第31話 2度目の拘束





食事もきちんと用意されているし、風呂やトイレにも自由に行ける。

部屋の中にはゲームや漫画、テレビとかの娯楽もある。


だからといって、ここにずっといたいのかといえば、それだけは勘弁してほしい。


「もう3日も経ったのか……」


テレビがあるから、現在の日時は分かる。

それが何かの役に立っているわけではないけど、分からないよりは精神的にマシだ。



鎖が付いていたのは初日だけ。

今は首元にあるチョーカーしかついていない。


それなら逃げられるのではないかと思われそうだが、そう上手くいくのならとっくの昔に逃げている。

このチョーカーのせいで、俺は未だに逃げることが出来ないのだ。


チョーカーにはセンサーが付いていて、それは玄関のところにある機械と連動している。

だから俺がここから逃げようとしたら、アラームが鳴り響き彼にすぐに連絡がいってしまう。

窓から出ようとした時も同じことが起きる。


一回だけ逃げようとチャレンジした時、あまりにも大きなアラーム音に鼓膜が破れるかと思った。

そして急いで駆け付けてきた彼は、怖い顔で俺がまだいるのを確認すると、痛いぐらいに腕を掴んで部屋に連れ戻した。



それ以来、無理だと悟って逃げるのは諦めた。





逃げることが出来なければ、何もやることはない。

俺は部屋で暇つぶしをしながら、日々を過ごしていた。


先生は平日は2回、休日には3回、俺のいる部屋に来る。

つまりは、食事を運ぶ時にしか来ないというわけだ。


あれから俺が何を言っても無視。

たぶんだけど監禁していることを後悔していて、会話をしたら気持ちがぶれてしまうのだと思う。

怒っているわけではないのは、表情を見ればすぐに分かった。


俺を閉じ込める理由を話してはくれず、ただただ悲しそうな目で見てくる。

最初は早く出せとばかり言っていた俺も、何だか同情の気持ちが芽生えてしまった。




今日は休日。

だから昼食を届けに、彼は部屋に来る。

すでに部屋の外からは、いい匂いが漂っていた。

匂いの感じからして、お昼はオムライスみたいだ。


外に出て運動していないけど、それでも関係なくお腹は減る。

俺は楽しみにしながら、彼のことを待ち構えた。



10分ほどが経ち、扉がノックされた。

こういう状況なのだ、勝手に入ってきてもおかしくないのだけれど、変なところで律儀である。


「どうぞ」


俺が応答しなければ入ってこないのも、よく分からないところで気を遣っていると、何だか呆れてしまう。


返事をすれば扉が開き、お盆を片手に持った彼が入ってくる。

その上にはオムライスがのっていて、しかも俺が好きなデミグラスソースがかかっていた。

さすが何でも出来る人だから、とても美味しそうだ。俺が作るよりもよっぽど。


だから俺は彼に食事を作る気にならなかった。

前に美味しいと言ってくれたのも、絶対にお世辞だ。

こんなに美味しい料理と比べたら、俺のなんて失敗作にしか見えないだろう。


美味しい料理を出されて食べるたびに、どんどん卑屈な気持ちになっていることを彼は知らない。


「……いつものように、食べ終わったら下げておいて。後で取りに来る」


お盆をテーブルの上に置くと、いつものように前回の分を持って出て行こうとする。


「ちょっと待ってください」


それを静止するように声をかければ、ピタリと止まった彼は、訝しげな顔をしてこちらを見た。


「……どうした?」


「今日は休みでしょう? だから、時間があるはずです。俺と少し話をしてくれませんか?」


「……分かった」


また逃げられるかと思ったけど、気まぐれなのか話をしてくれるらしい。

まずは第一関門突破だと、胸を撫で下ろす。

話すら出来なかったら、ここから出ることはまだまだ先になってしまう。


永久にだと思わないのは、俺がここにいることはいずれバレると分かっているからだ。

一度ここに監禁されたことを、恭弥が知っている。

俺が全く家に帰っていないとなれば、まっさきに疑うだろう。


そうなれば、いくら彼だからといって隠しきれない。

こんなことをされておいてなんだけど、彼を犯罪者にはしたくないのだ。

早めにここから解放されて、家に帰りたい。


何とか説得しなくては。

俺の気持ちは決まっていた。


俺がいつも使っているのとは別の椅子に座り、彼は前のように俺と視線を合わせようとしなかった。


「ここに来て3日ですけど、騒ぎにはなっていませんか?」


まずは、俺のいない外がどうなっているのか質問する。


「不審に思っているのは、黒咲と灰藤だけだ。後のみんなはインフルエンザと説明すれば、納得していた」


担任が嘘をついているなんて思う方がおかしいから、その反応は当たり前だ。

しかもインフルエンザと言えば、見舞いに来ることも無い。


「恭弥と蓮君はなんと?」


「…………馬鹿なのに風邪や病気になるはずがない、と」


「恭弥の野郎」


「……あとは、一人暮らしだから心細だろうし看病した方がいいと言っていた」


「……恭弥……馬鹿だと言ってごめん」


「灰藤が」


「恭弥の馬鹿! 蓮君はいい子!」


状況を忘れて、思わずツッコんでしまった。

もう少し真面目に心配して欲しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る