第39話 学校に戻ってきたはいいけど……
「……生きていたんですか」
「感動の再会の第一声がそれ? もっと心配してくれてもいいんだよ?」
「痴情のもつれを心配するほど優しくないので。思ったよりも早く解放してもらえて良かったですね。もう少し戻ってこないかと思っていました」
「俺も、もっとかかると思っていたけどね。いいタイミングで助けが来たんだ」
「ニュースになるかもしれないと身構えていたんですけど、無駄な心配だったみたいですね。せっかく、答えとかも用意していたのに、使えないんですか。残念」
「……何を用意しているの。さすがにそこまでの修羅場は起こさないよ」
「ははははは」
「あからさまな作り笑いだね」
家からの脱出に成功し、久しぶりに学校に来たのだけど、蓮君の反応は冷たかった。
もっと心配してくれるかと思ったのに、さすがに何回も同じようなことがあれば慣れてしまうみたいだ。
慣れるというのもおかしいけど、それぐらい俺は誰かに監禁されすぎたということだろう。
「でも今回は少し大変だったみたいですね。痩せたみたいですし、顔が疲れています」
「精神的にも拘束されていた気分だから、疲れているように見えるかも。そんなに酷い?」
「最初ゾンビかと思いました。まさか黒咲先輩が束縛するタイプだったとは、人は見かけによらないものですね」
「さすがに犯人も分かっているんだ。やっぱり様子がおかしかったの?」
「普通通り過ぎておかしかった感じです。先輩がずっと休んでいるのに、心配している様子がありませんでしたか。前の時は、すぐにイライラしていたのにおかしいでしょう。休んでいる期間は、今回の方が長かったんですから」
「名推理だね。さすが蓮君」
当事者でもないし、関係者というのも微妙なところなのに、一番状況を理解しているのではないだろうか。
思わず拍手を送ってしまうと、蓮君はジト目を向けてきた。
「丸く収まったようで何よりですけど、これから大丈夫ですか?」
「大丈夫って……何が?」
「黒咲先輩のことですよ。今は大人しくなったみたいですけど、人はそう簡単に変われるわけがないですから。少しでも行動を間違えたら、また閉じ込められますよ?」
「さすがにそんなわけ……あるかも……」
今日一緒に登校した時は、おかしな様子は無かった。
でも、俺を何日も監禁していた恭弥であることには変わりない。
今は大丈夫でもこれからは分からない、という蓮君の言葉は間違っていないだろう。
まだまだ俺の緊張状態は続くというわけだ。
「あー、それはちょっと……辛い、かな」
監禁生活でさえもストレスが溜まっていたのに、これからも続くとなったら、俺の胃に穴が開くのではないか。
「先輩。先輩はもう少し、周りに流されるのを止めた方が良いですよ。ちゃんと嫌なことは嫌というべきです」
「言っているつもりなんだけどね……」
「ちゃんと言っていたら、監禁なんてされる事態には陥らないと思います」
「うぐぐ」
蓮君は手厳しい。
俺は机に突っ伏すと、助けを求める視線を送った。
「俺はこれからどうすればいいのかな?」
「俺に聞かないでください。俺に言われたから従うのも違うでしょう。自分の意見を持てと言ったばかりなのに、全く」
「自分で決めるのってさ、難しくない? 敷かれたレールを進みたい」
「先輩のその態度もあるから、行動がヒートアップするのではないでしょうか。先輩ってヤンデレほいほいですよね」
ヤンデレほいほい。
それは的を射ていて、俺は否定することが出来なかった。
彼も恭弥も最初は普通だったのに、実はヤンデレという本性を隠し持っていた。
恋人のヤンデレ率は、今のところ100パーセントである。
あまりにも高すぎる。
もしこれから恋人を作るようなことがあれば、そこを一番気を付けなければいけない。
作れるかどうかは恭弥次第だけど。
「先輩。先輩って、今まで人を好きになったことってあるんですか?」
「恋人になった人のことは、好きになっているけど。なんかその言い方だと、誰も好きじゃないみたいに聞こえるよ」
「先輩の話を聞いていると、先輩がちゃんと恋をしているとは思えないんですよ。……ずっとずっと」
「蓮君?」
あまりにも苦しげな表情をするから、俺は無意識に手を伸ばしていた。
蓮君のほっぺは、とても冷たかった。
嫌がられるかと思ったけど、むしろ擦り寄られて逆に驚く。
「先輩を見ていると、みんなおかしくなる理由が分かる気がします」
擦り寄ったまま、蓮君は目を閉じて話し始める。
「先輩は気づいていないみたいですけど、先輩の行動のせいでおかしくなっているんですよ」
「俺の行動のせい?」
「人を惹きつけるくせに無防備。どこまでも人に許してしまうのは、優しさじゃないです」
穏やかな声なのに、言っている言葉は俺を非難する内容だった。
「元々の素質があったのかもしれませんが、先輩のせいでおかしくなったというのが正解でしょう」
「俺が悪いって言いたいの?」
「そうですね。先輩のせいで色々な人の人生は狂いました。先輩の存在は人を狂わせます」
目を開けた蓮君は、俺を温度の無い瞳で見てきた。
「先輩は存在するべきじゃない」
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