告しておきなさい!


 その一撃で彼はトップに立った。私たちのルールでは、親がトップの状態でかつオーラスでも、流れるまで連荘は続く。


 まだだ、まだ終わったわけじゃない。



 その次の局。後輩君はまた「またテンパイしてるの気付いてませんでした!」と言い、「リーチかけてなかったけど、先輩のその牌でアガれますか…?」などと意味不明な供述をしつつ、私から点棒をむしり取った。

 それにより私は四位に転落。


 ナチュラルにヤミテンするんじゃない!

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