第24話 友情? 恋愛?





「だって、あの恭弥だよ? 冗談で言ったに決まっているじゃん」


「でもキスされたんですよね」


「恭弥なら嫌がらせでキスをすることなんて、簡単にやってのけるよ」


「さすがにそこまで……」


 言葉に詰まってしまった蓮君も、きっと恭弥ならやりかねないと考えているのだろう。


「でも、話を聞いた限りでは、真剣な気がします。一度、ちゃんと話し合った方が良いですよ」


「……うーん。大丈夫だと思うけどなあ。でも分かった。話をしてみるよ」


「絶対ですからね。知人の痴情のもつれで傷害事件なんて、インタビューの答えを用意しておかなければならないので」


「いや、完全に楽しんでない? 事件なんて起こらないから」


「草葉の陰で見守っていてください」


「死んでないからね」


 恭弥と一緒にいたせいで、性格がうつったんじゃないか。

 後輩の思わぬ成長に、俺は容赦なくツッコんでおいた。





「とりあえず聞いておこうと思うんだけど、俺と恭弥の関係って何?」


「イチャイチャ熱々の恋人」


「そっかー。恋人だったのか。…………マジで?」


「マジで」


 わざわざシリアスな雰囲気を作って聞くのが恥ずかしいから、軽い感じで聞いたら、思っていたよりも真面目な答えが来た。

 逆に戸惑ってしまって、俺は諦め悪くもう一度聞く。


「で、でもさ、付き合う付き合わないとか、そういう話をしていないよね。それに恋人らしいことなんて全然……」


「酷い! 俺のことは遊びだったの!?」


「ち、違うけどさ。その恋人って感じが無いじゃん」


 泣き真似だとしても、俺が悪いのには変わりない。

 オロオロと手をさまよわせてみるけど、それで事態は解決するわけがなかった。


「キスしたのだって、恭弥だったら誰にでもできそうだし、俺が落ちこんでいたから慰めてくれたのかなって思って」


「それでわざわざ確かめたってわけね。どうせ後輩君辺りに言われたんだろう」


「よく分かったね」


「有希は友達が少ないから。相談出来る人なんて限られているし」


「おい」


「だって本当のことじゃん。付き合いが悪かったせいで、友達どんどんいなくなっただろ」


「……まあね」


 人並みには付き合いがあったのに、今現在は恭弥と蓮君しかいないのは、彼との生活のせいだった。

 つまりは、俺の周りで残った2人の変人というわけだ。


「それでさ、恋人なのか不安にさせたわけだけど。まさか有希が、そんなことを気になっているとは思わなかった」


「なんで?」


「もう恋愛はこりごりだってなっていたから、恋人らしいことはしたくないんだろうって決めつけてた。でも不安にさせたのは、悪かった」


「恭弥が謝った……明日は嵐かな」


「ばーか。ま、許可を得たことだし、恋人らしいことするか」


「え? え?」


 俺が戸惑っている間に、距離を近づけてきた恭弥が、悪い笑みを浮かべて触れるだけのキスをしてくる。


「手……出すの早」


 あまりにも行動が早かったから、唇を触りながら文句を言った。


「このぐらいで文句言っていたら、これから先どうなるんだよ。心臓止まっちゃうんじゃないの」


「だ、大丈夫だし」


「それは良かった。これから先、どんどん攻めていくから」


「お、おてやわらかにおねがいします」


 簡単に許したら、どこまでも進んでいきそうだ。

 だから顔をそむけながら、何とかそれだけははっきりと言っておく。


「大丈夫大丈夫。嫌がることはしないから」


「信用出来ない」


「はは」


 笑ってごまかされた感じがして、俺は照れの気持ちも込めて肩の辺りを軽く殴っておいた。


「暴力的だな」


 そうは言いつつも嬉しそうだったので、俺はむずがゆいやら顔が熱いやら、平常心を保つのに苦労した。





「そういうわけで、恋人だったみたい」


「そうですか……それはそれは……バカップル爆発しろって言えばいいですか?」


「いや。バカップルってほどじゃ」


「キスをして、これから先も進んでいく約束をしたんでしょう。俺以外でもバカップルだって言いますよ。いいですか?」


「は、はい」


「全く変なものに巻き込まれた気分ですよ。慰謝料を請求したいぐらいです」


 巻き込んでしまったせいで、蓮君は俺の報告にかなり呆れていた。

 確かに他人から見ればくだらない話なので、俺はお詫びのしるしとしてお菓子を献上する。


「それで丸く収まって良かったですけど、これから恋人としてやっていけるんですか?」


「う……ん。やっていくつもりだけど」


「言葉に詰まっている時点で、駄目な感じがしますけどね。ちゃんと友情と恋情を取り違えない方がいいですよ」


「辛辣だねえ」


「……誰も幸せにならないかもしれないと思えば、辛辣にもなります。本当に恋人としてやっていけるのであれば、俺は止めません。この前はけしかけておいてなんですけど、よく考えるべきですよ」


「分かった」


 分かったとは言ったけど、俺はまだ恭弥と別れる気にはならなかった。

 彼の結婚という話でつけられた傷口は、未だに癒されていない。


 これは完全な甘えだ。

 恭弥を利用して、傷口を癒そうとしている。

 でも癒して欲しいのは恭弥だけ、というのもまた事実だった。



 これがまだ恋情なのかは、判断出来ないけど。




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