四巡目

 また後輩君に負けた。

 またまた後輩君に負けた。

 それでも私が後輩君より弱いということはあり得ないし、そろそろ勝てる頃だろう。

 私は気合い十分で、今日も同僚たちと麻雀に向かう。


*****  *****  *****


「先輩。この前教えてもらった役、面白かったですね」


 この前というと、純全帯么九ジュンチャンのことか。

 私はその言葉を聞いて良き策を思いつく。


 一局目。起家は後輩君だ。ここで調子に乗せると、馬鹿みたいにツモアガリを連発されて、私の点棒がすっからかんになる。

 ならばここで勢いを止めるべきだ。


「後輩君。混全帯么九チャンタって役もあるよ。狙ってみたらどうかな?」


 私は役成立の条件を教えた。後輩君は嬉しそうに「やってみます!」と答えた。


 よし。チャンタなんかよほど変な配牌のときしか狙わない。門前メンゼンだとなかなか揃わないし、どうしても待ちが狭くなるし、鳴くとたったの一飜イーハンになってしまう。他に役があったり、役牌が揃っているならともかく、配牌を考慮せずに狙うなんて普通は考えない。


 後輩君が最初の牌を切り、私のツモ。東だった。


「…………」


 私には未来が見える。これ、中盤以降まで抱え込んだままテンパイして仕方なく切ったら、後輩君に振り込むパターンだ。


 彼の手が進む前に切ろう。

 私は東を捨てた。


「先輩! それポンです!」


 もうあるのかよ!

 ああ、しまった。これでもう後輩君はやりたい放題の状況だ。

 でもいろいろ考えた結果なんだ。だから同僚AとB、私を睨まないでくれ。

 まあ、チャンタなんて役を無理矢理狙ってくれればたぶんアガれないだろうし、何も心配はいらない。


「これでチャンタに一歩前進ですね!」


 いやそれもうダブ東メインだからね?

 チャンタおまけになってるからね?


 一巡回って、また私のツモ。今度は中を引く。


「…………」


 中は対面の同僚Aが一手目に切っている。集めるメリットは少なそうだし、残すのは一応リスクか…。このタイミングなら鳴けないだろう。


 私は中を切った。


「ポンです!」


 もう集めたのかよ!

 このタイミングで拾ってきたのかよ!


 まずい。このペースだと五、六巡目くらいにはテンパイしてしまうかもしれない。


 だが私は負けない。么九ヤオチュー牌なんてもう切らないし!


 後輩君が牌を切って、また私のツモ。


 西。


 二度見した。三度見した。

 これは試練だ。

 集めてもメリットのないオタ風、後輩君のせいで安牌アンパイにもならない字牌。でも今切ったら後輩君が鳴くかもしれない。


「えい」


 私は勢いで切った。

 後輩君は鳴かなかった。


 よし、私は勝負に勝った。そういえば配牌から一手も進んでいない気がするが、気にする必要もない。


「あ、同僚Bさん、それポンです!」


 何をしている…。

 安心したのも束の間。同僚Bが切った九索キューソウでポンする後輩君。


「テンパイした?」


「テンパイしました!」


 元気良く答えてくれてありがとう。もう全員オリたよ?


 回し打ちをしようにも、まだ字牌は抱えているし、使えなさそうな一九牌もある。後輩君のアタりそうな牌を避けて、七対子チートイツでも狙うか…。


 ただそんなに上手くいくはずもなく、私の手はぐずぐずのまま巡目は十二を過ぎた。

 このまま流れてくれないかなぁと思いながら安牌切りを続けていると、ついに後輩君がツモを宣言してしまった。


「先輩やりました! これチャンタですよね!?」


 違います。それは混老頭ホンロートーです。セットで対々和トイトイもついています。中とダブ東もあるし、もう私、何点払えばいいのか分かんなーい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る