二巡目

 今日こそは勝つぞー!

 またも麻雀初心者の後輩に負けてしまった私は、雪辱を晴らすため、今日も後輩君含め同僚たちと雀荘に来ていた。


「うーん。平和ピンフにならないなぁ」


 後輩君はどうしても平和でアガりたいらしい。でも手を作るのがまだ上手くないので、平和の形でテンパイにできず、変な形のテンパイになる。


 しめしめ。今日こそは高らかとロンと宣言してやる。私は三面待ちの理想的過ぎる形でテンパイし、リーチをかけた。まだ筋も安牌アンパイもよく分かってない後輩君はいつか振り込むだろう。振り込まなくてもツモれるはず。


「あー、先輩リーチかけてるんでしたっけ。どうしよう、テンパイしちゃった。こういうときはオリるって手もあるんですよね。でもオリるってよく分かんないし…リーチかけます」


 よし。この勝負もらった!

 親ハネ直撃で死ぬが良い。


「えい」


 後輩君は私のアガリ牌すれすれの牌(私は筒子ピンズの2、5、8待ち、後輩が捨てたのは筒子の4)を切った。同僚AとBも無難に切り、私のツモ順。


 外した。そしてツモった牌を見てなんか嫌な予感がした。でもリーチかけているから切るしかない。


 切ったのは筒子の3。


「あ、先輩ロンです」

「おい」


 嫌な予感は的中した。

 というかカンチャン待ちで簡単に吸い込むんじゃない!

 掃除機かなんかついてないか?


 とりあえずカウンター気味にジャブを受けたが軽傷だ。その次の局は誰も上がらず流れ、そのまた次の局。


 私は早めテンパイ。満貫確定のリャンメン待ちでリーチ!


「先輩は強いですねぇ。僕もテンパイしたけどたぶんダメです。どうしてもリャンメン待ちにならないんですよね…。リーチです」


 この早さでどうやって追っかけて来るんだお前は。捨て牌見てても、予知能力あるとしか思えないくらい無茶苦茶な切り方してるぞ。


 後輩君は私の上家なので、次のツモ順は私である。そして私のツモは外れ。その牌を切る。


「あ、ロンです先輩」

「おい」


 またカンチャン待ちかよ。カンチャン待ちで何回アガるんだよ。お前んとこの掃除機どんだけ強力なんだよ。吸い込み過ぎだろ。


 まだだ。カウンター気味にストレートを受けて若干出血が止まらない感じだがまだ逆転できる。

 次の親は後輩君だ。面白いじゃないか!


 そして、その局。誰も鳴かず、長考もせず、黙々と巡目が進む嫌な空気。私はまたテンパイしたものの、そろそろ後輩君がリーチかけてくるんじゃないかと気が気でない。


 二度あることは…否、三度目の正直だ!

 初心者にびびってどうする!


 私はリーチをかける。お手本のように美しい、タンピンの形だ。

 ふふふ、以前、後輩君が言いたいと言っていた『メンタンピン!』の台詞は私がもらった!


「あー、また先輩に先を越された。またカンチャンでテンパイしたけど、どうしよう」


 おい、貴様。

 見計ったように掃除機用意するのやめろ。


 と、ここで私は名案を思いつく。掃除機が危険なら、その掃除機を取り除いてしまえば良いのだ。


「後輩君、一つ助言をするとね」

「助言ですか? ありがとうございます! 何でしょう!」

「カンチャン待ちですぐにリーチかけないで、リャンメン待ちになってからリーチをかければいいんじゃない? ちゃんと平和の形になる」

「えーっと」

「ちなみに今の待ちは何かな?」

索子ソーズの1と3があって、2待ちです」

「だったら、索子の4が来るのを待って、1を切ればリャンメン待ちになるから平和の形になるでしょ」

「あ! 本当だ、凄い! さすが先輩!」


 よし、これでリーチは防げたし、現状だと役が無さそうだから振り込む心配もない。


 あとは私がアガるだけ。しかし次ツモも外れ。同僚A、Bは露骨にオリて、後輩君のツモ順が回ってきた。


「やりました! 先輩、平和の形でテンパイできました!」


 来 る の か よ !


 掃除機よりも危険な状況である。私のツモ順が回ってきて、祈るような気持ちで牌を引く。外れたぁ!

 でも後輩君のアタリ牌でもない。彼は一発ツモも外した。後輩君、リャンメン待ちよりカンチャン待ちのアガれるのかもしれない。やはりこいつのカンチャン待ちは掃除機なのか…。


 ええい。勝負だ、勝負。私と後輩君は互いにツモ切りを続けた。三巡目、四巡目、そして…。


「ツモりました! 『メンタンピン』です! 先輩の助言に従って一索イーソー切っていたので断么タンヤオもつきました! ありがとうございます!」


 同僚AとBが私を睨んでいる。

 はい、ごめんなさい…。

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