第12話 ストーカー?





 蓮君いわく、俺はストーカーに合っているらしい。

 でも、全然覚えが無いから、俺は恐怖を感じていなかった。


「ストーカー、ねえ」


 視線を感じないかと聞かれて無いと答えたら、蓮君は呆れた顔をした。

 一応気を付けてください、そう言われたけど本当にいるのか分からないストーカーを、どう気を付ければいいのだろう。


 今日は1人の帰り道、ストーカーについて考える。

 言われてからも気を付けるようにしているけど、全く何も感じなかった。


「どうせならストーカーじゃなくて、荷物持ちしてくれないかな。調子に乗って、米を買うんじゃなかった」


 俺は5kgの米を片手で抱え、もう片方の手には野菜や肉などの食材が入ったビニール袋を持っていた。

 2日間恭弥が家に来ていたせいで、食材が足りなくなってしまい、その補充のためにたくさんの買い物をした帰り道である。


 さすがに考えなしに買い物をしすぎた。

 家まで、まだまだ遠い。

 腕が辛いけど袋が破けた時の方が恐ろしいので、休憩することが出来なかった。


「うう。腕が痺れてきた。米、少しだけ軽くなってくれないかな。無理か」


 弱音を吐くけど米は軽くならないし、誰も助けてくれない。

 こういう時、恭弥を呼べば良かったと後悔してしまう。

 泊まらせる見返りとして、そうするべきだった。


「もう無理だよ。米米太郎」


 重すぎて、愛着がわいてきて名前まで付けてしまった。

 絶対に家まで連れて行こうと思ったけど、もう腕が限界だ。


 下ろしたくなかったけど、もう仕方が無い。

 諦めて休憩しようとした時、俺は目の前に台車があるのに気が付いた。

 最初は誰かの置忘れかと思ったけど、そこには1枚の紙が貼ってある。


「どうぞ、ご自由に使ってください?」


 普通だったら怪しいと思うかもしれないけど、今の俺にとっては神様の贈り物としか考えられなかった。


「ありがてえありがてえ」


 遠慮なく米と袋を乗せ、俺は落とさないように慎重に運び出す。

 あと少しでも遅かったら、腕が死ぬところだった。

 俺は親切な誰かに感謝しながら、家まで楽をして米を運ぶことが出来た。


 きっと、妖精さんかもしれない。





「先輩は、救いようがないぐらい馬鹿なんですか」


「え? 何が?」


「妖精なんているわけないじゃないですか。どう考えたって、ストーカーのしわざでしょう」


「あ、そうか! なるほど!」


「……さすがに心配になってきました」


 次の日、この話を蓮君に言ったら、ものすごい表情をされた。

 そして告げられたストーカーのしわざという言葉に、俺はあれがそうなのかと納得する。


「でもさ、ストーカーなのに姿を見せずに助けてくれるって、いい人じゃない?」


「どうして、そんな考えに至るんですか。先回りして用意している時点で、気持ち悪いでしょう」


「んー、でも助かったからなあ」


「先輩、本当に危機感どこに置いてきたんですか。拾ってくるので教えてください」


 確かに、いつもだったら気味が悪いと思う。

 でも今回は、全くそんな気持ちが湧いてこないのだ。

 俺のピンチに現れたヒーローぐらい、感謝している。


「いいですか。今度、そんなことがあっても、絶対に無視するんですよ。……そういえば、運び終わった後、台車はどうなったんですか?」


「台車? そう言えば玄関に置いていたけど、いつの間にかなくなってたな」


「先輩…………家まで知られているじゃないですか」


「……うん。そうみたいだね」


 大きな大きなため息に、俺は背筋が自然と伸びた。

 怒られているわけではないけど、反省の姿勢になっていた。


「まあ、ストーカーですから、その可能性は高かったとは思いますけど。さすがに気持ち悪いと感じた方がいいですよ」


「あ、あはははは」


 家を知られていると分かっても、気持ち悪いと思わない俺の方がおかしいのか。

 それでも怖いと感じないので、確かに言う通り危機感がないようだ。


「でもさ、弱っているところを助けられたら、好きってならない?」


「なりません。しばらく先輩は、黒咲先輩と一緒に帰ってください。お願いじゃなく命令ですから」


「え。嫌だ」


「俺から連絡しておきますので、ちゃんと2人で帰ってくださいね」


「あれ、俺の声聞こえている? というか、なんで蓮君が恭弥の連絡先知っているの?」


「あと5分で来てくれるそうです。それじゃあ、今日の部活は終わりにしましょう」


「おーい。一応、俺が部長だよね? まあ、いいけどさ」


 スマホを操作し始めたかと思えば、いつの間にか恭弥と連絡を取り、そして勝手に部活終了を決められた。

 本当だったら怒るべきなのかもしれないけど、俺のためを思っての行動なので、好きにさせるしかなかった。


「いいですか。知らない人にはついて行かない。不審者に連れていかれそうになったら大声で助けを求める。お菓子をくれると言われても、絶対に絆されちゃダメですからね」


「俺は子供かな? そんなお菓子ぐらいで、つられるわけがないだろ」


「信用出来ません」


 ストーカー事件のせいで、俺の信用は地に落ちてしまったらしい。

 これ以上は何を言っても無駄で、恭弥が俺を迎えに来るまで、堂々巡りの会話が続いた。




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