第21話 コンテストが終わり新たな人物





「いやあ! まさか本当に優勝できるとはな!」


「レベルが違いますから。当たり前ですよ」


「お、珍しい。デレだね」



「焼肉。上手い」



 じゅーじゅーといい音と匂いで焼けていく肉に、俺はどんどん口に運んでいく。

 ちょっといいところの食べ放題だから、食べなくちゃ損だ。

 時間ギリギリまで食べつくすという気持ちで、さらに追加の肉を頼む。


 食べなければやっていけない。

 そのぐらい今の俺は、高揚感もあったが恥ずかしくてたまらなかった。


「それにしても、恭弥のインタビューは良かったな。あれで優勝出来たんじゃないの」


「馬鹿にしているだろ。あれは酷かったって、自分でも分かっている」


「いや、俺も聞いていて良いと思いましたけど。これで先輩は、大変になるでしょうね」


「大変? 何で?」


「……え? 無自覚であんなことを言ったんですか?」


「……ん?」


 言っている意味が分からない。

 俺が首を傾げると、信じられないといった表情をされた。


「もう一度、言ってもらってもいいですか?」


「もう一度? えーっと、たしか恋人はいません。募集中です。よろしくおねがいします? とか言った気がするけど。どうせ俺の言ったことなんて、誰も気にしていないだろう」


「そう本気で思っているなら、何で優勝出来たんですか」


「見た目のインパクト?」


 俺の来た花魁の衣装は、他の中でも群を抜くほどのクオリティだった。

 そのクオリティの高さで、優勝出来たのだろう。


「まあ、それもあるかもしれませんけど、一番は先輩のおかげでしょう。あの微笑み、男女関係なく見とれていましたから」


「またまた。お世辞が上手くなったね」


「……信じないのであれば、別にいいですけど」


 何かを諦めたようで、蓮君は肉を焼いて食べ始める。


「あ、そうだ。コンテストの様子がDVD化するって聞いた?」


「……は? そんなの聞いてない。去年、そんなのしなかったよね。え、何で急に」


「たくさんの人から要望があったんだって。コンテスト参加者は、ただでもらえるらしいから、いつでも見ることが出来るな」


「映像化して残るなんて……出なければ良かった」


「大丈夫だって。売り上げの何%かは、手元に入ってくるらしいから。楽しみに待っておこうぜ」


「それが目的か」


 もうこうなったらヤケだ。

 俺はさらに肉を追加すると、味わう余裕なく口の中に詰め込んでいった。





 文化祭が終わってから、1週間が経った。

 その1週間の間だけで、俺は片手では足りないぐらい告白を受けていた。

 しかも男女問わず。意味が分からない。


 初めの方は誠実に対応しようと努力していたが、こうも続くとストレスが溜まる。


「だから言ったじゃないですか。大変なことになるって」


「……こういう意味だとは分からなかった……」


 教室にいればいるほど呼び出される確率が上がるので、俺は部室に避難していた。

 いつも通り本を読みながら出迎えてくれた蓮君は、そんな俺に対して本に視線を向けたまま呆れる。


「いや、あれのどこに惚れるの。出るって言った時は、馬鹿にしていたくせにさ。成長する前は可愛い可愛いって言っていたくせに、大きくなったらガッカリしたって勝手に離れて」


「苦労していたんですね。人なんて勝手なものですよ。それにいちいち振り回されるより、振り回した方が良くないですか?」


「振り回すねえ。あの格好をした時のことを思い出して? やってみる?」


「やっぱり、被害者が増えそうなのでやめておいた方がいいですね」


「何だと。いい女キャラなんて無理だからいいけどさ。しばらく我慢すれば、そのうち収まるかな」


「それか手っ取り早く恋人を作れば、諦める人はいるでしょう。逆に燃える人もいるかもしれませんけどね」


「怖いこと言うなよ」


 告白してくる人の中には、ミーハーな感じで面倒な人がいる。

 恋人を作ったら作ったで、面倒なことになりそうなのは明らかだった。


「本当に大変な時は、助けてあげてもいいですからね。黒咲先輩だって、きっと何とかしてくれますよ」


「火に油を注ぎそうで嫌だ」


 どんなに困っていても、絶対に恭弥にだけは助けを求めない。

 俺はそう決めると、部活を終わらせて誰にもバレないように、人影に注意しながら校門から出た。





 学校では人に会わないように気をつけていたけど、校門を出てからは少し気が緩んでいたのかもしれない。


「ちょっといいかしら」


「……はい? 俺ですか?」


 人気の無い道、俺は見知らぬ女性に上から目線で話しかけられた。


「あなたしかいないのだから、そうに決まっているでしょ」


 本当に知らない人だったから、自分に話しかけられたのか分からず聞き返せば、気が短いのかイライラされた。


 スーツを着た出来る美人といった感じだけど、怖い雰囲気のせいで台無しである。


「白樺ユキって、あなたのことよね?」


「ユキ? ユキじゃなくて有希ですけど……俺のことなのかな」


「有希ね。あなたで間違いないわよ」


 名前を間違えているのに、俺だというのも信じがたい。

 知らない人には話しかけられてもついていかないように、そう蓮君に教育されているので、俺は何かされる前に逃げようとした。


雅春まさはるについて話があるの」


 その名前は、本当に久しぶりに聞いた。

 大好きで、呼ぶたびに心が躍った彼の名前。


 どうやら、この人は彼の知り合いらしい。




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