第47話 今度は俺の番





「それで? どうなったの?」


「……そのまま逃げたから、どうなったのか分からない」


「馬鹿なの?」


「言わないで……自分でも分かっているから」


 恭弥の冷たい視線に、俺は耐え切れずにクッションに顔をうずめた。





 勢いあまって告白をした後、俺は彼の反応を知る前に準備室から飛び出た。

 後ろで何かを言っている気配がしたけど、俺の耳には全く入らなかった。


 だから、どういう答えだったのか、俺は知らないのだ。



「せめてオッケーか駄目だったかぐらいは聞いておけ。そこを聞いておかないと、明日会った時にどうするんだ?」


「に、逃げ……」


「逃げるのは無しな。それじゃあふりだしに戻るだけだろ。男なら真っ正面から当たって砕けろ」


「……だから砕けたくないって」


 励ましているのか落ち込ませたいのか、どっちなのだろう。

 楽しそうにしている恭弥を見ていると、悩んでいるのが馬鹿らしくなってきた。


「あーあ。何で告白までしちゃったんだろう。もう少し距離を縮めてからするべきだった。……恭弥のせいだ」


「俺はただ話しかければいいって言っただけだろ。告白しろとまでは言ってないし。勝手にしたくせに」


「だって、今度はいつ話せるか分からなかったから。チャンスは逃したくなくて」


「まあ。俺もちゃんと話しかけられるとは思っていなかったけど。そこまでぶっちゃけるとは。見に行けばよかった」


「恭弥がいなくて良かった。絶対に面倒なことになっていたでしょ。……ていうか、俺は恭弥がいるかと思っていた。どうやって俺が話をするか確認するつもりだったの?」


 準備室から飛び出た時、実は俺は恭弥の姿を探した。

 きっと扉の近くで聞き耳を立てているはず、そう思っていたのに、どこにもいなくて驚いてしまった。


 家に帰りリビングで普通に待ち構えていた時は、俺の頭がおかしくなったのかと一瞬思った。


「あー、それね」


 頬をかいて目をそらす恭弥に、俺は半目になる。


「……もしかして、元々確認するつもりなかったんだ。罰ゲームとかも、ただの脅しだったってことかな」


「ま。こうでもしなかったら、未だに話しかけてなかったんだから、いいじゃないの」


「そのせいで、余計に拗れたとも言えるけどね」


「それはあれだよ。結果が早まっただけ。いずれ気まずい感じになっていたって」


 恭弥の言うことにも、一理ある。

 だからこそ認めたくなくて、俺はクッションの形が変わるまで、力を入れて抱きしめた。


「とにかく、明日も学校だから。ちゃんと向き合えよ。結果が良くても悪くてもな。悪かったら慰めてやる」


「分かった。どっちにしろ、もう休める余裕はないし、ちゃんと結果を聞く。まあ、慰めてよ。お菓子も買って、ピザでもとって、パーティするか」


「断られること前提で話すなよ。当たって砕けろなんて言ったけどさ、勝ちにいくつもりでいてもらわなくちゃ、俺が振られた意味が分からなくなるだろ」


「あー、ごめん。弱気になりすぎた」


 元通りに近い形になったとはいえ、たまに気まずい空気になる時がある。

 全部俺が悪いから、ものすごく心臓が痛い。

 でも俺の判断が間違っているとは、絶対に思わなかった。


「とにかく明日行けば、向こうから接触してくるだろうから、覚悟して待っていればいいんだよ」


「はーい」


 こうして励ましてくれる恭弥に感謝して、俺は明日への期待を高めた。





 おかしい。

 彼が全く話しかけてこない。


 翌日、期待と不安を胸いっぱいに、学校に来た。


 ガチガチに緊張している俺を、恭弥はからかってきたけど、怒る余裕もなかった。

 教室に彼が入ってきて、その声を聞いた時は、心臓が止まったと錯覚したぐらい衝撃を受けたぐらいだ。


 俺の気のせいじゃなければ、視線は何度かあったのだけど、何故か話しかけてこなかった。


 俺から話しかけるのは違うと思って、待っていたら、いつの間にか放課後である。




 さすがに焦った俺は、部活が無い日だけど帰らずに学校をさまよっていた。


 まさか避けられている?

 あまりにも会えなさすぎて、そんな心配が浮かんできたけど、それでへこたれるほど弱くない。

 時間が経つにつれて、開き直ったとも言える。



 ここまで来たら駄目だとしても、答えをもらいたい。

 もしも駄目だったら、また考え直せばいい。

 諦めるという選択肢はないので、しつこいぐらいにアピールするつもりだ。


「……どこにいるのかな?」


 その決意を本人に伝えたくて、俺は必死に廊下を走っていた。




 オレンジ色に染まった廊下。

 俺の足音だけが響いていて、外からは誰かが笑う声が聞こえてくる。

 何だかこの世界で俺だけしかいない気分になって、俺は走るスピードを緩めた。


 走っていても彼は見つからない。

 きっと俺が会いたいと心から思えば、彼からこちらに来てくれる。


 根拠のない自信から、俺は廊下の真ん中で立ち止まった。

 そして窓から、外にいる生徒達を眺める。


 友達と下校している姿は、青春といった感じでキラキラと輝いていた。

 俺も他の人から見たら、あんな風に輝いた顔をしているのだろうか。

 顔を触ってみるけど分からない。



「……ユキ……?」


 きっと、彼との話の結果で、これから俺がどんな表情を浮かべるのか決まる。


 不安そうな声で俺の名前を呼ぶ彼に答えて、ゆっくりとそちらに体を向けた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る