死神とタカ
【男との会話1】
ハロウィンの夜、久しぶりに残業で遅くなり家路を急いでいると、港の前でふと足を止めたい感情に駆られた。家に帰りたいはずなのに、なぜか足が止まったのだ。それは、秋の風のせいだったのかもしれない。
海を前にして僕は柵に体をあずける。感傷的になったのか、急に泣きたくなった。自分はこの上なく幸せなはずなのに、なぜか涙が流れてきた。ここで泣いてはいけない、と僕は思い必死に唇を噛んだ。でも、その痛さが余計に涙腺を刺激するのだった。
「もしもし、そこのお兄さん。」
過去を振り返ろうとしていると、それを遮るように誰かに声をかけられた。少し高めの嗄れた声だった。
「はい?」
僕が振り向くとそこには小さな––––入学したての中学生くらいの身長の––––男が立っていた。その男の顔の半分は長い前髪で隠れていて、不気味に歪んだ唇しか見えなかった。
「お兄さん、今の生活に満足されてます?」
男が口を動かすごとに、囚われて異世界にでも連れて行かれそうな感覚に見舞われる。それに抗おうと「もちろんです。」と言った。それを聞いた男は「ほぉう。」と意味深げに呟き僕の方に歩みよってくる。
「僕はね、あなたのことをよく知っているんですよ。あなたの生い立ちから、あなたのユキのことまでね。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます