ラウンド1、ファイッ!!
「──それで、また目が覚めたら異世界だったわけか」
「そう、そういうことなのよ」
どうも、異世界送り担当女神姉妹の三女テンセ・イサセルです。わたしは今、脳筋かつ恋愛脳な姉のせいで候補者の田中 祐之介さんといっしょに異世界にきてしまいました。同伴した姉は妹そっちのけで彼に話しかけています。くそう、嬉しそう。
ちなみに今は、どこかの平原のど真ん中。異世界物では定番のスタート地点。テンセもこれまでに千人以上の候補者をこういう場所に放り込んできました。今回のこれは、そのせいでバチが当たったのかもしれません。神様なのに。
「ところで、一つ質問いいかしら?」
「なんだ?」
異世界を救った経験を持つ勇者・祐之介さん。その冒険で何年も行動を共にしていたうちの姉の存在は、流石にスルーできなくなったようです。
でも──
「ど・う・し・て、顔を逸らすのかしら!? 久しぶりの再会なんだから、もっと喜びなさいよ! わたしをじっくり舐め回すように見てニヤつきなさいよおおおお!!」
姉はまた気持ち悪いことを言っています。わたしは今後、まんがやアニメに出てくる“姉の恋を応援する妹”に感情移入することはできないでしょう。恋のせいでおかしくなった肉親の姿を現実に目の当たりにすると、けっこうきっついです。
「あ、そうだ!」
姉がこちらに振り返りました。嫌な予感がします。
「テンセ! あんた、たしか読心能力を持ってたわよね!」
「!?」
うん、もってるけど?
「ちょっとこいつの心を読んでみてよ! なんでわたしを直視しないのか探って!」
「やめろ!」
「な、なに、突然? はっはぁ〜ん、読まれたらまずいことがあるのね! やましいことを想像してるのね!? でも残念! 純粋なパワーならわたしの方が上ですうううう!! ましてや、そっぽ向いたままで勝てると思うなあああああああああ!!」
「くっ……うおおおおおお!」
「なっ!? なにこのパワー! 前の世界で魔王を倒した時に散々覚醒イベントをやらかしたくせに、まだ上があったの!? テ、テンセ、急いで! 早く読んで!」
え、ええ……っ? それ後で祐之介さんに怒られない?
「大丈夫! こいつこう見えて子供には優しいから! 前の世界の時なんて奴隷の女の子を解放するために珍しく」
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
ヒィッ!? で、でもテンセも子供だし大丈夫だよね? 子供相手でも容赦なく殺神デコピンかましてくる姉と子供には甘そうな勇者を天秤にかけたら、テンセはおねえちゃんに味方するよ! 自分の命がかかってる時には打算で動いてもいいよね!
ハッ!? お、おねえちゃん!
「ふんぬううううう!」
「ぐううううううっ!」
ち、力と力のぶつかり合いで嵐が起きてる! 二人とも前の世界でどれだけパワーアップしたの!?
あ、そ、そんなことよりおねえちゃん! わかったよ、祐之介さんがおねえちゃんの方を見ない理由!
パンツだよ! パンツ!
「ッ!?」
「へ?」
おねえちゃんパンツはいてないから、思春期の男子には刺激が強すぎるんだよ! しかもミニスカだし!
「……」
「……」
「な、なんかごめんね? そうよね、祐之介だって男の子なのよね」
「その言い回しはやめろ!」
「えっと、パンツ履くわ。生まれた時からこうだったから忘れてたけど、そうよね、普通は履くのよね。もう
「ス……」
「ス?」
「スカートも……丈を、長くしてくれ……」
「はい」
よかった、問題は解決したみたいです。それにしても祐之介さん、意外とむっつりさんだったんですね。
「……」
わたしは痴女じゃないですよ!? 無視しないでください!! ほら普通の格好でしょ!?
「誰が痴女よ!!」
「なんだ、イセカの妹か」
はい、テンセ・イサセルといいます。
「ん? 姉妹なのに苗字が違う……」
「そこはスルーしてよ! いいのよ、悪ふざけで付けられた名前なんだから!」
「子供の名前を悪ふざけで付けるとは、ろくでもない親だな」
「そうね」
そうですね。
否定する要素が見当たりません。
「で、今回はなんだ? また魔王を倒すのか?」
「だったら楽勝すぎるわね。わたしたち二人が揃ったら、もう魔王だろうが邪神だろうが敵じゃないでしょ」
「前回の仲間はいないぞ?」
「あ、そうか……あの子達、元気にやってるかしらね」
「ああ、あいつらなら、きっとな……」
あの〜、わたしにわからない話はやめてください。おいてけぼりになってます。
えっとですね、今回の
「技術革新?」
「それってあれ? 現代知識無双ってやつ?」
そうです。文明レベルの割にどうしてか知識が原始人並に乏しい現地の方々に特になんでもない知識や技術を披露してみせて「すげー!」と言わせるあれです。
「よくわからんが、オレはただの高校生だぞ?」
「成績も平均点よね」
「何故知ってる?」
「これ、ステータス表に書いてある」
「そんな便利なものがあったのか」
「そういえば前の世界は、異世界にしては珍しくステータスだのレベルだのアイテムボックスだのが無かったわね」
「なんだそれは? 定番なのか?」
「だいたいの異世界ではね」
今回もありませんね。祐之介さんはURだから攻略難度の高い世界が選ばれるのかも。
「ゆーあーる?」
「相変わらずゲームとかやってないみたいね。シエスタ以外の趣味も見つけなさい」
「昼寝はオレのライフワークだ」
「かっこよさげに言っても昼寝は昼寝だから!」
なかなか話が進みません。この二人、こんな調子でよく世界を救えたものです。
「まあいい。それなら適当な村か街にでも行こう」
「そうね、こんなところじゃ滅多に人も通りかからないでしょうし。というわけで頼むわ」
「ああ」
頼む? 何をするつもりでしょう? 姉が祐之介さんの背中を叩いた途端、彼が彼方を見つめ──
「タスートの街へようこそ」
!?
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