九巡目

 神頼み(というか厄払い)までして挑んだ後輩君との戦いは、私がオーバーキルされるという結末で終わった。


「点棒の代わりに脱ぎます。これで満足でしょ? 見たくないとか言ったらセクハラで訴えてやる!」

「先輩! 言ってることが無茶苦茶です! あ、脱いじゃダメー!」


 勝負下着を晒そうとしたところ、後輩君たちに力づくで止められた。


 そして私は気付いた。神がダメなら仏に頼めばいいじゃない。


 アーメン。


*****  *****  *****


七対子チートイツって役もあるんですね」


 日を改めて。

 いつもの面子での半荘ハンチャンが、のほほんと進行している。しかし後輩君の一言で、冷たくも怪しく空気が変わる。


 もう分かっている。後輩君が七対子を狙うということは、たぶん七対子以上の何かがついてくる。


「ええ。狙うの?」

「はい。やってみます」


 私は同僚AとBに目配せした。どうせなので、彼が何をやらかすのか賭けてみよう。


 まず同僚A。彼は字一色ツーイーソーを乗せてくるのでは、と予測した。しかし大車輪をやったばかりの彼がまた役満をアガるのはやりすぎである。


 一方、同僚Bは役としては七対子のみだけど表と裏のドラが乗ると予測した。なかなかありそうな話である。


 私は混一色ホンイツを乗せてくると予測した。


 そして麻雀というより後輩君役当てゲームのなったまま巡目は進む。


「お、きたきた。リーチ!」


 十巡目。私は平和ピンフとドラ1を確保した状態でリーチをかけた。

 いつもなら後輩君に追っかけられて振り込むパターンである。しかし今日の私は一味違う。


 どこが違うって?

 パンツに数珠じゅずを入れてあるのさ。


(注:絶対に真似しないでください。仏罰が下る可能性があります。)


 そして、なんと。なんとなんと。

 仏の力を借りたお陰なのか、私はその三巡後に見事ツモアガリをした。


「あー、先輩に先越されてしまいました。僕はテンパイもできなかったです」


 とりあえず賭けの結果を確認するため、後輩君の手牌をみんなで見た。


 危ねええええええええ。

 字一色、一向聴イーシャンテンまで揃っていた。


 数珠の加護(?)がなければ、やられていたかもしれない。


 私は調子良く、その局の後も上手く立ち回り、久々のトップで終えた。

 同僚AとBが拍手で祝福してくれた。そんなに勝てないと思われてた…?



 しかし問題が発生する。私は一声かけてから、トイレに向かった。



 後輩君の凄まじい運気に耐え切れなかったのだろう。数珠はバラバラに千切れてしまっていた。まあそれだけなら…ちょっと怖いで済む。


 問題は、たまが一つ…穴に入ったぞ?



*****  *****  *****


 その日の晩、私は夢を見た。(ちなみに珠は無事取り出しました。)


 男が立っている。顔は良く見えない。

 その男は私にこう言った。


「ちょっと頑張ってみたけど、もう無理っぽいね。あとは自力で頑張ってくれ」


 そこで目を覚ます。あなたは…誰?


 まさかブッダ? 


 そんなわけないか。日本語喋れるはずないもんね。

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