第13話 愕然とするイワン達
目の前に積み上げられていく素材を眺めながらイワン達は口を開けたまま硬直していた。シルバーウルフファングの毛皮なら、一度だけ見た事があった。ここまで完全な状態ではなかったが。
なのでまだ対処が出来た。だが、ここまで大量に出されるとユーフェの行動を呆然として眺める事しか出来なくなる。それでもイワンがなんとか振り絞るように声を出した。
「お、おい。ユーフェ。ちょっと待ってくれ」
目の前の少女ユーフェはアイテムボックスから素材を取り出していたが、それがどれほど非常識な事か分かっていないようであった。慌てて止めようとするイワンだが時すでに遅く、次々とテーブルの上に素材を置かれていく。
「これだったら問題ないですよね?」
天使のような微笑みで自分を見ているユーフェに、イワンは目眩を起こしそうになっていた。しばらく机に積み上がっている素材と、微笑んでいるユーフェを交互に眺めていたが、何かを悟ったのか、軽くため息を吐いた。
「なんです? 急にため息を吐くなんて」
「いや。非常識に対してどこからツッコミを入れようかと」
「そんなに!?」
素材を前にイワンの表情は諦めを通り越して、どこか遠い場所を見ているようであり、ユーフェはやりすぎである事にやっと気付いたようである。
「ビックディアなら、それほど討伐も難しくないですよね?」
「討伐自体はね。だが、ここまで綺麗な素材は初めてみたよ。まるで一撃で仕留めたみたいじゃないか。俺達ならどんな感じだ?」
イワンの言葉にライナルトやロア、マーティスが同時に頷いた。それほどユーフェが取り出した素材は一級品ばかりであり、ギルドに納品される素材からすれば破格の綺麗さである。
「俺達ならビックディアを討伐出来る。だが、その際は切り傷や魔法攻撃の跡で毛皮はボロボロになっているな」
「この素材なら、買い取り価格は5割増は確実だな。いや、倍の値段は出すか?」
「あと、ユーフェちゃんがアイテムボックスを持っているのは、誰にも言わないようにした方がいいよ」
呆れたような、信じられないものを見るような視線の集中を受け、ユーフェは頭を抱えた。まさか自分が持っている素材の中で、一番価値が無いだろうと思った物を出したのに、この反応である。
「そ、そんなに不味いですかね? でもこれ以下の素材はありませ……あ! そうだ! 魔石がありますよ」
ユーフェはアイテムボックスからレベル1のモンスターであるスライムの魔石を取り出すと机の上に置いた。もちろん、今まで取り出していた素材はアイテムボックスに収納をした。
「これならいいですよね? レベル1の魔石ですよ!」
「「「 は? 魔石? 」」」
ユーフェが取り出した鈍く光る魔石を見ながらイワン達は再び絶句する。これで間違いがないとの思っていたユーフェだったが、一同の反応を見て頭を抱え込んだ。
「これでもダメなのか? じゃあ、一体どうすればいいんだよ」
アイテムボックスの中には貨幣も入っているので、それを使えばいいのだがテンパっているユーフェには思いつかないようであった。
「あ、あの? 魔石もダメな感じですかね?」
ユーフェの申し訳なさそうな表情に一同が大慌てで首を振る。
「いやいや。魔石は珍しいからビックリしただけだよ。ちなみに魔石の入手方法を知っていたりするのか?」
「もちろんですよ。これはスライムの魔石ですがスライムを凍らせてから鈍器で叩くと魔石が出てきますよね?」
「そんな簡単な事で魔石が集められるなんてな……」
代表するようにイワンが質問すると、ユーフェは当然とばかりに頷きながら答える。そしてイワンの表情を見て「これもやっちまったかー」と軽くため息を吐くのだった。
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