エピローグ

「おめでとう!」

「おめでとう、イセカ! ユーノスケ!」

「へ? え? あれ?」


 姉が戸惑っています。そうでしょうね、おねえちゃんには、きっとあれからまだ一瞬しか経っていないのですから。

 わたしの感覚では何年も経っています。あの時、祐之介さんの手が滑って超空間に置いてけぼりをくらったので。

 いえ、正確には三人揃って帰りました。祐之介さんは地球に。わたしたち姉妹は天界に。

 だから最初は、彼が何をしようとしたのかわかりませんでした。でも、時が経つにつれてわかってきました。

 あれからも、わたしたちは何度も彼を引き当てました。そのたびに一緒に異世界へ行きました。たくさん冒険しました。最初に祐之介さんとおねえちゃんが救った世界に戻り、復活した魔王と戦ったり、かつての仲間達と再会して、お互いの世界を行き来できるようにしたりも。

 大変な数年間でした。わたしにとっては忘れられない日々です。

 でも、おねえちゃんは“思い出して”いるでしょう。あのニュルっと記憶が流れ込んで来る感覚で。

 だって、あの二人は今まさに、あの瞬間からこの瞬間に飛んできたんですから。


「ど、どうして……?」

「あの科学者が言ってただろう。オレの能力は“過程を無視して望んだ結果に辿り着く力”だと」

「じゃあ……」

「ああ、あの時に決めた。もうお前と離れ離れになるのは嫌だったからな。それとも、オレが相手じゃ嫌だったか……?」

「ううん」


 姉は首を横に振りました。

 白いヴェールがふわりと揺れます。


「スルーされるより、ずっといい!」

「できないよ。そんな姿を見せられたら」


 そして花嫁と花婿が幸せなキスをして、この物語は終わりです。

 主神パパは泣いていますし、母神ママも泣いています。もう一人のおねえちゃんや魔王退治の時の仲間たちは悔しがっていて、でもやっぱり祝福しています。

 わたしもちょっぴり悔しいけど、せっかくの二人の門出ですから、こんな気持ちはスルーしちゃいましょう。

 いつかわたしにも素敵な勇者様が現れますよ。だってわたし、たったの1000ポイントであの勇者を引き当てた強運の持ち主ですから。

 だから素直に、おめでとう、おねえちゃん!

 でも、ここからはなるべくスルーさせない方がいいよ。せっかくの新婚生活なんだしね。




 ……あっ! 前世がどうとかいう伏線はスルーされてる!?



                                  (終)

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女神vsスルーの達人 秋谷イル @akitani_il

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