ペール・ヴェール

結城恵

ペール・ヴェール

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こんばんわ、お嬢さん。お隣いいかな?

いやなに、私も一人でね。そろそろ一人酒も寂しくなってきた矢先に、君を見かけたというわけさ。


『ナンパのつもりか』だって? ははは、面白いことを言うね。

これでも身の程は弁えているつもりだよ。私なんかでは、君に釣り合わないだろう。

それに、君のような若い子を口説くわけにはいかない。私もカミナリが怖いってわけさ。


…………


マスター、彼女にシガーを。ああ。とびっきり甘いヤツを頼むよ。

もちろん、美味しいチョコレートと、葉巻に合うウイスキーも。


葉巻は初めてかい? だろうね。煙草の匂いもしないし、そんな風貌でもない。

オトナはね、偶にこうやって悪い事をして、少しだけ子供の時間を楽しんでいるのさ。


さて、初めての一服だ。そう。灰を落とさないように、ゆっくりと。――――上手だ。

そうしてゆっくりと吐き出してごらん。呼吸より深く、溜息より安らかに、だ。

どうだい。案外煙くはないだろう。……ふふ、『意外と美味しくて吃驚している』といった顔だね。


…………


ウイスキーの強い香りは、涙色の喉を麻痺させてくれる。

葉巻の紫煙は、涙で崩れた君の化粧を覆い隠してくれる。


私でよければ、いつでも喜んで酒の肴になろう。

オトナを忘れたくなったら、またここに来ると良い。

私も大好きなこのバー、"ペール・ヴェール"へ。


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ペール・ヴェール 結城恵 @yuki_megumi

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