ラウンド2、ファイッ!!

 えっ!? あれっ!? いつの間に街に──あ、ああっ、違う! 流れ込んで来る! 頭の中にこれまでの数時間の移動の記憶が!!


「ふふ、慣れるとこれが病みつきになるのよ。自分のことなのに他人の記憶を垣間見てるみたいでしょ?」


 こ、これがスルー力……! 時間を飛ばしたかのように一瞬で展開を進めつつ、けっして無かったことにはしていない……すごくきもちわるい!


「……」

「こ、こら、気持ち悪いとか言わないの! クールぶってるけど意外と傷付きやすいんだからね、この子! 十代男子はガラスのハート!」


 うわ、めんどくさ。

 でもテンセは人間関係を円滑にしておいた方が物事は上手く運ぶことを知っています。だから素直にあやまっておきましょう。

 すいませんでした祐之介さん。お詫びに姉を差し上げます。


「いらん」

「即答するな! わたしもこう見えてあんたより年下なんだからね!? 傷ついたら桃みたいに痛みやすい繊細な心の持ち主なのよ!」

「そうだったのか、すまん」


 あ、ピュアな素直。


「ところで街には来たが……これ、技術革新とか無理じゃないか?」

「ですよね〜」


 困りましたね。わたしたちは空を見上げます。

 自家用車っぽいフォルムの飛行物体が横切って行きました。それも一台や二台じゃありません。たくさんです。地上を走る車より多いくらい。

 そして周りには高層ビルの群れ。コンクリートジャングルです。あちこち日本語が書かれてますから東京でしょうか?

 え? 秋田? 秋田市でこれ!? 東京とかどうなっちゃってるんです!?


「こんなのバック・トゥ・○・フューチャーじゃないの!?」

「2だな」


 めちゃくちゃ文明進んでますね……わたしたちの世界より遥かに上です。


「ちょ、よく見るとこの建物、コンクリートじゃないわ。なんか未知の材質よ」

「どの建物も新築のように綺麗なんだが……」

「試しにガラスに触ってみたんだけど指紋つかない! すごい! これを使ったスマホとゲーム機欲しい!」

「こんな未来世界でどうしろと言うんだ?」


 いや、待ってください。文明は進んでいても現地人の知識はしょぼいのがこういうパターンのお決まりのはず。


「ええっ……こんな凄いもの作る人達よ? 一般人でも科学者レベルに決まってるじゃない」


 おねえちゃんがそのツッコミをしないで。わたしだってそんなはずないと思いながらお仕事のために言ってるんだよ。


「ごめんごめん、じゃあとりあえず、そのへんの人に聞いてみましょう。ヘイシリ!」

「なんでいつも人の尻に話しかける?」


 そのシリじゃないですよ。


「なんですか、お嬢さん?」

「すいません、ちょっと学校の宿題でわからないところがありまして。あの、この問題なんですけど」

「何故オレのノートを持っている?」

「あら、大きいのにこんな簡単な問題がわからないの? こんなの幼稚園児でも解けるじゃない」

「そうですか」

「ほう……」


 あ、二人ともイラッとしてる。


「はい、こんなところかしら。残りの問題は自分で解きなさいね? こんなのもできないようじゃ赤ん坊からやり直しよ」

「アリガトウゴザイマース」

「オセワニナリマシタ」


 待って、二人とも待って。拳を握らないで。魔力を高めないで。


「クソッ! 転生・転移者に上から目線で説教される現地人の気持ちがわかったわ!」

「オレだって解ける……このくらい解けるんだ……別にオレは天才じゃないが、馬鹿でもない……」


 どうどう、どうどう。あなたたちが本気で暴れたらこの世界滅んじゃいますから、おさえておさえて。

 まあ、この文明レベルならあんがい接戦になるかもですけど。ゴジ○とも戦える兵器とかありそう。ちょっとワクワク。


「なにテンセ? あんたSF好きだったの?」


 SFというか特撮です。特に怪獣映画が好きですよ。


「へー、意外な趣味。って、もしかしてあんたのその趣味が反映されてこんな世界に飛ばされちゃったんじゃ?」


 あ、そうかも。ごめんなさい、おねえちゃん。


「別にいいわよ。それより、どうするか考えないとね。わたしとしても結構楽しそうな世界ではあるんだけど、祐之介、あんたはどうせ帰りたいんでしょ?」

「ああ」


 珍しいですね。異世界送りになった方は、元の世界には帰りたくないって言うケースが多いのに。


「母さんのメシが食えなくなる」

「そうなのよこいつ、それだけのために世界を救ったの」

「別にそれだけじゃない」

「知ってるわよ、あの世界の人達のためでしょ。でも、あれだけ苦労して英雄になったのに、その名声をあっさり捨てて帰ったんだもん。あんたの中じゃ相当大きな理由ってことじゃない」

「まあな」


 なるほど、帰還を望む理由なんて、そんなものかもしれないですね。帰りたがるということは、現世での生活にとくに不満が無いのでしょうから。


「こいつはお母さんの料理と昼寝する時間さえあれば幸せなやつなの」

「……」


 おねえちゃん、その人いま、できればおねえちゃ

 壁ドン!?


「やめろ、言うな。そして二度とオレの心を読むな」


 す、すいません……。

 これが世界を救った勇者の恫喝……おしっこちびりそう。


「う〜ん、それにしても困ったわね。こうなったら、またあれをやるしかないんじゃない?」

「そうだな」


 あ、スルーするんですね? 今は解決法が見つからなくても、飛ばしちゃえば勝手に見つかってるのかな? だとしたら、なんて便利な能力。完全にチートじゃないですか。

 あれ? でもたしか、その能力って元から持ってたんですよね? おねえちゃんが与えた能力はなんでしたっけ?


「……」

「鉄を十回咀嚼したら黄金に変えられる能力」


 は?


「鉄を十回咀嚼したら黄金に変えられる能力」


 おねえちゃん、それはあんまりだと思います。


「どうして!? 手軽に資金が稼げるじゃない! わたし史上最高に便利な能力よ!」


 いやまあ、ゴミスキルしか与えちゃいけないルールですけど、もうちょっとこう、手心を……。


「どうしてよ!? 悪くない能力よね、ねえ祐之介!?」

「さあ、次へ行くぞ」

「スルーしないで! あんたね、そうやって自分に都合の悪いことをスルーしてばっかりだとロクな大人になれないわよ!」


 じゃあ、おねえちゃんも頑張ってこの世界で技術革新を起こしてみますか?


「レッツゴーネクストシーン! ちゃっちゃと話を進めちゃいましょ!」


 テンセ一つ覚えました。

 大人は嘘をつく生き物ではありません。時々間違ってしまうだけなのです。

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