第6話 実はまだ関わりがあります




 倫理的にやばいのだけど、俺を監禁した相手は、実の担任の先生である東海林しょうじ先生だった。



 そのせいで、俺は簡単に監禁されてしまったわけである。

 全くそんな素振りを見せていなかった担任に、学校生活のことで指導をすると呼び出されたら、何の疑いもなく2人きりになるのは仕方がないことだ。


 指導室で2人きり、睡眠薬入りのお茶を飲み、気がついたら先生の部屋にいた。

 学校が休みだったおかげで、俺を運び出す時も、人に見られることなく難なく出来たようだ。


 俺だって先生のことを先生以上に見たことなんて一度も無かったから、起きた時は何が起きたのか理解するのに時間がかかった。

 もしかしたら寝落ちしてしまったのかと、謝ってしまったぐらいだ。


 それでも好きと告白され、ここから出さないとまで言われたら、嫌でも理解するしか無かった。


 そこからは暴れたり叫んだりしたけど、防音の完璧な部屋では無駄な体力の消費でしかなく、絶望するには十分な状況だった。

 首輪に足首に鎖、一番最初は手錠もつけられていたので、繋がれたベッドの上で泣いた。


 どうして俺なんだ。

 ただの先生と生徒の関係でしか無かったはずなのに。

 おえつ混じりに訴えれば、頬を優しく撫でられ言われた。


「一目惚れだった。好きで好きでどうしようもなくて、手に入れたくなった」


 甘くとろけそうな言葉。

 女子に隠れファンがいるぐらいの容姿なので、そんなクサイ台詞も様になったが、当事者の俺にとっては、ただただ恐怖しか無かった。



 そこからほだされるまで、色々とあったけど、今はもう思い出したくない記憶だ。




 振られて追い出され、そして夏休みが開けた登校日、俺は緊張して学校に行った。

 いくら終わりがあんなだったとはいえ、1年も一緒にいたのだ。

 会えば何かしらの反応があると思っていたのに、全くのいつも通りだった。


 学校ではカモフラージュなのか必要以上に関わっていなかったのだが、目も合わないなんてことがあるのかと戸惑いを感じた。



 さっきもそうだ。

 恭弥に連れ出され廊下ですれ違った時も、担任としての注意しかされなかった。

 しかも追いかけてきたのか、キスをしていたのを見ていた時だって、そのまま何も言わずに帰ってしまった。



 本当にあの人が何を考えているのか、俺には今も理解出来ない。



「なーなー、教えろよー」


「無理。教えたら最後、街中に広めるだろ」


「親友に隠し事はよくないと思うぞ」


「俺の言葉を否定出来るようになってから、出直してこい」


 絶対に恭弥には教えない。

 堅く心の中で誓いを立てると、俺は公園にある時計に視線を向けた。


 すでに授業の時間も、ホームルームさえも終わっている。

 完全に午後の授業をサボってしまったけど、そこまで罪悪感はなかった。

 むしろ今までサボったことがないから、やってやったという感じである。


「まあ、恭弥のおかげなのかも」


「ん? なになに? 恭弥様に、焼肉が奢りたくなってきた?」


 前言撤回。

 恭弥のおかげで救われたわけがない。


 俺は何か言っている恭弥を無視して、家へと帰るために公園を出る。

 学校に荷物がおいたままだけど、大事なもの入れていなかったし、別に取りに行かなくてもいいだろう。


 後ろでうるさかったけど、俺が相手をする気がないと分かれば、大人しくなった。





「やっぱり、うるさい大人がいないと楽だよな」


「人の家でそこまでだらけきれるって、ある意味才能だよ」


「いやあ、天国天国。1年ぐらい泊まっていい?」


「軽いノリで言う年月じゃないよね。住み着く前に、明日はちゃんと帰ってね」


「えー、寂しくないの? 明日の夜、特番で心霊番組やるらしいけど」


「明日までな」


「おっけー」


 明日まで泊まっていいという許可を出した後に、いいように操られたと思ったが、心霊番組のやる日に1人で家にはいられない。

 知らなければ気にならなかったのに、絶対にわざとだ。


 俺は嫌がらせで、ゲーム画面の前を通る。


「おい、見えないんだけど。あー、死んだ!」


「あははドンマイ。そういえば今日、何食べる? 簡単なものなら作れるけど。それかデリバリーでも頼む?」


「あと少しだったのに! んあー、ご飯? なんかラーメンとか食べたいんだけど」


「ラーメンか。それじゃあ、少し歩くけど近所に美味しいところあるし、そこに行こうか」


「うえーい。じゃあ、ゲーム終わりにするかー」


 ラーメンと聞いてにわかにテンションの上がった恭弥に、現金なヤツだと呆れながら俺は最低限外に出られるような格好に着替える。

 恭弥にも似たような服を渡して、俺達は混む前にと店に行くことにした。


「ラーメン屋って、何系?」


「味噌系」


「有希、味噌好きだよな。はずれが無いから、まあいいか」


 恭弥は家系ラーメンが好きだから、少し不満そうだけど、それでも文句は言わなかった。

 2人で並んで歩いていれば、たぶん仲のいい友達にしか見えないだろう。



 今から行くのは、彼と一緒に行ったこともあるラーメン屋。

 あの時の俺と彼は、他の人からどんな関係性に見えたのか。


 きっとその中に、恋人というものは入っていなかったはずだ。

 そんな関係性だったからこそ、俺と彼は上手くいかなかったのかもしれない。




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