第19話 俺、大変身作戦





「ぶわっはっはっはっは! ひー! マジかー!」


「……ぷふ」


「蓮君、笑うなら、もっとちゃんと笑って。逆にいたたまれない」


「ぶふぉっ!」


「思っていた以上に、豪快な笑い方だね」


 これは、なんの拷問なのだろうか。


 俺はあまり詳しくないアニメのコスプレを着せられ、そしてそのあまりの似合わなさ具合に大爆笑されていた。


 魔法少女をモチーフにした、ヒラヒラフリフリした衣装。

 昔の俺だったら似合ったかもしれないけど、今の俺だったら、確かにお笑い草だ。


「か、壊滅的にツインテールが似合いませんね」


「むしろ男で似合う方が少ないだろ……もう着替えていいか?」


「いや、これはこれで一定のマニアの心をくすぐるかもしれない。……いける?」


「一定の……って、その時点で優勝するのは無理じゃん」


「それもそっか。それじゃあ、やっぱり可愛い路線は無しだな」


「無理なことは着る前から分かっていたよな。わざわざ着せて、笑いたかったのか」


「いや。完全に趣味」


「黒咲先輩って凄いですね」


「そこ、感心するところじゃないからね」


 足はスースーするし、サイズが合っていないせいで、下手に動けば破けてしまいそうだ。

 そうじゃなければ、恭弥のことはすでに何発か殴っている。


「もう脱いでいいだろ。落ち着かない」


「……よし。いいよ。次行こうか」


「おい。今写真撮ったな。何してんの、早く消せ」


 シャッター音が確実に聞こえたので、俺のこのとんでもない格好の写真が響也のスマホのフォルダの仲間に入ってしまった。

 絶対に消してもらわなければ、後々からかいのネタにされる。


 俺は恭弥の手からスマホを取り上げようと動いたが、軽やかにかわされた。

 追撃しようとすると、布がきしむ嫌な音がする。


「後で絶対に消させるから」


 宣言はしたけど、実行できるかどうかは微妙にだった。


「可愛い系が無理だとするとなあ……うーん。後輩君、ちょっと」


 腕を組んで俺をマジマジと眺めながら考えこんだかと思えば、蓮君と内緒話を始める。

 俺は衣装を苦労して脱ぎながら、その様子を目をそらすことなく見た。


 少しでも目をそらせば、ろくなことにならない。

 経験上分かりきっているから、注意していたのだが、どうやら真剣に話をしている。


「……としては、……が……おも……」


「俺……に、……ですね」


 2人の間で、何かしらの答えが出たようだ。

 同時に俺の方を見てきて、そしていい笑顔で親指を立てた。


「方向性は決まった。準備はかかるけど、いいものを作れそうだ。な、後輩君」


「はい。楽しみにしてください」


 きっと、頑張ってくれるはず。

 笑いものにするほど、性格は悪くないと思う。

 絶対に……おそらく。





 それから、俺の衣装の方向性が決まったようなのだが、何故か本番までのお楽しみだと、どういったものになるのか教えてくれなかった。

 ただ採寸は全身くまなくされたので、何かしらは作ってくるのだろう。


 クラスでは、コスプレ喫茶のための準備が始まっている。

 みんな、なんだかんだで楽しそうに、自分の衣装を選んでいた。

 俺以外にも女装コンテストや、ミスコン、ミスターコンに出る人が何人かいて、そういう人は入念に準備している。


 そして、俺は全くライバル視されていなかった。

 成長する前の俺だったらまだしも、今の成長した俺はゲテモノになると誰もが疑っていない。

 俺もそのうちの一人で、周りのレベルが高ければ高いほど、絶対に無理だという気持ちになっていた。


 恭弥と蓮君が張り切っているから、水を差すようなことは言わないようにしているけど、内心は心配で仕方が無い。




「ついに、ついに完成した!」


「あ、そう」


 文化祭前日、少しくたびれた2人が報告してきた時にも、いい反応が返せなかったぐらいだ。


「これは、最高傑作です。もう今から、明日のコンテストが楽しみなぐらいです」


 蓮君でさえも自信満々に言ってくるから、少しだけ期待しそうになったが、ハードルをあげるのは良くないと頭を振った。


「今、見せてもらえるの?」


「そうだな。さすがにサイズが大丈夫かと、細かいところを確認したいし、1回合わせるか」


 着る本人であるのに、本番の前日に分かるのもおかしな気がするけど、ようやく衣装合わせをする。


「これは俺史上、渾身こんしんの出来だから、優勝するのは間違いなし」


「優勝したら賞金で、パーッと遊びましょうね」


「豪華に焼肉といこう。後輩君!」


「一生ついて行きます」


 コンテストに出るのは俺だよね。

 そう尋ねてしまいたくなるぐらい、優勝賞金の使い道まで、すでに決められている。


 まあ、俺は出るだけで、衣装や化粧など諸々を準備してくれているから、異論はないのだけど。


「それじゃあ、お待ちかねの衣装とのご対面といこうか。あまりのクオリティに気絶するなよ」


 グフグフと笑いながら、恭弥はカバンの中から衣装を取りだした。

 それが何なのか、一目見ただけでは分からなかった。


 でも隅から隅まで観察し、そのテーマを理解する。



「…………え。本当に、俺がそれを着るの?」


 思わず聞いてしまったのは仕方がない。

 さすがに、これは予想の範疇を超えていた。





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