第11話 個人名がバレなければセーフです?
あれからさらに個人を特定しようとした恭弥に、さすがにそこまでバレるのはまずいと逃げた。
まだバレていないとは思いたいけど、恭弥のことだから分からない。
次の日の朝、特に何も言わずいつも通りだったのが、余計に恐怖をあおった。
「あ。有希のせいで、心霊特番観るの忘れたじゃん。あーあ」
「俺のせいじゃないし。というか俺の家で、そんな番組観させるわけがないだろ」
「有希ちゃんはお子ちゃまですねえ。幽霊なんて存在するわけないでしょ。怖がっちゃってかーわいいー」
「存在しないと思っているなら、観る意味無くない?」
「分かってないなあ。ヤラセのクオリティの低さを楽しむのが
「恭弥の楽しみ方は独特すぎる」
心霊特番を観なくて済んだのは、突然始まった推理のせいなので、素直に喜べない。
俺は見逃したことに文句を言う恭弥の相手をしながら、いつ彼の名前が出てしまうのかと身構えていた。
「なんでもさー、作り物だって分かっているから、楽しめると思うんだよな。幽霊なんていないとは思っているけど、証明出来るかって言われたら、それは無理だし」
「そうだな。いないなんて言い切れる人なんて、この世には存在しないんじゃないか」
本当に分かるのは、実際に死んだ人間だけ。
そう思うと複雑だ。
「だから、笑えない話って俺は嫌いだね」
「どうした急に。そんな怖い顔して」
「んー。有希もそう思わない?」
「まあ、楽しい方がいいとは思う」
「だよな。あーあ、今日家に帰るの嫌だな。有希ん家の子供になりたい」
「俺は、こんなでかい子供お断りだ」
「冷たいなー」
ブーブーと言っているが、さすがにこれ以上泊めると、住み着きそうで嫌だ。
俺は恭弥がわざと忘れ物をしていないかチェックをすると、用意しておいた包みを渡す。
「……何これ?」
「今日の弁当。昨日の残りがあったから作った。ちゃんと使い捨ての容器に入れたから、食べ終わったらそのまま捨てていいよ」
「やっぱり有希ん家の子になる!」
「絶対に嫌だ」
昨日の残りだから、そこまで喜ばれても逆に気恥ずかしい。
それに、恭弥が家の子になるのはお断りである。
「なあなあ。誰かに手料理をふるまったことってあるの?」
弁当を嬉しそうにカバンの中にしまいながら、恭弥は尋ねてくる。
「別に誰かにふるまうことなんて無いだろ。調理実習とか、そのぐらいじゃない? 恭弥だってそうだろ」
「まあな。でも、その恋人にも作らなかったのか?」
「ああ……料理の上手な人だったから」
料理が上手だったから、俺が作ろうかと言い出せなかった。
後は、俺の体を形成するものを自分で管理したいと向こうが言ってきたのもあり、手料理をふるまう機会は一度も無かった。
そこまで上手とも言えないから、そんな機会が来なかったのは良かったのかもしれない。
「ふーん。それじゃあ、俺だけが食べているんだ。ふーん」
唇をもにょもにょと動かして、分かりづらく照れている。
「そうそう。恭弥だけ特別」
「特別か。それならいい。今日のところは帰ってあげよう」
「何で偉そうなんだ。馬鹿」
ムカつく言い方だけど、それでも赤くなった頬は隠しきれていない。
だから今回は、赤くなった頬に免じて許してあげることにした。
あれから、彼の様子は変わりない。
呼び出して意味が分からないやりとりをしたのが嘘のように、俺に対しての興味が薄くなっている。
別にそれが悲しいかというと、特に何か思うことはなかった。
そう思う前に、恭弥と蓮君が騒ぎを起こしてくる。
俺が落ち込まないようになのか、それともたまたまなのか、判断が付きにくいところだ。
でも、俺はそれに救われていた。
2人共、俺が結局誰と付き合っていたのかは、しつこく聞いてこなかった。
そこまで気にしていないのかもしれないし、もしかしたら気づいているのかもしれない。
俺に直接聞いてきていないから、まだセーフだと思いたいが駄目だろうか。
「新しい恋でも、しようかな」
「先輩はダメンズメーカーですから、自分で選ぶのは良くないと思います。誰かに選んでもらった方が良いですよ」
「いや、どれだけ俺、信用がないのかな。子供じゃないんだから、恋人ぐらいちゃんと選べるよ」
「冗談ですよね。今時、小学生だって見る目ありますよ。その内、占い師とかに騙されそうで心配です」
「大丈夫だって。俺、結構警戒心強いからね」
「あはははは。先輩って、本当に冗談が上手ですね」
何を言っても、蓮君は乾いた笑いで返してくる。
ダメンズメーカーというけど、まず前提として俺は元々男が好きなわけじゃない。
そこは、考えを改めてほしい。
「そういえば先輩って、元恋人の人とどうして別れたんですか?」
「え。どうした急に。それはプライベートなことだし、あんまり話したくないんだけど」
「そうですか。ぶしつけな質問をしてすみません。ただ、最近おかしいこととか起きていません?」
「おかしいこと? 蓮君が何故かセーラー服を着て待っていたことじゃなくて?」
「それは忘れてください」
簡単に忘れられるような、そんな生易しいものではない。
微妙に似合っていない感じが、さらに恐怖をあおった。
「先輩、最近ストーカーに合っていると思うんですけど。違いますか?」
「んん?」
蓮君のセーラー服を思い出してげんなりとしていたら、別の衝撃発言をしてきた。
ストーカー、それはどういう意味だろうか。
俺は頭の中ではてなマークを飛ばして、そして意味を理解した途端、絶叫した。
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