2.1話 ハンバーガー店に向かった女の子の話

2016年 7月15日 PM 13:37

国/ロギエ連邦

町/セルピ

季節/秋


 これは、キリルに料理を作ってもらおうと、リーダーに言ったが却下されたココアが、ふてくされてハンバーガー店に行った時の話。


 田舎町のセルピには、私がお気に入りの小さなハンバーガー屋がある。

 『バーガーピートーズ』という名前の大手チェーン店だ。

 私達が住んでる家から、徒歩5分くらいのところにその店がある。

 店内は少し暗く、レトロな感じ。

 壁は煉瓦のデザインで、街頭のようなライトがかけられている。

 ちょっと流行遅れの音楽が流れているのは、ここが田舎ということの証明だろう。

 私は、この雰囲気がとても好きだ。

 何故かって言われたら、わからないけど。

 どこか懐かしい感じがする。


 私は大抵、悲しい時ここに来る。

 ほとんどはキリルに、なんかされた後。

 変に絡むから、キリルに怒られるけど、私にとってそれが1番楽しみだ。

 でも暴力振るうのは嫌い、プンプンゲージMAXになったらすぐ暴力振るってくる。

 私だって女の子なのに……

 それに、今回は絶対キリルが悪い!

 リーダーばっかずるいよー。

 他のみんなもずるいし。

 オニオンちゃんには優しいし、ユリヤっちと親しげに話すし、ユルおじさんとはドライブ行くし、ウェンさんと花畑行くし。

 私には何もしてくれない。


 キリルの事を考えていると『バーガーピートーズ』の入り口に立っていた。

「1人で来るのは久しぶりだなー。最近家に引きこもってたし……」

 そう呟きながら店内に入る。

「「いらっしゃいませ!」」

 若い男性2人が元気よく言う。

 この2人は、若い女性が入った時だけ大きな声で言う。

 多分、自分仕事真面目ですよアピールだ。

 真面目な男子はモテるけど、2人の不真面目点知ってるから、私は落ちないよ?


 レジに行き、いつものメニューを頼む。

 ブラックバーガーと塩が振られてないポテト、飲み物はコーラ。

 ポテトについてくるケチャップは無しにする。

 これがいつも頼むメニューだ。

 ブラックバーガーは、名前の通り黒いバンズのハンバーガーだ。

 上から、バンズ、タルタルソース、レタス、トマト、エッグ、ハンバーグ、最後にバンズ。

 見た目は焦げた感じだが、私にとってお気に入りのハンバーガーだ。

 注文した物を受け取り、端っこの席に座る。

 周りから視線を感じる気がするが気にしないで食べる。

「ウ、ミニャ、ゼプ」

 ロギエ語のいただきますを言う。

 オニオンちゃんが、いつもご飯を食べる時そう言うので真似する。

 彼女曰く、ゼパングのアニメではこれが当たり前なのだという。

 ご飯を食べる前には、いただきます。

 ご飯を食べ終わった後には御馳走様でした。

 それをロギエ語に言い換えた物らしい。

 私はアニメには詳しく訳じゃないけど、オニオンちゃんと仕事がない日に一緒に見る。

 ほとんど、ゼパング語で喋ってるので、何を言っているのかわからないが、オニオンちゃんは興味深々で見てたなー。

 そういや、何故かキリルは、ゼパング語話せたな。

 帰ったら聞こう、そう思ってたが、ハンバーガーを口にするとそんなことは忘れてしまった。

 「美味しい」

 思わず口から言葉が溢れてしまう。

 そして、すかさずポテトを手に取り口に入れる。

 ハンバーガーを食べた後、タルタルソースの後味が舌に残っており、その状態でポテトを食べると実に美味である。

 ハンバーガー、ポテト、ハンバーガー、ポテト…

 これを繰り返して食べるのが私の食べ方だ。


 気づくと全部なくなってしまった。

 また、注文しようと思ったが、やめといた。

 理由は1つ、家に帰ってからキリルに謝ろうと思ったからだ。

 美味しい物を食べると考えを改めてしまう。


 一口も飲んでないコーラを一気飲みして席を立つ。

「ゲプ」

 ゲップが少し出てしまった。

 コーラを一気飲みしてでるのだから、少しずつ飲めばいいのだが、そんな事はしない。

 喉にくる炭酸の衝撃が病みつきで、わかっていても、何回もやってしまう。

 一応、口を閉じていたので周りには聞こえてないはずだが、聞こえてたら恥ずかしいので、速やかに店を出る。

「「ありがとうございました」」

 店員の声が、背後から聞こえた。


 私は大抵、悲しい時ここに来る。


 反省して、家に帰れるからだ。


 私には家がある。


 昔とは違う。


 楽しい仲間もいるし、私の遊びに付き合ってくれる人がいる。


 もう、忘れなくていいから、今が楽しい。


ーーーーーーー


 家に帰ると、玄関に腕を組んだキリルがいた。

「今日はいつもより早かったな」

 相変わらず、ちょっと無愛想な声だ。

 私を相手にする時。いつもこの声。

 暗く、冷たく、だけど少し優しさを感じる。

 キリルの考えてる事は、よくわからない。

 でも、これは私に対しての仲間思いな一面だと思う。

 鬱陶しかったり、面倒くさかったりするけど、毎回、私に対していつも対応してくれてる。

 みんないじわると思ったが、考えてみれば私もされてた。

「うん、ただいま。最近鬱陶しくてごめんちゃい」

「毎回、外食から帰ったら、いつも謝るよな。そう思うならするな。相手の事を考えろ」

「わかってるよー。でも楽しいんだもん」

 私にとって、楽しむのは1番大切な事だ。

 それは、私のためでもあるが、他の人のためでもあるし……

「楽しいで、すますな。もう少し日常生活の言動を慎め。そしたら、料理を作ってやる」

 あれ?今聞き逃せない言葉が。

 (料理を作ってやる)


 やったぜー!

 あのキリルが、作ってくれる!

 私は、勢いよくキリルに飛びかかった。

「ぐわっ」

「キリルありがとう!」

 キリルに乗りながら、胸元に頬擦りした。

「乗るな!離れろ!それを慎めと言ってんだ」

 キリルがなにか言ってるが聞こえない。


 いつのまにか、リーダーがその光景を見ていた。

「おやおや」

「リーダー!こいつ離して下さい。気抜いたらこいつに銃弾ぶっ放しそうだ」

 仲間に物騒な事言うねぇ。

 そんな奴にはお仕置きじゃ!

 私はキリルの脇をくすぐる。

「仲間に銃口向ける様な人間には、お仕置きじゃい」

「おい、馬鹿野郎!くすぐんじゃねぇ!」

 キリルは大暴れするが、抜け出す事はできない。

 実は、私の方が力が強いのだ。

「2人とも、程々にね」

「リーダー!ちょっと助けてください」

 キリルの言葉に耳を向けず、そそくさといなくなった。



 私は幸せ者だ。




 なお、これから数分後。

 ココアは、縄で縛られて猿轡をされた状態で、外に放り出された。

 ロギエの秋は寒い。


 解放されたココアは、キリルに頭から血が出るほど、床に頭を叩きつけながら、泣いて謝ったという。



「ごめんなさいー。寒かったよー」

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