4話 獣と獣は変身と共に
2016年 7月20日 AM 6:40
国名/ジナド
場所/ノースフォレスト
季節/夏
ジナドは、先程までいたロギエ連邦とは違う大陸にある国だ。
ジナドといえば何がある?と言われれば、メイプルシロップが有名くらいしか俺は知らない。
そして今、本来なら、目的地の隣町ノースシングソンの近くの川に着くはずが、何故か森の中にいる。
太陽の位置的に、ジナドであることはわかっているが、ここはどこだ?
「えっと、オニオンちゃんここはどこ?目的地の隣町で拾った石って聞いたけど、ここは森だよ。もしかして、隣町は森だった?」
ココアは首をあざといくらい傾げて言った。
「そんなわけあるか。だけど、森の中なのは不思議だ。なんでかわかるか?フィルナ」
フィルナの空間移動は、何回か使って移動してるが、今までにこんなことは一度もなかった。
地点Bに移動するために代償となる物が、1番長く居続けた場所が地点Bの場所となる。
「フィルナ、その石どこで拾った?」
「え、えっと、町の近くの川で……もしかして」
「オニオンちゃん、もしかしてって、分かったの?」
川で拾ったのか、だが普通石はそうそう移動しない。
誰かが意図的に移動したり、自然災害が起きたりしない限り……
自然災害?
「フィルナ、もしかしてその川で拾った石拾う前に、自然災害かなんか起きなかったか?」
「え、えっと、先月の任務の帰る時に、移動地点として拾ったのですけど、あ、暗殺任務で、ここに移動する前に、た、確か大雨で川が散乱してたような、してなかったような」
やっぱりか、何故森の中が移動先になったのか分かった。
俺はため息をついた。
めんどくさい事になった。
計画通りであれば、目的地フォレストシングソンの隣町ノースシングソンから移動していくはずだった。
自然災害が起きたため、移動地点が狂ったが、目的地に1番近い場所がここだったためもうどうしようもない。
今から戻って他の街から行くこともできるが、それだと遠すぎて行くことができない。
印持者とバレると厄介な事になるため、いつも人目のつかない場所を移動地点にしていたが、これはこれで厄介だ。
「フィルナ、事故はよく起きる事だから仕方がない。だけど、売られる印持者を安易と見逃すこともできない。ここがどこら辺かわかるか?少しでも分かれば助かる」
あたり一面は、生い茂った木々が生えており、目印になるものもない。
川が近くにあれば、まだ希望はあったが、川なんてどこにもない。
聞こえるのは、鳥のさえずりだけ。
分からないかノーという返答が返ってくると分かっていながら、そう言った。
「す、すみません!わからないです」
フィルナは90°に礼して謝った。
能力の関係上こういうことは仕方がない。
「いや、これはフィルナが悪いわけじゃない。だが、どうするか」
俺とフィルナがどう目的地に行くか考えていると。
「ふふーん、君たち、私の能力を忘れてはいないかな?」
突如、ココアが胸を張って、ドヤ顔しながら言ってきた。
「ん?あー、その手があったか」
「えとえと、ど、どういうことですか?」
ココアは、ハートの印の印持者で、能力はありとあらゆる物に変身できるものだ。
それは、生物や物問わず何にでも変身できるし、一部分だけ何かに変えるということも可能だ。
ただ、物に変身しても身体の感覚があるらしく、例えば金槌に変身したとして、釘を叩くと本人は痛いらしい。
この能力で、鳥に変身すれば、ここがどこら辺に位置するか把握できる。
「フィルナ、鳥に変身するんだ。そうすればここがどこだかわかるだろう。」
「あ、あ、そういうことですね。た、確かにそれならわかりますね」
「そゆこと、では早速変身!」
ココアはみるみる身体が縮み、黒い羽が生え、口がクチバシになり、カラスになった。
そして、ココアが来ていた服が地面に落ちた。
それと……下着……
フィルナは、急いで、ココアの周りに落ちた衣服を拾った。
当の本人は、両翼を腰?にあてて。
「カー、カー」
とココアがなんか言っている。
「どうだー」とか、「すごいだろー」って多分言っていると思うが、一応2年くらいの付き合いなので、能力について当然知ってるし、何回も見た。
フィルナは、仲間を目的地に移動させることくらいしかしないので、初めて見たと思う。
「わかったから、早く見に行ってくれ」
「す、すごいですね。ココアさん」
ココアは羽を広げ上空へ飛んだ。
飛んでから3分くらいで返って来た。
変身から戻った時、ココアは裸になるため、一応女性への配慮のため後ろを向く。
「ココア、ここがどこら辺かわかるか?」
「んーとね。ここから徒歩で10分くらい?のところに川があって。そこを川が流れてる方へ下ると、多分隣町のノースシングソンだよー」
「そうか、それはよかった」
「ふふーん、褒美をくれてもよいぞ。」
ココアは、鼻を高くしてそう言った。
俺が、「はいはい」と受け流すと、「ぶーー」と口を膨らまして言ってきたが無視する。
「よ、よかったです。わ、私、任務で役にたてないから、む、無能な人間になるところでした」
フィルナはうるうるとした声でそう言った。
みんなは、いつもお前に感謝してると思うがな。
フィルナのおかげで、危険な場所は基本避けれるし、余裕を持って目的地に行くことができる。
「俺は、フィルナが無能だと思ったことはないぞ」
俺はそういい、フィルナの頭をぽんぽんと叩いた。
するとフィルナは、口周りを赤くし、「そ、そんなこと、ないです」と自信なさげにそう言った。
「オニオンちゃんだけ褒めるのズルい。私も頑張ったから褒めろー」
「はいはい、すごいな」
「そうじゃなーいー」
褒めるとすぐ調子に乗るので、ここは話を受け流す方がいい。
ココアには少し悪いとは思うが。
「ぶー、まぁいいや。川はこっちだよー。ちゃちゃと行って、助けて、帰ろ」
そう言って、ココアは先頭を歩いて、川へ向かった。
数分歩くと、川が流れる音がしてきた。
「そろそろ、川だな。この後は順調にいけばいいが」
「そ、そうですね」
「そだねー。まぁ順調だったこと一度もないけどねー」
と俺たちは、ピクニックに出かけてるような気分だった。
川が少し見えてくるとパシャと水しぶきを上げた音がした。
「ちょっと待て、何かいるぞ」
俺は小声で2人に声をかけた。
すると2人は息を潜めて屈んだ。
そっと、木の影から顔出し、川を覗くとそこには、四足歩行で体長が80cmくらいの狼のような生き物が5匹いた。
しかし、狼にしては少し小柄だ。
その生物の顔見ると、正体が何かわかった。
「コヨーテだ」
コヨーテは川で魚をとらえているようだった。
一応、人を襲う生物なので、ジェスチャーで隠れながら移動する様に指示した。
バレたら仕方がないと思うが、無闇に生き物は殺したくない。
拳銃を持ってはいるが、弾薬をこんなところでは使いたくない。
それに、すぐ町に着くと思っていて、サプレッサーをつけていない。
もし仮に、近くに人間がいたら、場合によっては国に印持者ってことがバレる可能性がある。
ここは絶対避けた方がいい。
ゆっくり移動すると、後ろでパキッという音がなった。
フィルナが枝を踏んで折れた音だ。
その音のせいか、コヨーテの3匹程がこちらに気づき「アウォーーン」と吠える。
「ご、ごめんなさい」
フィルナは今にも泣きそうな声でそう言った。
「しょうがない。ココア、生き物は殺したくないから、なんかに変身して追っ払えないか?」
「あいあいさー」
ココアが大きな生物に変身して、着ていた衣服が破れ、身体がデカくなり、鼻が長くなり、牙が生える。
体長6mほどの象に変身した。
「パウォーーーン」
ココアが大きな声を上げて、追っ払おうとする。
その声と大きな体で残りの2匹も気づき、他の3匹と同様に吠える。
追っ払えと言ったのは俺だが、そんなに大きな声出すと人間がいた場合、印持者とバレかねない。
頭の中で、この馬鹿野郎と思うが言うのはもう遅い。
もし、人が現れたら、フィルナの空間移動で石を拾ってから、すぐ逃げようと思っていると、5匹のコヨーテの内1匹が仲間のコヨーテの首を噛み殺した。
それに俺達3人は驚いた。
敵がいるのにも関わらず、同胞を噛み殺したのだ。
しかし、その謎がすぐに解けた。
仲間に噛み付いたコヨーテの右前足が光った。
その光った場所には、クローバーの印があり、おそらく条件を達成し、能力が発動したから光ったのだ。
「動物の印持者は初めて見るな」
「ど、動物にも、い、印持者がいるなんて……」
「そもそも、印持者が人間だけって考えるのもおかしな話だよな。同じ生き物だから、どんな動物だろうと印持者でもおかしくないな」
印が光ってから数秒後、コヨーテはみるみる大きり、ココアの体長と同じくらいになった。
ココアは、びっくりした挙動をしたが、大きくなったコヨーテに向かって、牙を突き出しながら突進し、牙がコヨーテの首筋に突き刺さる。
それに対して、コヨーテは痛そうな感じは見せるが、コヨーテも負けずにココアの頭に噛み付いた。
少しココアは怯んだのか、1歩後ろに下がるが、コヨーテを押し返して背後の川に後ろの両足を浸からせた。
コヨーテは大きくなっても、元々の体重が軽い動物だ。
能力の発動前が体長約1mで、体重は平均が15kgくらいだ。
巨大化した時の体長が約6mだとして計算すると、体重は90kg以上だ。
象になったココアは体長約6mで、体重は6000kgつまり6tもある。
象よりコヨーテの方が身体能力が高く、象になったココアと同じくらいかそれ以上の力はあると思うが、軽すぎて押されていた。
勝ったと思ったが、2匹の戦いを見ていて1つ忘れていた。
優勢だったココアが逆に押され始めたのだ。
理由は1つ、印持者コヨーテの仲間、3匹のコヨーテだ。
3匹のコヨーテは、ココアの右前足を2匹、左前足を1匹が噛んで手助けしていた。
これはまずい。
「フィルナ!銃出せ、撃つぞ!」
「は、はい!」
今回が救出任務であり、今日使わなかったとしても、俺達は暗殺者だ。
いつも拳銃とナイフは携帯している事は当たり前だった。
懐から拳銃を出し、ココアに噛み付いているコヨーテに向かって、ココアに弾が当たらないように、標準を合わせて引き金を2回引く。
バンッという計3回の銃声音が森の中で鳴り響く。
俺とフィルナは脳天を撃ったので、3匹のコヨーテは動かなくなった。
これにより、形勢は逆転して、ココアがコヨーテを押し倒した。
川の中で横に倒れたコヨーテは、すぐ起き上がろうとしたが、ココアがその隙を見逃さず、倒れたコヨーテの腹に向かって、全体重をかけて前足で踏みつけた。
何度も何度も踏みつけ、気づいた時にはコヨーテは動かなくなる。
元の大きさまで小さくなって、ぷかぷかと川に流されていった。
コヨーテを倒した事を確認し、ココアは元の姿に戻る。
その様子をフィルナは見て、慌てて先ほど破れた衣服をココアに渡した。
破れたので着れるわけがなく、危ないところを隠す布切れ程度にしかならなかった。
「いやー危なかった、危なかった。前足噛まれた時はどうなるかと思ったよ」
「ぶ、無事でよかったです」
「ココア、噛まれた傷は大丈夫なのか?」
「ん?それは大丈夫だよ。象の体って結構硬いんだよ。それにもし仮に怪我しても、怪我する前の私に変身すればいいだけだし」
そういえばそうだな、過去を振り返ってもココアが怪我したところを見たことがない。
「とりあえず、ココアがその格好じゃ、町に行った時痴女認定される。近くにいる俺達もな。そこら辺で石拾って、一旦帰るぞ」
「そ、そうですね。い、今石を何個か拾います」
「えー、私は痴女認定されてもいいーんだけどなー」
俺とフィルナは、その言葉にびっくりしてココアを見る。
こいつは馬鹿じゃなくて変態なのか?
「じゃあ、ずっとその格好していろ」
「えっ、こ、ココアさんって……」
「じょ、冗談だよ、冗談。だから2人とも、その哀れんだ表情で見るのやめて。私は痴女じゃないから」
ココアは、俺たちが哀れんだ感じを出したのに気づき、焦って訂正し始めたがもう遅い。
ココアが痴女だという事と動物の印持者がいるという事。
帰った時、ココアの着替えついでにリーダーに報告だな。
この後、仲間にこのことが広がり、ココアはみんなから影で、痴女と呼ばれる事となったという。
「私は、痴女でも変態でもなーい!超絶美少女ココアちゃんだーい」
ついでに、ココアの馬鹿発言が森中に響いた。
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