2話 依頼の開始は食事と共に
2016年 7月15日 PM 13:27
国/ロギエ連邦
町/セルピ
季節/秋
ロギエ連邦は世界の最北に位置する、世界一大きな国だ。
季節は、冬が長く春と秋はあるが、夏がない。
今は秋だが、ここの町は1度くらいである。
そんな国の中にある町セルピは、小さな町で夜景が綺麗なことくらいしか、取り柄がない田舎である。
飲食店は2軒、服屋が1軒、スーパーが1軒しかなく、それ以外は御年配の方の住宅しかない。
そんな、町の端にある地下1階付きの2階建ての家。
その家は印持者達の家なのだが、世界が印持者で荒れているのに対し、ここはいつも賑やかだった。
誰かのせいで、、、
「キリルー!私にもご飯作ってくれよ〜」
大きな声が家中に響く。
今、家には3人しかいなく、この家は防音だが、非常に迷惑なものである。
俺は、いつもいつもこいつが絡んでくるから、面倒に思っているのだが、最近はもっと面倒になった。
こいつとは、茶髪の肩くらいまで伸びている長髪で、白いポンチョを着た白人の女だ。
静かにしていれば、結構な美女だと思うが、今涙を流しながら、俺のズボンの裾を引っ張っていた。
ココアといって、主に潜入調査を担当している。暗殺の依頼では心強い仲間なのだが。
「おい、ココアうるさい。もう少し静かにしろ。それに毎回言うが、俺はリーダーにしか飯を作らん」
「そこをなんとか〜、最近任務無いから、暇で暇で胃が美食を求めてるんじゃ〜。リーダーにばっかずるい〜。私にも作れ〜」
「飯くらい自分で作れ」
「私料理上手くないもん、キリルが私をいじめる〜」
ココアはいつも、任務の最中は、冷静で仕事ができるやつなのだが、印持者が集まるこの家では、考えが子供っぽくというか子供になる、なんとも残念な奴だ。
そんなに揺らすな、やかましい。
俺はココアが掴んでいるズボンの裾から手を振り解き、料理が載ったトレーを持って、二階のリーダーの部屋へ向かおうとした。
変な視線を感じながら、後ろから足音がする。
後ろからこいつはついてきた。
「ココア、なんでお前もついて来てるんだ」
「リーダーに、キリルが私にも料理を作ってくれる様に抗議するんだ」
ココアは、口元を膨らましながらそう言った。
そもそも何故ココアがそうなっているのかというと、2週間前にリーダーに持っていこうとした料理のデザートのパフェをココアが盗み食いしたことから始まる。
あの時は、俺が気づいて散々叱ったのだが、盗み食いしたパフェが美味しかったのか、依頼がない今では、暇してお昼どきになるとこうして絡んでくる。
「はぁ、ココア、リーダーに迷惑かけんな」
「いいじゃん、リーダー優しいもん。きっとキリルになんか言ってくれる」
こいつ、迷惑という言葉を知らんのか。
少しイラつきながらも、リーダーの部屋をノックして入る。
本棚とアンティーク家具で囲まれた書斎のような部屋だ。
入ってすぐ中央にある、窓に向かって配置された机に向かって、リーダーは静かに読書をしていた。
リーダーはいつも落ち着いた雰囲気が好きで、いつも自分の部屋にいる。
いつも、俺はここが静かで素晴らしい空間だと思う。
「リーダー料理を持ってきました」
「ありがとう、キリル。おや、今回はココアもいるね」
「やっす!リーダー」
この印持者で構成される暗殺チームのリーダー、名前はレナン=ナポレフ。
190cmの巨体の黒髪の短髪で眼鏡をかけている、この暗殺組織のリーダーにあたる人物。
いつも、落ち着いていて優しい人だ。
俺たちみんなは、この人に拾われて今ここにいる。
(君は印持者だね。もし行く宛がないなら僕のところに来るかい?手を汚す仕事はしてもらうことにはなってしまうけど。無理にさせはしないから。)
リーダーが昔言ってくれた言葉を思い出す。
俺たちは暗殺者といっても、誰でも構わず殺すわけではない。
麻薬や覚醒剤を輸入して売買してる奴らや、外面はいいけど、影で悪徳非道な行為をやる様な奴らの暗殺任務しか受けない。
俺たちは、全員印持者で、国から狙われて、この様な仕事をしないといけないが、腐っても俺たちは、なんの罪のない人間を殺す程落ちぶれちゃいない。
「リーダー、ご飯食べる前にちょっと聞いてください!」
「おや、何かな」
ココアは元気よく手を真っ直ぐに上げながら、うるさい声で言った。
リーダーを困らせるな、このバカ。
リーダーはリーダーで、凄くゆったりとした表情をしていた。
多分、それが原因でココアはリーダーに甘えるのだろう。
「実はですね。リーダーに作ってるキリルの料理が美味しそうなので、リーダーからキリルに、私にも料理作ってくれる様に言ってください。はっきりいってずるいです」
みんなはこれぐらい、やってあげればいいのではないかと思うかもしれないが、別にリーダーが特別だからといって、作っているわけではない。尊敬はしてないわけじゃないが、理由があってやっている。
「キリルには、僕がお願いして食事を作ってもらってるからね。ココアに料理を作ってあげる決定権はキリルにある。だから、僕はキリルに、ココアにも食事を作ってあげてと言える権利はないよ。僕は、ココアに作ってあげてもいいと思うけどね」
リーダーは、優しくココアにそう言った。
そのあと、ココアが輝かしい顔で、こっちを向いてきたが、「嫌だ」と返答した。
「むー、キリルもリーダーもいじわる!私近くの飲食店でハンバーガー食べてくる」
ココアはそう言い、口元を膨らませながら、部屋を去った。
この様子だと、しばらくは帰ってこなさそうだ。
「キリル、ココアにそんなに料理を作るのが嫌なのかい?」
「ココアを甘やかせるとダル絡みが悪化しますし、理由がない限りしたくないです」
「うんわかったよ。でも可哀想だから今度レストランに連れて行ってあげないとね」
「また、うるさくなりそうですね」
ココアは、ここにいる時元気よくみんなに戯れるが、暗殺任務中は、真面目で落ち着いて取りかかる。
もしかしたら、その反動でああなっているかもしれないが、やめてほしい。
「でも、ココアが賑やかなのは、いいことじゃないか」
「いや、まぁそれはそうなんでしょうけど」
肯定しとくが、自分としては否定したい。
リーダーは、ポジティブに考えすぎな様な気がする。
賑やかなのはいいことかもしれないが、流石に限度という物がある。
「話は変わるけど、今回の食事は、能力かい?それとも前回の暗殺対象者かい?」
「今回は、前回の任務の暗殺対象者です」
「わかった。ありがとう」
リーダーは、急に悲しそうにそう言い、食事に向かって祈り始めた。
俺は訳あって、リーダーに料理を作っている。
それは俺たち印持者の呪いの印がリーダーにあるからだ。
そもそも、印持者は、無から有を生み出す様な魔法は使えない、代償があるからこそ印持者は初めて能力が使える。
能力の印には、種類は大きく分けて4つある。
・寿命や人との関係、感情などの見えない物を代償とする、ハートの印。
・宝石や花、石などの見える、触れる物を代償とする、ダイヤの印
・代償となる物はないが、特定の条件が揃ってないと使えない、クローバーの印
・何かが永久的に制限される代わりに、常時能力が発動する、スペードの印
印持者の呪いのようなあざである。
リーダーには、珍しいことに二つ印があり、その中の一つがスペードの印に当てはまる。
卵、飲み物、野菜や果物は実の部分以外食べれない。
そして、1か月に一回人肉を食べなければいけないという制限がある。
生物は、同族しか食べれないという呪い。
無理に他の物を食べようとすると、絶対嘔吐してしまい。
身体に燃え上がるような痛みと呼吸が困難になり苦しくなるらしい。
今回作った料理は、人肉のステーキ。
飲み物はオレンジ100%のジュース、デザートはパフェ。
リーダーは、大体この料理を食べる。
飲み物とデザートは、人肉を食べたということを紛らすためだ。
リーダーを殺せばいいと思うが、それは不可能だった。
リーダーのスペードの印の能力は不老不死。
それも、同族を食うことで得られる対価。
肉を食べないとどうなるかというと、身体が巨大化し、腹が満たされるまで、暴走するゾンビとなる。
過去に数回、暴走してしまい、何回もこの印を呪ったという。
ちなみに、このことはココアは知らない。
ココアが気を使わせないためにとリーダーに言われたから。
「すまないね。キリル、祈りの時間が長くなってしまった」
「いえ、大切なことですから、それがどんな相手だろうと」
「そうだね。ありがとうキリル」
「これで俺は失礼します」
リーダーはいつもこの時は暗く切ない。
それが、仕方がないこととはいえ、俺にはどうすることもできない。
唯一出来ることは、この時そっとすることだから。
そう思い、ドアノブに手をかけた時。
「ちょっと待って、キリルに伝え忘れた事がある」
リーダーは、いきなりそう言った。
「なんですか」
リーダーは手を招き、俺に資料を渡して来た。
そこには、上にオークションと書かれており、下には売られる物品の名前が書いてあった。
「それは、ジナドで開催される。裏オークションで出される品の一覧だ」
それは分かった。
しかし、何故これを俺に渡してきたか分からなかったが、その謎はすぐ分かった。
2ページ目を見た時、驚いてしまった。
「そのオークションには、印持者の子が売られる。キリルは、ココアと一緒に救出しに行ってほしい。」
「リーダー、分かりました」
「オニオンちゃんには、言ってあるから、オニオンちゃんが帰り次第、準備して行ってほしい。ココアは行ってしまったが、帰って来たら話して一緒に行くといい」
いつも、思う事がある。
この印は自分で欲して手に入れたものではないのに、差別する。
印持者は、家族がいるのに、全員殺され、物として扱われる。
白人が、黒人を差別する様に、吐き気がするものだ。
「キリル。売られている子は、10代の女の子だよ。見つかるといいね」
いつものように、優しくそう言った。
リーダーの言葉を背に、すぐ部屋を出た。
その時、自分は殺人鬼の目をしていた。
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