第5話 派手に殺す

 結論だけ言うと、藤本真中の死体はあった。

 日曜日を費やし、S駅の周辺にある何棟かの廃ビル……その中でも人目につかなさそうな場所を重点的に探し回った結果、四件目でヒットした。

 

 手帳の記述と同じく、またもや眼球がくりぬかれ、頭蓋を叩き割られた死体。

 ただ、一件目の事件と違っている点もあった。それは藤本真中の死体が埋めて隠されていたことである。廃ビルの敷地の裏手、人目につかない場所の地面に掘り返された跡があったため何とか発見できたが、うっかり見逃していたとしたら、休日が丸一日徒労になるところだった。連続殺人のリスクを鑑み死体が発見されないように工夫したのだろうか。家までシャベルを取りに帰ることになった僕の身にもなってほしい。

 眼球が入っていたはずの両目と、脳が露出した頭蓋骨の中には、地中に隠されていた影響で土が詰まっていた。

 

 どこか植木鉢のようだと、思った。

 

 ドルチェ先輩なら、こんな状況に置かれた際は、嬉々としてシャッターを切ったりするのだろうか。

 だが、生憎僕には彼女のような趣味はない。

 黒く変色した肌の表面を這う白い蛆に気を付けながら、手袋を装着した手で死体のポケットを漁る。

 不用心にも残されたままになっていた財布を抜き取り、藤本真中を埋め戻してから廃ビルを後にした。

 

 帰りの電車に揺られながら、藤本真中の財布に残された品々を確認する。

 狙い通り、学生証が出てきた。

 藤本真中は田中好美(ついでに僕)と同じく、またもや高校一年生だった。

 そして、彼女の生前の顔を確認したとき、これまで考えてきた推論とはまるで無縁なところから、被害者の共通点が浮かび上がってきた。

 さすがに僕は、嫌な汗をかいた。

 小学校の卒業アルバムをどこにしまったか、家にたどり着くまでに出来れば思い出しておきたかった。

 

 家に帰るやいなや、僕は自室の押し入れからアルバムを取り出し、めくる。

 そこには、


「田中、好美……藤本真中……」


 殺された少女たちの名前があった。

 眼球スプライトに殺された少女達と僕は、同じ小学校に通う同学年の生徒だった。

 僕だけは六年一組の生徒だったが、田中と藤本は共に四組の所属であり、クラスまで同じということになる。

 そして。


「見つけた……!」


 アルバムの中、四組の子供たちの四角く切り取られた笑顔が並ぶページに、その人物もいた。

 印象が今とはまるで違うので気が付かなかったが、喫茶店にいたあの人物で、間違いない。

 

 眼球スプライトの正体。

 次に誰が狙われようとしているのか。

 全てが明らかになった。

 

 僕は、部屋の中で一人、恐る恐る犯人の名前を声に出して読んだ。


「サ、ト、リ…………」

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