エピローグ
「やった、ついに魔王を倒した!」
「アタイら、勝ったんだな!」
『おのれ人間ども。だが貴様らの心に闇がある限り(中略)グオオオォォォ……』
──最終的に、なんか超でかい魔物になった魔王がボロボロと崩れ去っていく。まさか九回も変身するとは思わなかったわ。ちょっと舐めプしすぎでしょあんた。最初から第七形態あたりで出てきたら勝ててたのに。わざわざ細かく段階を踏むもんだから、こっちのパーティーも覚醒イベントを乱発することになったわ。このラストバトルでよ?
「ああ……俺達の勝ちだ!」
珍しく目の端に涙を浮かべた祐之介が頷く。うんうん、わかるわ。ここまで苦労したものね。ファンタジー世界ド初心者のあんたが少しずつこの世界のルールに慣れていって、仲間達と出会い、広い世界を旅して、最終的には魔王城の結界をあんたのアイディアでスルーして……。
あれ!? ちょちょ、ちょっとこれ、今までの長い冒険の旅路をスルーしちゃってない!? 回想で済ませようとしてるよね!?
なんでよ!? なんであの大冒険の描写までスルーさせられるのよ!? いったいなんなのよ、あんたのその能力!!
そもそもあんた、あたしが与えたゴミスキルの方は結局一回も使わなかったわね!? せっかく「鉄くずを十回咀嚼すると黄金にできる」っていう、わりかしよさげなスキルあげたのに!!
「あっ……」
祐之介の体が青い光に包まれた。わたしもだ。どうやら帰る時が来たらしい。
「そんな、もう元の世界に戻ってしまうの!?」
「ユーノスケ!! イセカ!!」
「早すぎます! せめて、せめてもう少しくらい──」
あああ、わたしだって帰りたくないよう!
でも、救った異世界に残るかどうかは勇者が決めるルールなの。わたしはこいつのオマケとしてついてきた身だから、こいつが帰るなら一緒に帰らないとならないのよ。
「さよなら皆。この世界の平和を、これからも守り続けていってくれ……」
祐之介が勇者らしいセリフを!? しかもそれ、あんた史上最も長いセリフじゃない!!
あっ、まずい、仲間の姿が遠ざかってく。わたしも別れを告げなきゃ。
ありがとうみんな! 楽しかったわ! あなた達ならきっとこの先も世界を守っていける! わたし信じてるから!!
ばいばい!!
「……」
で、超空間を通って元の世界に戻る最中なわけだけれど、こいつ結局わたしの存在だけは最後までスルーし続けたなあ。何年も一緒に冒険したくせに……。
あ~あ、現世の光が見えて来た。結局このまま終わりなのね。
「おい」
え?
「……」
祐之介が拳を突き出す。
わたしは苦笑して、その拳に自分の拳をくっつけた。
「じゃあな、イセカ」
「またね、祐之介。やっと名前呼んでくれた」
「……」
照れ臭そうに笑って、あいつは一足先に現世へ戻って行った。そして、わたしも懐かしの地球へ──って、あれ? ここ天界じゃん?
「よくぞ戻った、我が娘イセカよ」
「夕飯の前にお前に伝えておきたいことがある。まずは世界を救う使命のサポート、大儀であった」
はあ、それはどうも。話ってそれだけ?
「いや、以前から自分の名前が気に入らんと言っておっただろう。そこで新しい名前を考えておいた」
え?
「実はパパ、最近とあるゲームにハマッておってな。しばらく異世界
は?
「というわけで、お前の名前は今日からネイ・サンドレイクと改める! パパはサ〇ーと名乗るから夕飯を食べたら早速南米へ発つぞ!」
「ごめんねネイ。パパったら年甲斐も無くはしゃいでるから、しばらく付き合ってあげて」
ふ……っ、
「ふ?」
ふざけんなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!
──異世界でモンクとして鍛えられたわたしの右ストレートは、パパの奥歯を南米までカッ飛ばした。
以後、しばらくの間ひきこもって乙女ゲー三昧の日々を送る。
はぁ……やっぱり、わたしはイセカ・イオクールでいいや。
だからまた、あのスルーの達人みたいな誰かと一緒に冒険の旅に出よう。その方が馬鹿親父の気まぐれに振り回されるより何百倍もマシ。
もしくは自分で悪役令嬢にでも転生しようかしら? いや、わたしは乙女ゲーじゃなくギャルゲーのヒロインよね、やっぱり。
だってほら、ギャルゲーの主人公って、みんな
(終)
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