第六話
罰としてバケツを持って立たされている、ジュリエットと
満杯に入っているバケツの水に向かって、指揮棒の形状に似た杖を振るう。入っている水が波打ち始める。と、水はうねりとなり、バケツから二人の立たされる近くにある花壇に向かって飛び、その上空で、一斉に散らばり花たちの恵みの雨となった。
「二人とも、反省しました」
「は、はぃ」「はい!」
少女の気の強さを表現している顔のすべてパーツが、へにょ、へにょ、に下がりきっていた。
そして少し俯き、視線は地面のグラウンドに向けられて、いた、の、で、あった。
「ジュリエット」
ミシェーラは、顔に付着していた砂をポケットから取り出した真っ白で上質なハンカチに、水分を含ませ――優しく拭いた。これは、ジュリエットと無慮が持って来させた空のバケツに、水系統の魔法を使用し、大気に含まれている水分だけを魔力で意図的に取り出し、空のバケツに注ぎ込んだ、魔法の応用の一つ。
汚れた少女の顔が透き通る美しい肌にし、頭を優しい撫で、
「さぁー。授業に戻りますよ、ジュリエット」
こくり、と、頷くと。グラウンドに向かって、歩いていく。その後ろ姿は少女の小さな体躯が、より小さくなっていた。
しっかりと反省しているの――で、あった。
しかし、
「僕にも、」
と、ボサボサの黒髪を撫でるもらうために、しゃがみ。いまか、いまか、と順番待ちをしているオトコ、が。
キッと鋭い視線を射ながら、
「ムギさん!」
無慮の頭上を指した杖先から、見えないがそこに存在している大気中を浮遊している水分がみるみる可視化され、水の球体を作り上げ――落下させた。
しっとりと雨の降る日に聞こえる、土と水が生命の戯れている風流な音色で、なく。子どもが行うであろう、人に水をブッかけるイタズラ――音!
「ふふん。水もしたたる、いい男になるの。またの機会で」
「!?」
眼前でしゃがみ込んでいた、はずの無慮。は、いつの間にか、ミシェーラの背後に回り込んでおり。赤い唇は小さな微笑を形成していた。
ミシェーラは――呆然としてた。
居たオトコの動きを捉えることが、できなかった。の、だから。一昔前の魔法使いなら、ありえる話であった。
だが、
現代の魔法使いは、魔法だけを使えれば良いという考え方をしていない。と、いうより、そんな教育を受けない。
発展したからだ――科学、が。
それに危惧した、魔法使いたちは。実戦での有用性を示すことに、注力した。剣や槍、または、体術。はたまた、弓などによる肉体戦闘手段を必須と、し。さらに魔法も、一系統だけに固執するのではなく、四系統を全て修めるこにより、魔法の多様化を図った。
さらに科学の祖である錬金術にも、莫大な研究資金を投入することで、科学技術より一つ先の技術を開発することにも、成功した。
ある意味で科学の急速な発展が、大きな刺激となり魔法使いを――魔法使いに、したのであった。
教師であるミシェーラは、魔法使い。四系統の魔法を操りながら、短剣と体術を合わせた近接戦闘もできる、高レヴェルの戦闘員の一人である。
その高レヴェルの戦闘員の視線から消え去り、そのうえ、背後に回り込むことをいとも容易くしたのだ――無慮は。
ジュリエットの足跡を辿るように、執事服のオトコは歩いていく。その姿に、もしかして、ジュリエットは死に神に魅入られてしまっているのでは、ない、か。と、そのようにしか表現できなかった。
一人の魔法使いと、して。
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