第12話 素材の価値に気付いてなかった

「どうかされましたか?」


 キョトンとした表情を浮かべているユーフェに、ライナルトが指を震わせながらテーブルの上に置かれた素材を指差した。


「ユ、ユーフェちゃん? これが何か分かっているのかい?」


「え? シルバーウルフファングの毛皮ですよね? ライナルトさんもご存知だったんですね」


 軽い感じで答えるユーフェだが、イワンやライナルトだけでなく、ユーフェとは積極的に喋らなかったロアやマーティスも驚きの表情で視線はシルバーウルフファングの毛皮に釘付けになっていた。


「え? これってギルド納品クエストで銀貨5枚で受注だったよな?」

「ああ。プラス買取価格があるよな。ここまで綺麗なら金貨一枚はいくんじゃないか? それだけあれば半年は遊んで暮らせるぞ。こんな高級品を受け取れないよな」


 マーティスの言葉に、それほどの高級品だとは思っていないユーフェは意外そうな顔で答える。


「そんな高級品なんですか? だったら他の素材がいいですね。例えば……」


「ちょっと待った! その話は個室でしよう。ユーフェちゃんはまだ素材を出すんじゃないぞ。フリじゃないからな! 絶対に出すなよ!」


 ユーフェが素材を取り出そうとしているのを止めながら、ライナルトが受付嬢に話をする。驚いた表情をした受付嬢だったが、静かに頷くと奥の個室に行くように指示を出しているように見えた。


 ライナルトがイワンに向かって頷くのを見て一同は個室に移動を始める。その際に受付嬢の視線が自分に向いているのをユーフェは感じていた。


「何か私、やらかしましたか?」


「気にしなくてもいい。いや、気にした方がいいのか? とりあえず移動してから話をしよう」


 受付嬢を見ながら心配そうな表情をしているユーフェに、イワンは難しい顔をしながら個室に移動する。個室に入り、自身も含めて全員が落ち着いたのを確認すると、イワンは机にシルバーウルフファングの毛皮を置いた。


「ユーフェはゴブリンから逃げていたよな?」


「はい、そうですね。助けてもらって感謝してますよ?」


 改めて確認するイワンにユーフェは首を傾げながら答える。


「じゃあ、確認だがシルバーウルフファングの毛皮はどこから手に入れたんだい? シルバーウルフファングはレベル20で討伐可能のモンスターだ。ゴブリンから必死になって逃げているユーファでは討伐は無理だろう。レベルは1だったよな?」


「ええっと。そうですね。レベルは1ですね。あと、シルバーウルフファングの毛皮はアイテムボックスに入っていたから……。前から入っていたから、どこで手に入れたと聞かれても覚えてなくて。これがダメながら他にもありますよ?」


 シルバーウルフファングの素材ならレベルも低いから問題ないと思っていたユーフェだったが、ドロップ率の高い毛皮でさえ驚かれたので、もう少し討伐レベルの低い素材を取り出す事にした。


「これなら問題ないですかね?」


 さすがに討伐レベル10が推奨とされるビックディアの素材なら大丈夫だろうと思っていた。しかし、イワン達の表情を見れば、ビックディアですらダメだと気付かされた。


「どうしたもんかな」


 机に置かれた素材に釘付けになっているイワン達に視線を向けながらユーフェは考えていた。どうやらアイテムボックスにはマグナアルカナで取得したアイテムが全て入っているようで、ユーフェはレベルが5以下の素材を次々と机に並べていく。


「じゃあ、これだったら大丈夫ですか?」


 アイテムボックスから素材を取り出しているユーフェに、一同は何も言えず唖然としたまま眺める事しか出来なかった。

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