俺の１年を返せ！

第13話 こんにちは、ストーカーさん

「有希がストーカーって、気のせいじゃないの？」

「俺もそう思ったんだけどね。蓮君が絶対だって言っていた。俺は妖精の可能性も捨てきれない」

「妖精は無いな。幽霊の方が、まだありえるんじゃないか」

「幽霊は無い。絶対にだ」

　ストーカーよりも、幽霊の方が絶対に嫌だ。

　俺はそんな嫌なことを言う恭弥の肩を、勢いよく叩いた。

「あの後輩君が言うのなら、まあ本当にストーカーはいるのかもな」

「何で蓮君の方が信用されているのかな。ていうか、いつの間に連絡先交換していたの。この前まで、あんまり知らない感じだったじゃん」

「情報交換は大事だからな。だからこうして、ストーカーのことも知ることが出来たんだし、オールオッケー」

「……ごまかされた感がハンパない」

　俺を置いてけぼりにして仲良くされると、少し寂しい……気がする。

「それで、ストーカーの正体って分かっているの？」

「それが分かっていたら、こんな回りくどいことしないでしょ。もっと違うところに相談するからね」

「ふーん、そう」

「何その薄い反応。……え。まさか、恭弥は知っているの？」

　返事が無い。

「え。嘘。え？　誰？」

　冗談で言ったのに、本当に知っているとは思わず、俺は驚いて足を止めてしまった。

「何してんだよ。早く帰りたいんだけど。どうせ今日は泊めてくれないんだろ」

「いやいやいや。今そんな話している場合じゃないよな。絶対に、大事な話題が他にあるよ。馬鹿じゃないのか！」

「馬鹿じゃない。今は言うタイミングじゃないだけ。害は無いし、気味が悪いわけじゃないんだから、教えなくても大丈夫大丈夫」

　別に気になっていたわけじゃないけど、知ることが出来そうならば話は違う。

　気になってしまって、俺は詰め寄るけど軽くかわされてしまった。

　これは何をしても教えてくれないと、長年の勘が告げてくる。

「その人はさ、俺に危害は加えてこない？　絶対に？」

「あー、うん、まあ、うん。……頑張れ」

「ねえ、心配になってくるんだけど。本当に大丈夫なんだよね？」

「うんうん。大丈夫だって。安心しろ。俺が嘘をついたことがあったか？」

「今まで数え切れないぐらいあった」

「ははっ」

　キラッという効果音が聞こえそうな表情で、ウインクをして恭弥は大丈夫だと言ってくる。

　全然大丈夫だと思えない。

「……よし。今日も米を買おう。優しい恭弥が持ってくれるはずだから」

「うえー。何でそうなるのー」

「うるさい。さっさと行くぞ」

　でも危害を加えないという言葉を信じるしかない俺は、ストーカーの正体を教えてくれない恭弥に嫌がらせをする。

　文句を言ってきたけど、完全に聞こえないふりをした。

　ストーカーが最近、調子に乗っている。

「……またか」

　玄関のドアノブにかけられたビニール袋に、俺はため息を吐いた。

　中身は見なくても分かっている。

「ありがたいような、困るような」

　ドアノブから外すと、手のひらに紐がくい込むぐらいの重みを感じる。

「……今日はかぼちゃか」

　袋いっぱいに詰まっている野菜に、俺は遠い目になった。

　いつから、と言われると少し前からなのだが、こうして野菜の入った袋が玄関のドアノブにかけられるようになった。

　初めは笠地蔵かと思った。

　地蔵に優しくした覚えがないから不思議だったが、すぐにストーカーのしわざだと考え直した。

　蓮君に言われてから、俺も少しは成長したのだ。

「今度は、貢物大作戦ってことか？」

　その時、中に入っていたのは大量のじゃがいもだった。

　俺はどう処理すべきか迷って、結局肉じゃがにした。

　食べ物に罪はない。

　それを蓮君と恭弥におすそ分けしたら、呆れた顔をしながらも、美味しそうに食べていた。

　やはり食べ物に罪はない。

　野菜は新鮮で質の高いものが多く、最初はありがたいと感じていた。

　ただし一つ問題があるとしたら、量が消費しきれないぐらい多いことだ。

　おすそ分けするにも、近所に付き合いはなく、今のところは作った料理を恭弥と蓮君に渡している。

　でも、そろそろ限界だ。

「かぼちゃ……煮物、スープ、パイ……あとどうしよう」

　料理をするのもそうだけど、処理をするのだって楽じゃない。

　かぼちゃは皮がかたいので、さらに大変である。

「俺が一人暮らしに近いって知らないのかな。ストーカーなのに」

　俺はかぼちゃをしまうと、また大きなため息を吐く。

「……誰かに渡そうかな……？ いや、このままじゃ駄目だ」

　余る野菜の処理ではなく、根源からどうにかしなくては、いつまでも終わらない。

「待ち伏せ作戦決行だな」

　とりあえず妖精でもなく地蔵でもなく、ストーカーに直談判しよう。

　こんなにも野菜を毎日用意するのは、向こうも大変なはずだ。

　相手のためにも、いったんこの配達はストップしてもらおう。

　今までの感じから、いつ配達に来ているのか、大体の時間は分かっている。

　玄関の前で待ち伏せしておいて、ビニール袋をかけたところへ突撃しよう。

　きっと悪い人じゃないから、説得すれば受け入れてくれるだろう。

「よし、覚悟しろ。ストーカーめ」

　次に会った時が、命日だ。

　……それは違うか。