三巡目

 何故、私は後輩君に麻雀で勝てないのか。初心者相手に毎回フルボッコされるのは経験者としてあまりにも情けない。

 だがそんな日々も今日で終わりだ。私は優し過ぎたのである。

 まだ実力のない後輩君が下手に自信をつけてしまうと将来が心配だ。教育のためにも、心を鬼にして対局に臨まなければならない。

 具体的な作戦…? そんなのこれから考える。


*****  *****  *****


「ああ、困った」


 そして戦いが始まる。後輩君はいつものように困りごとを口にする。


「カンチャンとペンチャンばっかりだ。どれを捨てればいいのか分からない」


 私はとした。ここで上手く誘導すれば、彼の手を遅らせることができる。


「後輩君。その場合はカンチャンを切っていくと良いよ」


 私がそう言うと、同僚AとBがジト目で私を見た。

 お前ら、何も言うなよ。


 ちなみにカンチャンとペンチャン、どっちを残すべきかといえば、少なくとも初心者相手であれば『ペンチャンを切る』と教えるべきだろう。リャンメン待ちに変わる可能性があるカンチャンに対し、ペンチャンは順子シュンツとして使う限り待ちが変わらないし、断么タンヤオの邪魔にもなる。


 つまり私はその逆を教えた訳である。


「分かりました! カンチャン切ります!」


 よし、これで後輩君の手はかなり遅れるだろう。その隙に私がアガってしまえば良い。

 卑怯?

 ふふふ、そうかもしれない。だが私は勝つために鬼となることを決めたのだ。


 でも私の配牌…。これどうやったらアガれるんだ?


 もたもたしているうちに巡目が進み、後輩君がリーチをかけてしまった。そのとき私は、カスみたいな配牌からほぼ一歩も動けず相変わらずカスみたいな手牌だったので、躊躇いもなく安牌アンパイを切って勝負をオリた。


 そのさらに四巡後、同僚Aもリーチをかけてきた。


 さて。ここで問題が起きる。同僚Aに対する安牌はあるが、後輩君との共通の安牌がない。

 同僚Aは一九牌を何種も切っていて、私はその現物を所持している。後輩君は、とすると、一九牌に対しかなり嫌な形になっている可能性がある。


 まさかね。楽観的に考えれば、彼の形は平和ピンフ断么タンヤオもつかず、またドラも切っているからドラを抱え込んでもいない。そんな状況のはず。


 私は同僚Aからの一発被弾回避を優先させ、一萬イーワンを切った。


「先輩、ロンです!」


 がくっ。

 いや、後輩君からの被弾は覚悟していた。損害は軽微のはず。


「えーっと、役はリーチ…だけですかね」

「リーチだけね」


 私が真っ先に返事する。


「リーチと純全帯么九ジュンチャンだね」


 でも同僚Aがバラしてしまう。

 てゆうか、偶然でジュンチャン揃えつつ、親リーチの安牌で単騎待ちとかするんじゃない!


「裏ドラも乗っているみたいだね」


 同僚B、お前も黙っておけ!


「わあ、ジュンチャンっていう役なんですね! 先輩の言う通り進めたらまた一つ役を覚えました! いつもありがとうございます!」


 どういたしまして。そろそろ勉強料で点棒返してくれないかな?

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