女神姉妹vsスルーの達人
プロローグ
おねえちゃーん、おねえちゃーん。
「あら、テンセ? どうしたの?」
おねえちゃん、またソファーに寝そべってゲーム三昧なのね。
「一緒にやらない? フォー○ガイズ」
やらない。テンセ、ゲームとか興味ないもん。
「駄目よ〜、異世界送り担当女神たるもの人間の文化は研究しとかなきゃ。どこにヒントが転がってるかわかんないんだから」
異世界送りのお仕事なんて、候補者をトラックでひき殺すだけでしょ? テンセ、それ以外ほとんどやったことないよ?
「あ〜、わかってないわね。そんなんじゃ無理な奴もたまにいるのよ。こっちが何を仕掛けてもことごとくスルーしちゃうようなスルー
あ、それって田中 祐之介さんだっけ? おねえちゃんが一緒に異世界に飛ばされた時の勇者。
「そうそう、その祐之介よ。あんたも覚悟しときなさい、候補者ガチャって同じやつが出てくることもあるらしいから。滅多に無いけど、もしもあいつが出てきたら大変よ〜」
そうなんだ。たしかにおねえちゃん、最後までその人にスルーされてたらしいしね。それなのにその人の話が出た途端いつも足をもじもじさせちゃうくらい好きみたいだし、もしかして、おねえちゃんってマゾなの?
「おい!? どこのどいつだ、あたしの妹に変なこと吹き込んだやつァ!?」
「今度は北極まで奥歯飛ばしてやる!」
まってまって。それよりテンセ、祐之介さんのことをもっと聞きたいんだけど。
「え? なんで? まさか……」
安心して、狙ってないから。だから右手をグーにするのやめて。おねえちゃんのパンチは今や天界一の凶器なんだよ。自覚して。
「まあね! 伊達に東西南北全方無敗先生の厳しい修行を乗り越えてないわ!」
わ〜、モ○ルスーツとか素手で壊せそうな名前。その人の修行のおかげで、おねえちゃんは女神でありながら魔王と素手でガチンコできるチートモンクになれたんだね?
「チートじゃない! 努力よ努力! あんた、あの師匠の修行がどんだけ厳しいか知らないの!? 重力を百倍にして自分で自分に全力の気功弾を撃ち込んだりするのよ!!」
それでパワーアップできるのはサ○ヤ人だけだと思ってた。
「まいいいわ、それより祐之介のことだったわね。あいつは……えーと、まあ一言で言うとスルー力の高いやつよ」
それ知ってる。
「か、顔もまあまあよ!」
おねえちゃんは、その顔に惚れたの?
「ちげーから! そもそもわたしが惚れたんじゃなくて、あいつの方からフラグ立てたんだから! 最後にとうとうスルーできなくなってデレたのは向こうですー! 拳をコツンして照れ顔で逃げてったのあいつの方だも〜ん! これってアタシの方から惚れたわけじゃないよね? つまりこっちの勝ち! 恋愛は惚れた方が負けだって、か○や様のナレーションの人も言ってました!」
わあ見苦しい。いまどきツンデレなんて流行んないってパパが言ってたよ。時代は出会って二秒以内にメロメロになるチョロインなんだってさ。
「そんなやつが現実にいてたまるか!」
他には何かないの〜? 祐之介さんに関する情報。
「……なんでそんなに聞きたがるの? テンセ、あんたもしかして……」
……おねえちゃんのように勘の鋭い女神は、
「いいから見せなさい! さっきからチラチラ見えてたわよ、候補者ステータス表!」
ああっ! 目にもとまらないこの動き、やっぱりチート女神だよ!
「やっぱり! あんた、よりにもよってあいつを引いたのね!?」
ええ〜ん、おねえちゃんの二の舞にならないように毎日1000ポイント全部注ぎ込んで貯め込まないようにしてたのに〜。
「1000ポイントでUR引き当てたの!? あんたのその運こそチートじゃない!」
絶対これ幸運じゃないよ〜。どうしよう、テンセ、おねえちゃんみたいにゴキ○リ並の生命力なんか持ってないよ〜。
「姉のわたしがゴ○だったら妹のあんたも○キでしょうが!? それにこれは触角じゃない! アホ毛よ!」
おねえちゃん、今まで外見の詳細な描写なんか無かったから、誰もアホ毛があることなんて知らなかったと思うよ。
「あるのよ! この子にもわたしにも同じ形のが! 覚えといてね! 今後一切活かされない設定だと思うけど!」
それよりおねえちゃん、どうしよう、祐之介さんのこと……。
「あ〜、うん、仕方ないわね。あいつが相手となっちゃ流石にあんた一人じゃ手に負えないでしょ」
また足がもじもじしてる。
「う、うれっしくないからね! 今回だけだから手伝うの! 次からはちゃんと一人で仕事するのよ!?」
は〜い、おねえちゃんだいすき!
「あんたそれ言う時、いつも目が笑ってなくて怖いんだけど……まあ、なにはともあれパパ! おぅコラ、パパぁ!! 呼ばれたら三秒以内に出て来なさいっ」
『ヒィッ、な、なんの用じゃイセカ?』
「ああ? イセカ?」
『イ、イセカさん……どんなご用件でしょう?』
「テンセが祐之介引いちゃったのよ。だからサクッと異世界転移させたげて」
ええっ!? さっきテンセには自力で頑張れって言ったのに、おねえちゃんは早速パパに頼るの!?
「仕方ないでしょ! あれはスルーの達人なの! 何年も一緒に冒険してたんだからもう骨身に沁みてるの! 正攻法じゃ絶対無理なのよ! 転生トラックも通り魔も乙女ゲーもその他のどんな方法でも、あいつは必ずスルーするわ! 唯一の成功例がパパの強制転移なんだから、初手でそれをぶち込まなきゃ!」
おねえちゃん。
「何!?」
その数年間の大冒険の記録映像が、まったく残ってないんだけど?
「それもスルーされたのよ!」
天界の技術まで欺くなんて、すごいなー。本当に人間なのかな、その人?
「え?」
ほら、時々いるでしょ。前世が賢者だったとか剣聖だったとか、そういう人。もしかして祐之介さんもそうなんじゃない?
「そんなっ、だとしたら──」
だとしたら?
「女神vs人間の格差に気兼ねせず結婚できる可能性が!?」
いや、そこまでは知らないけど。
「よし! 善は急げ! 確認のためにも早速やってちょうだいパパ! わたしと祐之介とテンセをどっか適当な異世界に!」
わーい、ありがとうおねえちゃ……あれ?
まって! テンセはいきたくない! 別にテンセはいきたくないよ!?
「あははは、修行よ修行。あんたもちょっとくらい鍛えておかなきゃ。いつまたこのクソ
『本人の前でそれを言うとは、本当に強くなったのう娘よ……』
やだ! わたし、おねえちゃんみたいな脳筋になりたくない! あっ!?
「くくく、捕まえたわ。もう逃さないわよ。いいから東西南北全方無敗流免許皆伝のこの姉に任せなさい。あんたも魔王軍の幹部くらいワンパンで倒せるようにしてあげるわよ」
いやだあああああああああああ! たすけて、たすけてパパあああああああああっ!
「ごめん無理。ワシだって怖いもんは怖い」
う、うああああああああ、変な渦に吸い込まれるうううううううう!! なんかちょっとフローラルな香りなのがやだああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!
「さあ、待ってなさい異世界! 待ってなさい祐之介! スルーできなくなった今こそ、この女神イセカ様の魅力でメロメロにしてやるわ!」
一人でいってええええぇぇぇぇ……。
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