第3話 いい方向に成長したみたいです





「昔は天使、今はイケメン。どうやったら、そんな風に進化できるんだよ。前世で国でも救ったのか? ハーレムでも作ったのか?」


「いや、そんなわけない。昔はまだしも、今はイケメンじゃないから」


 もしそうだったら捨てられるはずがない。

 さすがにそこまでは言えないが、自分がイケメンじゃないことなんて分かっていた。


「はー。無自覚とか、今時ありえないだろ。自己肯定感が、何でそんなに低いんだよ。洗脳でもされた? 鏡見たことある?」


「洗脳されていないし、鏡も見たことあるから。自分の顔ぐらい、ちゃんと知っている。イケメンなわけがない」


「はーあ。はいはい分かった分かった。どうせ何言ったって、聞かないってことね」


 最後は諦めたように話を終わらされ、俺は納得できないまま口を閉じる。


「それで? 急なイメチェンには理由があるんだろう。友人の俺には、教えてくれないの?」


 今度は話を切り替えた恭弥が、頬杖をついてまっすぐに見てきた。

 その顔は有無を言わさないといった様子で、話すまでは帰してくれなさそうだ。


「あー……俺ってさ、成長する前は可愛かったよな」


「え、急に自慢話? さっきまでイケメンじゃないとか言っていたのに。俺はどんな顔をすればいいの? 笑えばいいの?」


「真面目に聞け。天使みたいとか言われてさ、何回も誘拐されそうになった」


「あれは面白かったな。公園で遊んでいたら、いつのまにかモブに連れて行かれそうになっているし。何度も俺が助けてさ。おかげで護身術習わされて」


「それはごめん。でもおかげで助かった」


 小さい頃は何度も誘拐されかけたところを、恭弥が守ってくれた。

 それぐらい可愛かったせいで、彼にも狙われてしまったのだが。


「去年の夏休み、俺と連絡が取れなかったって、騒いでいた時があっただろう」


「ああ、そんな時もあったな! せっかく遊ぼうと思ったのに、全然電話に出ないんだから、すっげえつまらなかったんだからな」


「ごめんごめん。ちょうどその時監禁されてたから、連絡出来なかったんだよね」


「そっか。監禁されてたのなら仕方ないか……って、はああ? 監禁されてた!?」


 余裕の表情から一転して、口を大きく開け間抜け面になった。

 流しかけたが、さすがに監禁というワードは強いようだ。


「は? どういういこと? え、監禁? 何で? え、脱走した? それとも今見えているのは、俺の幻覚なのか?」


 分かりやすく混乱している姿は見ていて面白いけど、話が進まないのは困る。

 俺はとりあえず顔を叩いて正気に戻すと、話を続けた。


「ここにいるのは俺だ。幻覚じゃないから。あの、えーっと、監禁されたはされたんだけどほだされて好きになって、軟禁レベルに自由になったんだ」


「は?」


「でもこの前、捨てられて追い出された。だから今は家に帰ってきている」


「はっ? ちょっと待て。情報が多すぎる! 一回、整理させてくれ!」


 こんなにも驚いている恭弥の姿を見るのは初めてだ。

 非現実的な話をしているのは分かっているけど、これは全て実際に俺が体験した話である。


「去年の夏、連絡がとれなかった時に監禁されていた。でも何をとち狂ったのか犯人を好きになったおかげで、軟禁にシフトチェンジした。そこから1年一緒に住んでいたかと思ったら、振られて家から追い出された。そういうことか?」


「おー、さすが。その通り」


「なんっだそれ! 何でそんな面白いこと、早く教えてくれなかったんだよ!」


「そういう奴だよね……お前は」


 心配よりも、面白いことに加われなかったのが悔しいらしい。

 それは昔からのことなので、呆れもしない。


「え。捨てられて、のこのこ帰ってきて、それで失恋の痛みを紛らわせるためにイメチェンしたってこと? 面白いんですけど!」


 大爆笑がうざい。

 やはり相談するのは間違っていたかもしれない。


「はいはい。女々しい男で悪かったですよ。可愛くないって言われて、振られたからね。成長した俺はいらないってさ。はは」


「うわ、何それ引くわ。最低じゃん」


「あはは、やっぱり? 俺もそう思う」


 第三者から見ても、最低のようだ。

 そんな人を好きになった俺は、完全に男運は悪いし見る目が無いのだろう。


「捨てられてイメチェンしたのはいいとして、これからどうするの?」


「あー。どうするか全く決めてなかった」


 とにかく自分を変えたかった。

 でも変えてからのことは、何も考えていない。


「そんな感じだと、なーんも決めていなかったのか。これだから、のんきって言われるんだよ」


「それは意味がちょっと違うような気がするけど。でもまあ、どうすればいいんだろう、これから」


 今まで全てを決められていたせいで、自分で何かを考えるということが出来ない。

 イメチェンは出来たけど、本質的なものは変わっていないみたいだ。

 まだまとわりついている彼の気配に、俺は身震いをした。


「全く、これだから考えなしは。どう考えても次にやることは一つしかないだろ」


 答えられない俺に、恭弥は自信満々に指を突きつける。


「新しい恋愛だ!」





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